ミカヅキジンチョウゲ8
この出来事から二日後。ユカが行事から帰ってきた。学校帰りに再開して彼女から思い出話を聞く。最初から最後まで揚々と話し続け二人で笑いあった。登山が大変だったとか夜にハイキングに行って、普段見慣れない景色を見たとか。
「楽しくてよかったね」
「おにーちゃんは寂しくなかった?」
「そんなことないよ」
「やだやだ。ユカと会えなくて死にそうとかくらい言ってよ」
「言えばよかったかなあ。そういうのもあったし」
認めたい気持ちと認めたくない気持ちが半分ずつ混在していた。弱い人間ではない、そういったことだってあると切り抜けてみたかったと。
「寂しいとか。あんまり思いたくないんだよね」
「いつものあれですか、おにーちゃん。演じてるみたいな」
「そうかもね」
「思ってもいいよ。普通の人間と違うって思いたいんなら、私と普通じゃない存在になろうよ」
ユカの瞳がまっすぐと盟をとらえる。視線を外せない。
「二人で一つっていうか。居て当たり前で離れることがおかしいっていうか」
「ユカの全てがもらえるならもらいたいな。っていうかほしい」
核心的な部分へ踏み込む。盟とユカ、二人が過ごした時間が生み出したものと共有してきたもの。それらを表し未来に何を求めるかの話。
「オレも同じ」
「じゃあ、迷うことないね」
アハハハと2人で大笑いした。そして教材のことを切り出す。
「今後のことをどうしようかなって」
カリキュラム票を作ったのでユカに見せる。ある程度成績が高い状態を推移していることを考慮しながら、基礎をまとめながら少し内容を先取り知ることも考慮してみた。自分に教えられる知識の範囲であればすべて彼女に教えよう。
「やっぱり高校が近くなってるから内容びっしり」
プリントを見ながらユカが感想を述べた。彼が作った問題もある程度こなす。
「仕事としてお金もらっている以上はね」
この前の話について気にしていないわけじゃない。ユカ以外の受け持ちに回される可能性が出てきたし、これまで以上に考えることが多い。実際継続か否かを決定するのは彼女の両親でもある。
「ユカちゃんと一緒にいたいな」
「いるに決まってるのに。おにーちゃんらしくない」
「ユカちゃん」
「うん」
「正直に話すね」
彼女に、この前の話のやりとりをつげた。家庭教師の担当を別のことにさせられそうになっていること。彼女を信用していないことを指摘されたこと。
「サイテー。勝手にそういうこと言うなんて」
不快感をあらわにする。
「おにーちゃんの教え方を否定するみたいだし。上がっても下がっても絶対イヤな子散ってくるね」
心の奥底から嫌悪しているように見えた。
「だから、ある程度は成績を伸ばせる秘策みたいなものを作ってユカちゃんのご両親にそういう方向に傾かないようにしてたってわけ」
「押しに弱いところがあるから。そういうところも気にしないといけないよね」
風が吹いて、彼女の髪が揺れる。きめ細かい漆黒。盟の持っている輝くような金色の髪とは相反する色。
「おにーちゃんは絶対なのに」
制服の上からでもわかるような彼女の体つき。豊かな胸は盟しか見たことがないし感触は彼しか知らない。
「そうは思ってないし認めたくない大人がいるんだよ」
盟は、子どもだったということを突きつけられた。ここ数日、それを裏付ける出来事は多かった。見たくなければ見なくても。それができない。
「だから、会わないほうがいいとかも考えたんだけどね」
「そんなの絶対に嫌」
「よかった。じゃあ勉強しに行こうか」
起き上がると、彼女を立たせて図書館へ行く。彼にとって色のついた風景であり世界そのもの。
※
盟は考えていた。大学へ行く道すがら、ユカの教育内容について。大まかな恒星は機能説明した通りなのだが、何にどれくらい時間を使うか、どこまでやるかはこれから決めていくべき内容。彼の采配次第。
「あいつじゃね」
「初めて見た」
「信じられねー」
何か視線を感じるし、ひそひそ話しているのが聞こえる。考えすぎってこともあるだろうし気にしないほうがいい。今までそうやって過ごしてきたしこれからも一緒。特に変える理由も。
「よく来られるな」
「空気読めって」
