6話 防衛戦
朝食を摂り終えた俺達は、早速砦の外へ出た。
どうやら囮役を任されているのは俺達だけじゃないようで、昨日知り合った『天懲組』の3人もいるし、そのほかにもちらほらと見知った傭兵たちがいる。
今から彼らと共同して防衛局の砦近くにまで魔獣を引き付けるのが俺達の仕事となる。ついでに言えば、防衛局員が倒しきれなかった魔獣を倒すのも俺達の役目で、なんともハードな役割を押し付けられている。しかし、その分、報酬は高く、贅沢をしなければ1年間は遊んで暮らせる額を提示されている。
命を懸けているのだから当然と言うべきか、そもそも生存率が低すぎて払うつもりが無いからなのか……何にせよ、とんでもなく難しい任務に間違いはないだろう。
「よう、アンタたちも参加することにしたんだな」
「そういう君達こそ……よくもこんな致死率が高そうな作戦に参加しようと思ったもんだ」
「なーに、そこはアンタたちが参加するって知ったからよ。アンタたちについて回れば死ぬ確率は低くなるだろ。それに報酬が魅力的でなァ」
「……もしかして、君ら全員、俺達について回る気か?」
「オウともよ! 『辺境の魔女』の実力、頼りにさせてもらうぜ?」
どうやらこの任務を引き受けた傭兵たち全員が、俺とアルマの後ろを金魚の糞の如く、ついて回るらしい。確かにそれが一番生存率が高くなるだろうが……致死率もそれなりだぞ?
まあ、作戦が始まってからは好きに動いていいと言われている。俺達についてこれるかどうかも実力次第だし、何をどうしようが彼らの勝手だ。
せめて邪魔をしないで欲しいなと思っていたら……魔獣の森の裾からかなりの数のアギトやゲキドが現れた。両者とも命を冒涜しているかのような醜悪な姿形だ。アレを生み出したドラゴンに美的センスは皆無と言って良いだろう。
「シグ、おしゃべりの時間は終りよ。まずは距離があるうちに私の魔法で一発かましてやるわ」
「頼むよアルマ、キミが頑張れば頑張るほど俺の生存率が上がる」
「そう言われたら……やるしかないわね!」
そう言ってアルマがふわりと宙に浮くと同時に、彼女の周りに八つの火の玉が出現した。それら全てが森から出てきた魔獣の方へ勢いよく飛んで行き……派手な音と共に着弾。大きな爆発を引き起こした。
うーん、壮観だ。
着弾地点からこちらの方へ、ちぎれた魔獣の破片がぼとぼとと飛んできている。
「……すっげえな、オイ。俺達の出番は無いんじゃないか……」
「いや、最初だけさ。あれだけの魔法を行使するにはそれなりの『溜め』が必要になる。頼りにはなるけど万能って訳じゃない。そら、魔獣の第二陣が出て来たぞ、仕事の時間だ。せいぜい走り回ろうぜ」
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そこからは地獄絵図だった。
俺達を喰らおうとする魔獣と、追いつかれまいとする俺達傭兵の死に物狂いの追いかけっこだ。無論、俺達を喰らおうと追う魔獣には、防衛局の砦から投石やら矢やらが降り注ぎはするものの、全てが命中する訳ではない。
追いつかれて喰われそうになったヤツを助けつつ、走り回るのは本当につらかった。
せめてもの救いは森から出て来る魔獣の大半をアルマが魔法で焼き払ってくれていることか。ボンボンと爆発が起きる度に防衛局砦からは歓声が飛ぶ。
いや、歓声を飛ばす暇があるなら、矢や石を飛ばして欲しい。こちとら本当に命がけで走っているのだから。
「これでっ、砦に取り付いた魔獣も殲滅しろとかっ、なんのっ、冗談だってんだっ!」
「まったくだぜっ、俺達にっ、死ねっていってるようなもんだ!」
「アンタ達、仲いいわねー、ちょっと妬けちゃうぐらい、息ピッタリじゃないの」
「そんなワケ、あるか! アルマッ、余裕があるならもっと魔獣に魔法を! 魔獣を後ろにフルマラソンとか、思った以上に体力も精神も削られる! 明日からフォーメーションを見直さないと、こりゃ駄目だな!」
「同感だぜ、グルカッ、エルスッ、ついてこれてっか!?」
『リーダーッ、待ってくれ、死ぬ、死んじまう!』
どうやら『天懲組』のリーダーを除く二人は限界が迫っているようだ。生き絶え絶えで涙を流している。俺はというと、少し余裕はあるが逃げてばかりと言うのも飽きて来た。ここは一つ、ストレス解消に大技を披露してやろうではないか。
「よし、君らは先に行って砦の裏側まで走れ、ここで俺が足止めをする」
「はっ? 何を言って……いや、わかった。よろしく頼む、お前ら、死ぬ気で走れ!」
他人を気遣っている暇はないと悟ったのだろう、俺を置いてツッタカターと『天懲組』が逃げていく。それに対して俺は寸前まで迫った魔獣にいつもの対集団技を放っていた。
『十二神将』――1秒に3回の剣閃を放つ技である。それによって大口を開いて俺を喰らわんとしていた魔獣共は全て斬り裂かれて地に堕ちた。
一瞬だけ静まり返る戦場であるが、戦闘はまだ続いている。
「アルマ、此処からは反撃に打って出るぞ。君の魔法や防衛局の弓矢や投石で魔獣は大分数を減らしている。掃討戦だ!」
「りょーかい! この時を待っていたわ!」
改めて見れば森の外に出ている魔獣は30匹程度まで数を減らしていた。この程度であれば、防衛局に頼らずとも魔獣を殲滅できる。稼ぎ時だ。