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5話 防衛局2


 翌朝――


 日が昇る前に目が覚めた俺は、夜間の防衛局の態勢についてどのようなモノか興味があって、散歩して回ることにした。一応、アルマにも声を掛けようかと思ったが、彼女は無理に起こすと機嫌が悪くなるのを知っていたから、そのまま起こさずに一人で出かけることにした(因みに男女別室である)。


 松明が灯された廊下を一人で歩いていると、遠くから魔獣と戦う者達の声が聞こえて来る。それにつられて俺は砦の上の方へ行く道を歩いて行った。



 砦の上に出ると、ひときわ大きな松明が燃え盛り、周囲を明るく照らしていた。そして、多くの兵士たちが森から出て来る魔獣に対し、石や矢を放っている。


 俺は彼らの邪魔にならないよう、気配を消して城郭の隅の方へ移動した。


 兵士の練度は……かなりのものと言ってよいだろう。少し観察してみたが、夜で視界が限られていると言うのに放った矢は2本に1本が命中し、投石も同じような命中率で魔獣を殺している。


 これならば囮役として戦場を走り回っても、間違って射掛けられることは少ないのではないか――



 それにしても満月が近いからか、森から出て来る魔獣の量が多い。ざっと見える範囲で20、いや、30は居るだろう。今いる兵士たちは頑張っているが、魔獣が砦へ取り付かれている場所もある。


 そんな事を思って見ていたら、城塞を登って来たアギトが一匹、砦の上に躍り出た。


 俄に辺りが騒がしくなる。


 どうやら今の時間帯は弓兵が主体で、近接戦を行う兵士が少ない様だ。咆哮するアギトに対して弓を構える兵士は居るが、その構える弓が震えている。


 仕方がない、時間外だが助けてやるか。


 俺はざわめく兵士たちの間を糸を縫うように移動し、アギトの真正面に躍り出た。そして、飛び掛かって来たアギトを上から下への斬撃で叩き潰すと、その遺骸を掴んで砦の外へ放り投げる。



「貴様っ、何者だ!」

「傭兵だよ。昨日から雇われている。警戒する気持ちは分かるが、その矢を向けるのを止めてくれないか。臆病者でなんでね、手が滑りかねない」



 昨日、担当者から預かった傭兵徽章を掲げてみせると、俺が味方だと納得してくれたようだ。礼を言って自分の持ち場へ戻っていく。


 うん、こういう切り替えが早い所も好感が持てる。これが自警団に毛が生えたような防衛局だと、尋問されていたかもしれない。そうなったらアルマが暴れて大変な事になっていただろう。


 なんにせよ、早朝の散歩はクロモリ防衛局の兵士の練度を見るという目的を果たせて成功だった。



---



 そのまま夜が明けるまで城郭上に留まり、偶に上がって来る魔獣アギトを叩きのめしたり、石を投げたりして夜勤の兵士を手伝っていると、大分打ち解けてくれたようで、一緒に朝食をと誘われたが、置いてきたアルマの事を考えると不機嫌になりかねない。丁重にお断りして自室に戻った。


 すると、俺に割り当てられた部屋にはアルマがいて、不機嫌そうな表情で出迎えた。



「どこ行っていたの、シグ。私を置いて」

「……朝の散歩だよ。ついでにクロモリ防衛局の兵士の練度を確かめるべく、視察もしてきた」

「そう……真面目ね。だけど、そう言う事なら私に一言あってもいいんじゃない?」

「ああ、悪かった。けど、久しぶりに屋根のある寝床で寝て、ぐっすり眠っていたようだから、起こすのは忍びなくてね……」

「……シグの言い分は分かったわ。けど、次からは起こして頂戴ね。私たちは相棒なんだから」



 どうやら俺の勝手な行動はアルマの機嫌を損ねてしまったようだ。彼女が寝ている間に戻れたらよかったんだが、つい迎撃戦に熱が入って時間の経過を忘れてしまっていた。


 宙を飛んで俺の首に腕を回して抱き着いて来るアルマに、悪かったなと告げながら頭を撫でる。そうすると、回した腕で首をきつく締めあげて来て……降参を示すために腕にタップを2回行った。


 するとアルマは気まぐれの猫のようにするりと身を離し、隣へ着地して、改めて腰に手を回して抱き着いて来る。なんというか、本当に猫を相手にしているみたいで微笑ましい。これが『辺境の魔女』と呼ばれる、凄腕の傭兵と言っても、今の状態からは想像もつかないだろう。


 そうこうしている間に、朝食と思われるいい匂いが漂ってきた。



「さ、アルマ、食堂へ行こうか。散歩がてら、ちょっと運動をした所為か腹が減っているんだ」

「むー……美女に抱き着かれているのにその薄い反応はどうなの? ……まあいいわ、下手に色に目覚められるよりは食に集中して貰えていた方が都合がいいし」

「なにをブツブツと独り言を言っているんだ? 置いて行くぞ」

「はいはい、今行くわよ」



 こんな感じが俺達の日常――平常運転だ。


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