気にしないつもりでいたが教室に入っても、声が止まない。わざと言っているのか目を合わせると意図的に逸らす。最前列の席に座りいつも通り始業になった。講師は何も言わないし、挨拶をしてからプリントを配り始める。うるさいのが淘汰されたらしくひそひそ言われているのはやんだ。仮にしゃべっても妨害する人間はこの場合、何においても正しくないのだから。
一コマが終わると、教室から人がはけていく。盟も校舎を出て、図書館に行くか中庭で昼寝をするかどっちにしようか迷っていると。
「君さあよく学校これたね」
西谷瑠伽だ。彼の前に立ちふさがった。いつもの浮足立った声ではない。冷徹で尖って相手を刺すような。盟にも覚えがある。そういう声になるときは。戦う時、相手をぶちのめすような状況。
「そりゃ、講義があるんだし。来るでしょ」
「そういうってことは、自覚ないんだね」
「何のことだか」
「ほら」
察しが悪い盟に嫌気がさしたようで形態の液晶画面を眼前に見せた。そこに写っていたのは数枚の写真。見慣れた青年、金髪で長い髪で美しい顔。それはつまり。
「オレか、っ!」
動揺したのはその次。一緒に写っているのはユカ。画質が荒いので確証は持てないが黒い髪に幼い顔は彼女。見間違えるはずがない。問題はその構図。寝転がっている二人以外にも、手をつないで歩く場面。
「妹、だと思ってたけど。違うよね。兄妹だとしても問題だけど」
「なんだよこれ」
「怪文書で出回ってるんだよ。たぶんキャンパスの人はほとんど知ってる」
訳の分からない記事に、見るに堪えない感想。盟が一番忌み嫌っていた人間の本性そのもの。盟に対して向けられていた視線と、うわさ話はこれが原因。
「信じらんねえ」
「君が言うことじゃないでしょ。中学生相手に手を出すとか、そっちのほうが信じられないよ」
偉そうに上から正論を言う。ここで反論しても時間の無駄。盟に有利になる要素なんて一つもなかった。決定的なものがないのに疑惑の段階でここまで言われるとは。
「君と話したことがマイナスになったな」
もう何を言われようと知らない。一度うわさになった疑惑は訂正できない。それがよくないものであれば広がるのはあっという間だ。特に、誰ともつるまずなつかずでここまできてしまった盟にすれば。愛想も人受けもよくない彼をよく思っていないものが多いとすれば、それは信じるほうに転がる。
「訂正するメリットも疑惑を明かすメリットもないのだから」
講義の残りはキャンセル、もといさぼった。いったん家に戻って今後のことを考える必要がある。それに加えて外を出歩けば危険が多い。もうこの状態では何が起きても不思議ではなかった。電車を一番早い方法で乗り継いで彼の拠点へと向かう。平日の昼間であること、ニュータウンであることがそろってこの時間はそんなに人もいないし彼を指さすような人はいなかった。何とか無事にマンションにたどり着くと。
「盟くん」
「このバカが」
女性が二人。ユカの母親ともう一人は盟の実母。最後にあったのはいつだったかもう思い出せないくらいあってなかった。正月だった気がする。
「母さん」
直後、殴られた。その衝撃で光が散った気もするしバランスを崩して廊下に倒れこむ。痛い。血は出ていないけども久しく感じていないし避けてきた感触。自分の親に殴られたのはこれが初めて。どれだけ厳しく接してきたとしても、暴力までは振るわれたことはなかった。
「あんた、人様の娘に何をしたの」
「勉強」
「とぼけんなよ!」
また殴られた。取り付く島もない。
「これが勉強だっていうの」
写真が盟のもとに投げ捨てられた。実の親なのにあの訳の分からない切り抜きで信じるなんてことがあるのか。弁解する余地が少しでも残っているはず。その考えは簡単にぶっ壊れた。写真の中身は彼が想像していたものではなかった。
「っ!」
さっき見せてもらったようなものではなくて。二人だけが知っている思い出。そして彼が世界の中でたった一つ、幸せだったと思えたこと。
「盟くんのこと信じてたのに。そういうことする子だったなんて」
ユカの母親の弥生が涙をぬぐう。なぜ知られているのか分からない。
「やっていいこととだめなことはこの年になっても分からないし、人様に迷惑かけるようなことして」
