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9話 魔法使い


 俺達がクロモリ防衛局に滞在する期間は、満月付近の魔獣が活性化する期間だけだと最初の契約で取り決めていた。なにせ俺達には一か所に留まれない理由がある。それが何かと言われると、生来の性質というのが一番であるが、他にも理由がある。


 その理由の一つとして、他の魔法使いとの接触を出来るだけ避けると言うのがある。普通の魔法使いは魔法を行使するのに触媒が必要だったり、肉体的制限があったりするのだが、アルマにはそれが無い。いわゆる一般的な魔法使いとは異なる『魔人』という進化種に当たるのだ。


 制限なく魔法が使える魔法使いなんて、権力者、いや、普通の人からしても異物でしかない。だから俺達はそれが露見しないように、町から街への旅暮らしをしている……というのが更なる理由の一つだ。(昼間の殲滅戦ではそれが露見しないように溜めが必要とか理由を説明してから魔法を行使した)


 更に言うと、その魔法行使に関する性質から『魔法使い』と『魔人』は相性が悪い。


 片や貴重な触媒を使う上に体へ大きな負担を掛けて魔法を使う『魔法使い』と、何ら制限なく魔法を行使する『魔人』。どう考えても仲良くなれないのは自明の理だろう。


 一所に留まると如何しても他の魔法使いと接触する機会が生まれ、余計なトラブルを誘発する懸念がある……というのも旅暮らしをする理由の一つである。


 ――んで、昼間にカズラを消滅せしめた大魔法を行使できるのは、魔法使いの中でも『四精霊使い(エレメント)』と呼ばれる階位の大魔法使いであり、使用が禁止されているわけではないが厳重な運用が必要とされる魔法である。


 それを行使した事により、恐らくは俺達の居場所がワルプルギス機関(魔法使いの総本山とも呼ばれる組織)にバレた。


 本当なら面倒事になる前に退散するのがいつもの手ではあるのだが、今回は先立つものが無く、飢えて死ぬ事になるからその手は使えない。


 よって、その翌日、この国唯一のエレメントであるエレノアと、魔人アルマとの出会いは必然と相成った。


 因みにエレノアはワルプルギス機関の重鎮らしくきっかり豪奢なローブを着込んでおり、抜けるような白い肌に髪型もショートで綺麗に切りそろえられている。そして、アーモンド型の形のよい目からは、アルマに対して底知れない敵意が見え隠れしているのが伺い知れた。



「お久しぶりですわね、相変わらず下品で品性の欠片もないお姿ですこと」

「……まーたアンタか、そんなに会うのが嫌なら、ほっといてくれたらいいのに」

「そうわ行きませんわ。なにせアナタは『魔人』。いずこかで細々と活動しているならともかく、あのような大魔法を行使しておいて放って置く訳にはまいりません。抑止力としてワタクシが出張る必要があることは既にご存知でしょう。これでも忙しい身なので、大変不本意なのですが」

「ヒトを人間兵器みたいに言うんじゃないわよ。アンタみたいにすぐにヒトを見下す陰険女よりは随分と理性的なつもりだけど? アンタなんてたまたまエレメントの空席に座っただけで、実力も乏しいクセに、私を止めようなんて50年早いのよ!」

「ほほぅ、言ってくれますわね。ならば久しぶりの魔法合戦と参りましょうか。何時までもアナタの後塵を拝していたワタクシとは思わない事です!」



 会えばこのような感じで諍いが絶えない。得意とする魔法もアルマは炎で、エレノアは水だ。性格的にも相性的にも彼女たちは正反対で相容れる事は無い。


 ただ、放って置く訳にはいかないだろう。さっきからクロモリ防衛局の担当者の目が痛いし、本当に魔法合戦をされたら砦が崩壊しかねない。いつもこの二人を止めるのは俺の役目で、毎回、胃の痛い思いをさせられている。



「二人ともそこまでにしてくれるか? 君らの確執は知っているが、いまこの場で諍いを始める理由は無いはずだ。元気が有り余っていると言うのなら、砦の上から魔法を使って魔獣を仕留めた数を競うなりすればいい。どうしてもこの場で争うと言うのなら……俺にも考えがあるぞ」



 腰から黒木刀を抜いて二人に殺気を向ける。すると二人は慌てた様に攻撃態勢を解いた。



「いやね、冗談よ、冗談! 本気でコイツと争うことなんてあるわけないじゃない!」

「その通りですわ。アナタ様の言う通り、勝負事はどれだけ魔獣を倒せたかで競う事にします! ですからその物騒な物を仕舞ってくださいな」



 慌てる二人に本当だろうなという視線を向けると、揃って無言で縦に顔を振ったので、黒木刀を再び腰に戻した。


 以前、この黒木刀でコテンパンにのされたことを思いだしたのだろう。彼女たちは競うように砦の上へ向かって行った。


 彼女らに置いて行かれて溜息を吐く俺に、クロモリ防衛局の担当者が嘆息の息を漏らした。



「いや、凄いな、貴殿。魔法使い二人を相手にして完全に手玉に取っているではないか」

「本当の実力では敵わないんですけどね。二人とも理を以って話せば分からない人達ではないですから。誰かに止めて貰いたいというポーズを取っている所に、望んだ提案をしてやればあの通りですよ」

「……なんというか、複雑なのだな」

「そう……面倒くさくて複雑なんですよ」



 さて……あの二人が暴走しないように監督しないとな。理性的とはいったモノの、あの二人はヒートアップすると何をしでかすか分かったもんじゃないから。


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