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3話 試験


 集められた俺たち傭兵は砦の裏側に集合させられていた。


 クロモリ防衛局で傭兵仕事をするにあたり、どうやら試験を受ける必要があるようだ。集まった俺達、数十人の傭兵を前に、砦から出て来たエライさんが気勢を上げている。



「まずは我らの窮地に参じて頂けたことに感謝を申し上げる。ただし、此度の戦はかなり厳しいものとなるだろう。我らが求める人材は一騎当千の兵であって、初心者は不要だ。我らとてあたら命が散っていくのを見たくはないからな。であるからして、君達には最低限の実力がある事を示して貰いたい。今から半日の時間を与えるので、刻限までに魔獣を一人一匹狩って持って来て貰いたい。それが出来ない者はこの場から去ってもらう!」



 ……なるほど。ただ飯喰らいは不要というワケだ。集まった傭兵の中で2割ぐらいの者達から不平不満の声が上がっているが、恐らくは初心者ビギナーだろう。残りの8割の者達に睨まれて静まって行く。


 確かにこの戦は随分と激しいものになりそうだから初心者は不要だろう。自身の命を失うだけならともかく、ベテランの足を引っ張って死に導く……という事が往々にしてあり得るのだ。せめて魔獣の一匹だけでも自分の力だけで狩って見せろというのは妥当な提案だった。


 それを理解していない初心者だろう約1割の人間はこの場から去っていった。しかし、残りの1割は震えながらもこの場に残っている。


 蛮勇か、はたまたこれを逃すと食い詰めることになるからか……いずれにしても俺達の知った事ではない。魔獣との戦いは一瞬の気の緩みが命取りなのだ。報酬があるならともかく、初心者の御守を進んですることはしない。



「魔獣の死体が必要なら、さっき倒したゲギドを持って来てたらよかったわね」

「俺のはいいが、キミのは灰になっていたから判定は難しいと思うよ。いずれにしてもまた魔獣の森に立ち入る事になっていただろうさ」

「そっかー……ケド、私ってば炎系の魔法以外はちょっと苦手なのよね。上手くやらないと」



 苦手、ねぇ……元は『四精霊使い(エレメント)』の階位に在った魔人が何を言っているのやら。しかし、他の魔法が苦手と言うのは本音だろう。危うく吹き飛ばされそうになった事が多々あるからな……。せいぜい、彼女の魔法に巻き込まれないようにしないと。



---



 そんな訳で俺達は砦の正面にある魔獣の森の中へ移動した。現在は魔獣の活動が活発になる満月近くであることから、そこらかしこから唸り声や咆哮が聞こえて来る。


 というか、森の中に入っているのは俺達だけで、他の連中は森から出て来る魔獣を狙ってか外で待機しているようだ。事実、外で魔獣を待つ方が命を落とす確率は減るだろう。活性期に森の中へ入る俺達が異常なのだ。


 しかし、実力に自信があって、手っ取り早く課題をクリアするには自らを囮に森の中へ入った方がよい。



「いや~、シグの事だから森の中に入って狩りをする事は予想していたけどね。勿論、私の事は守ってくれるんだよね?」

「いつもの通りだよ。俺が囮となって魔獣を引きつけたら、キミが空中から魔獣を魔法で蹂躙する。君を守る要素なんて何処にもないけど……むしろ、俺が君に守ってもらう方だ」

「そこは、『君の事は俺が護る!』って言って欲しいかな」

「……次からは、そう言うようにするよ」


 

 そんなぞんざいな言葉であっても満足したようで、アルマは俺を置いて空中へ飛び、いつ魔獣が出て来てもいいように備えた。俺も腰に有った黒木刀を抜き放ち、いつでも魔獣が飛び掛かって来てもいいように精神を集中する。

 

 果たして、その場の戦の気が十分に満ちると同時に魔獣が飛び掛かって来た。


 小型ながらに殺傷力は凄まじいものを備えている魔獣アギト――ミツクリザメに四肢が生えたような魔獣――を黒木刀で叩き落とす。


 その飛び出た顎に噛まれたら腕や足をそのまま持っていかれるから、避けるか、迎撃するかしか選択肢がないが、こうも数が多いと対応が難しい。


 現に、真後ろからの飛びつき攻撃に後れを取りそうになったその瞬間――俺を襲おうとしていたアギトがその姿のままで上から降って来た氷の刃に刺し貫かれた。


 アルマの魔法だ。一匹だけではなく、次々と降り注ぐ氷の刃がこの場にいるアギトを殲滅していく。


 助かる――そんな言葉をアルマに投げかけたかったが、未だ数匹のアギトが俺を食い殺そうと飛び交っていて言葉を発する余裕が無い。


 ここは一つ、俺も本気を出すべきだろうか。彼女だけにいい恰好はさせていられない。


 集中していた精神を更に研ぎ澄まし、体の奥底から何十万回もの反復練習の末に習得した対集団技を取り出し、解き放った。


 『十二神将』――その一秒に三回の剣閃を閃かせる技は、残ったアギトを一瞬で殲滅した。



「ヒュー、やっるじゃない。久しぶりにその技を見たわね。確か……十二神将とかいうんだっけ?」

「確かにそういう技名だよ。先達が作って伝承され続けている対集団技さ……どうやらこれよりも凄い上位技があるらしいけど、俺はまだ使えないんだ」

「ふ~ん……まあ、この場を切り抜けるには今の技で十分でしょ。でも、私の為に早く使えるようになってね」



 簡単に言ってくれる。しかしまぁ、アルマの言う通りこの場を切り抜けるのには十分だ。魔獣が集まってくる前に森から出ることにしよう。


 俺は木刀で叩き殺したアギトと、氷の刃に貫かれて絶命しているアギトの二匹を掴み上げると、アルマを伴って森から出た。


 そこには森から出て来た魔獣と戦闘を続ける傭兵たちがいて地獄絵図を作り出していた。地面に伏して切断された四肢からだくだくと血を流しているのは初心者だろうか。そんな瀕死の者に集る魔獣に何とか殺そうと武器を手にして掛かって行く者達。


 骨肉相食むとはこのことか。


 どうやらもうベテラン連中はこの場から引き上げたようで、残っているのは初心者と俺達だけのようだ。そして、俺とアルマは目的を達している。


 生き残ったらまた会おう。


 そんな冷たい言葉を頭の中で告げ、俺とアルマは砦の方へ歩んでいった。


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