泣くし怒られるしこの世の終わり。
「これから話し合うから」
家に上げるよう要求され、飲むしかない。少ししてから盟の父とユカの父も来て互いの両親がそろって今後の話し合いが始まる。机の上に筆記用具を散らかしたままになっていたが触れる前に大人たちが、制してしまったことで一旦そのままになった。
「ここの部屋はすぐに契約切って実家に戻るから」
もう彼に拒否権はない。あらゆるものを盟は失った。アルバイトで稼いだ資金も株で得ていた利益も全て没収。講座も通帳も両親の管理下に置かれることになった。
「話し合いの結果ね、あんたもう彼女に会っちゃだめだから。大学もやめて田舎へ行くか国外留学で監視することにしたの」
「……」
反論するつもりもない。決まったことを覆すことは不可能。外出もしばらくは禁止される可能性がある。話し合いが起きた日には部屋に残っているものは妖しければ処分。そんなものは出てこなかったんだけど。
「選ぶ自由くらいは」
この家も売り払うか賃貸に出すらしい。なんでも父親の転勤の話がたまたま上がっていたらしく、それに乗っかった形。先に盟を拠点へ送り込んでみんな移動する。
「それにしても」
自室で、彼は一人考える。今回のことについて。誰がばらしたのか。どこから二人の関係がバレたのか。盟が全責任を負う形になっている。年端も行かない少女を騙した存在だとして。
「生きてるって」
外出禁止は少しだけ解かれた。ユカに会ったらアウトではあるが。電車やバスに乗ってはいけないという条件付きで。
「どうするか」
切通になっている区間がある。そこは鉄道の上を道路が走る形で立体交差しているわけだが、やり方次第では人が線路内に入れる。有刺鉄線を超える子なんてできるわけないのだが。
「死んじゃいたい」
策の隙間から見える電車を眺めながら、そんなことを考える。高速で走る場所であるので飛び込めば死ぬかもしれない。生きてる理由なんてもうなくなったのだし。ユカにも会えない、失ったものが多すぎる。決められないまま時間が過ぎた。
。盟は変わってしまったのだから。禁じられたことで遊び、その罰が今下っている。
「罰」
罪に対し、下されるものが罰。そうであるならば。ユカとの関係が罪になる。彼女と出会うことがなければ。出会っても深入りしなければ。こうはならなかった。
「否定したくない」
そんなのだけは嫌だ。ユカと出会ったこととか思い出まで間違っていたことにはしたくない。誰が何と言おうとこれだけは絶対に。もう御託はいらない。正直に言ってやればいいのだ。
―この記憶だけは奪わさたり否定したくないと。
結局のところ、一番楽なのは本音ですべて行ってしまうことだ。たとえそれがどんなに単純なことであろうと。分かりやすいことに形を変えれば自分に納得できるし、目的だって明確になる。
ならば生きるしかないのだろう。そうすれば解決しなければならない謎がある。うわさを広めたのがだれか。そしてなんの目的でこんなことをしたのか。突き止めたところで報復は恐らくできない。だが何のためなのか確かめたい。もうかからわず逃げのびるために。そして次同じ相手と対峙した時、今度は負けないために。
「戦闘開始」
盟に恨みを持っている人間が彼を陥れるためにやったという説。あるかもしれないが問題はいくつかあった。改めて振り返った時、盟からすれば心当たりが多すぎる。愛想の悪さと人付き合いのいい加減具合が知らない間に敵を増やした。売られたケンカをそのまま買いすぎた。
この線で相手を特定するのはほぼ無理だ。別の角度から考えることにした。写真を撮った人間がだれであるか。あの空間にいた存在。それ以上に。盟とユカしか居ない空間を映し出した写真を用意した人間。二人の持ち物にカメラを仕掛けた者がいる。
「誰かな」
盟のリュックがあの部屋にあった。だとすれば彼の私物。どれだったかを思い出して荷物を探る。変なところはなかったか。一回食事を共にしたことがあるし、その時ボールペンを受けといった。それが突き刺さっていた。その後、大人を部屋に入れた時カバンの中身を調べる余裕もなかったし、外側にあったものがなくなっていたのだった。つくづく迂闊だった。
「あれがなければ」
後悔しても遅い。あの男が罠を張った。まんまと盟は騙された。
「……」
このままだとまた通報されかねないので歩き始めた。こんどは公園。池があるのでボートを漕いだり鳥にえさを与える子ができる。知らない間に雨が降ってきた。傘を持ってきてなかったので雨宿りをして時間を稼ぐ。しかし雨量が多い。屋根の下にいても水が襲い掛かる。
「風邪ひくよ」
「伊原さん」
たまたま通りががかったらしい。なんでも彼の家に行くところだという。母親から一方的にアルバイトをやめるという連絡があったので、何事か気になったという。
「聞いたんですか、母さんに」
「いや。何にも聞いてないけど」
ああいう話をできるわけがない。
「でも、急に理由もなく辞めて、本人じゃなくて親が出てくる時点であんまりいい自体じゃないっていうのは想像できるかな」
「すいません、でも伊原さんをこれ以上巻き込むわけには」
「謝らなくていいって。お母さんとかにも聞かないほうがいいなら聞かないよ。でも傘はあげる」
そういって刺していたビニール傘を彼に渡した。カバンの中から折り畳み傘を取り出したが入っていたことを買った後に気が付いたのだという。
「君に会えたし。家に行くのはよしておくよ。何があったかは聞かないけれど」
盟が黙って彼を見つめる。無意識ではあるが何かにすがるような眼をしているのだがそれには誰も気が付かない。
「君の持っている能力そのものまで失ったわけじゃないはずだから。ここじゃないどこかで使えることもあるって」
「……」
「じゃあね」
手を振られたので、振り返す。来た道を違う傘を差しながら歩いていく。この先会うことはあるんだろうか。あっても今までと同じような会話は多分できない。
帰宅し、自室で寝ころぶ。大学へは退学手続きが取られたらしい。時期にこの家から退去することになる。どうするか。ユカと一緒にいたい。それは変わらない。しかし彼女自身がどう思っているかによって、変わってくる。一緒に来てくれるという意思があれば。
「……」
どこにいても、何をしていても逃げられる気はしない。見張られている。利用されるだけ利用されてそのまま終わり。盟に待ち受けている運命はそれだけ。彼女に出会うことがなければ。周囲の言われる通りのことしか多分やってない。美しい金色の髪を持ち目立つ少年ともぼーる少女ともとれる要旨。それだけで彼は金を動かせる。周りの大人はそうやって自分のもとに資金を流し込んでいた。
巻狩化に置くしかないのだ。何の感情もなければ盟は御しやすい。いっそのこと、自分の願いをかなえるために動くか。
「……」
逃げよう。誰の目にも気づかれない場所へ。諦めて命を差し出すという選択は取りたくない。生きてやれ。そう決断すると机の横に置いてあった、カバンを開いた。中身は小銭しか入っていない財布。だがそれだけではない。見えづらい箇所に縫い目がありその奥に目当ての品がある。誰も気が付かなかったのだから、それはあった。
「残ってるのはこれだけか」
通帳とカード、金品はすべて親に持ってかれた。表向きにあるものは。だが、盟の隠し口座として残しておいたこの通帳とカードだけは、持っていかれずに済んだ。この状況を予期していたわけではない。単純に分散して資産を管理していただけのこと。けれど今の彼にはこれがすべて。パスポートもここに隠しておいた。だから理論上は。
海の向こうに行くことも可能。というかそれしかない。もう彼に迷いはなかった。必要なものをそろえる。いらないものを捨てることも。
「掃除してるとはね」
部屋の本をすべて、売り払い必要な辞書以外は手元に残さない。もう未練なんかないのだから。どこから情報が流れだすかを警戒するんであれば当然だった。
「あ、いらっしゃませ」
母親がだれかと応対しているらしい。興味ないので無視していてると部屋に母親が乗り込んできた。ノックもしないでドアが開く。
「ちょっと顔出しなさい」
「誰が来てるの」
反論すると蹴り飛ばされた。バランスを崩して倒れこむ。手加減してない。
「疑問なんか持たないで、とっとと来なさいよ。立場考えたらこのバカ」
引きずり出されてリビングに通される。顔を当てなかったので特に処置は不要。そして顔を見て、驚愕した。内臓の奥が冷え込むようなイヤな感覚。
「やあ」
あの男だ。盟の行く先々で策を練っているのか知らないが浅間家と関りのある人物。
「お礼くらい言ったら。あんたのこと表向きにならないようにしてくれた人なんだから」
「いえいえお母様。彼にも事情がありますでしょうし」
絵に描いたような回答をした。本当に聞きたくない。
「お茶準備してくるから」
母親が部屋を後にする。残ったのは盟ともう一人。因縁の対決。
「大学辞めたそうだね」
「なんですかそれ」
いつ聞いても白々しいことを言う。ほぼすべてを失った状態の盟からすれば誰かと会って話すのも本当はしんどかった。
「でも当然か。少女をもてあそぶようなことをしていたのだから」
「たかだか写真程度で疑惑にされても」
「部屋で卑猥なことをすることがか」
「!」
「利用させてもらった」
盟が考えていたことが辺りだった。一番厄介な相手はやはりこの男だった。
「家庭教師の話もそうだが、朝間くんのところの話をすると君は様子がおかしかったから少し調べてみたが、やはりそういう関係だったとは」
「そうかあれも全部」
「食事をしたとき渡したものがあった」
カバンに刺さっていたポールペンのことだ。
「疑問に思わないところや警戒が薄いところ君も人を信じすぎるところがあるな」
「何を言って」
「騙しやすかったことだ。周囲と違うと思っていたんだろうが」
改めて提示されると非常にイラつく話だった。予想は最悪の形となって具現化する。
「浅間くんのところの娘か。彼女は非常に利用価値がある。それ以外に彼自身もそうだがこの先の展望を考えると余計な要素は排除しなくてはいけない」
「オレは邪魔だと」
「高校でトラブルを起こすような人間が関係していると困るのでね」
「……」
「間違ったことをした人間が幸せになろうという発想も許しがたい。部相応の生き方というものがあるだろう。私のように立場を持つことだな」
「ユカ……」
声にならない呟き。彼女をどうするつもりなのか答えは見えている。全てを思い通りに動かしたいだけで他はどうなろうと関係ない。盟が思い描いていた2人だけの世界。実現するには相手を動かして排除することも、必要だったかもしれないが彼にはそこに到達するだけの考えがなかった。
積極的に自分から行動を起こして攻撃を仕掛けなかっただけで彼は近づく人間から距離をとっていた。
「浅間くんは出世することが確定している。君たちが黙って退場すればすべてはうまくいくのだから」
にらみつけて無言の抵抗をした。
「社内の敵を倒すのも楽じゃないってこと。なんて言ってか忘れたか昔そんな人間もいたな。私に絶対子どもの情報を言わないから消されるんだと」
笑うが聞くつもりもない。そして母親がお茶を持って入ってきた。まずいしこの空間が耐えられない。その日の夜、世間の情報を知るためにテレビをつけた。すると意外な人物が移っていた。
「西谷」
盟が大学に行かなくなった後、彼女は知名度を上げた。青年の名前は表立って出ているわけではないが、不正を暴いた英雄だとか。とにかく彼女を称賛する声は後は絶えないばかりで、色んな番組に呼ばれるようになっていた。美人な若者で意見をはっきり言う存在を世間は求めていたということ。そんな中で盟の目に留まったのは。
「須崎!」
彼女の友人を紹介するという触れ込みで西谷が出ていた。そして友人としていっしょに番組へ出演していたのが須崎レイカだった。なんでも二人は同じ中学校で出会い仲良くなったという。転校して学期途中だった須崎を西谷が受け入れた話だったが今となってはどうすることもない。そして、彼女の父親の仕事関係で転校したらしい。昼間言っていた話とつながる気もするが。
「……」
直接的なきっかけを作ったのは違うにしろ、彼女の手を離したのは盟。どういうやり取りがあったのかは知らないが彼女が盟を知っていたことだって可能性としてはある。バタフライエフェクトともいうのだろうか。
違っていても今となってはどうでもいいことだった。彼には最初から分かたれたものだったということ。




