23話 エピローグ
この神魔刀の所持者たる『初代様』、それはもう伝説的な存在だ。エレメント階位の魔女をも凌ぐ戦闘力を持ち、我らが魔女の騎士の剣術基礎を作り直して中興の祖となった人物だ。
なによりも俺の持つこの神魔刀――俺はまだその全ての能力を解放しきれていない――それを全開放して戦闘した時はドラゴンにも勝ったとかなんとか。
いわば俺達、魔女の騎士の聖域に当たる人物で、そのヒトが直接ドラゴンと話をして、かの神魔獣が星の観察官だというのならそれを疑う余地はない。
「シグ、ついでに教えてあげる。貴方がその神魔刀を魔女の島を出る時に没収されなかった理由、それは魔神となった私の護衛者として旅をすることになった時に必要だからよ」
「え、そうだったのか? 俺はてっきりアルマが魔獣と化した時にこれで討ち取れという理由で没収されなかったと思っていたんだが」
「無論、そういった意味もあったわ。だけど、その神魔刀は更なる困難な旅をするために持たされた使命の品であり、餞別の品でもあるのよ」
はあ、なるほど……たしかに、魔獣化した魔女を討つだけなら他の武器でも十分に事足りる。じゃあ、その更なる困難な旅と言うのはどんなものなのか? 先ほどエレノアが言っていたドラゴンへ人類の可能性を示すとは具体的にどのような事をしなければならないのか?
それを聞くとアルマが心底憂鬱そうな表情になって、その方法を宣った。
「これから私たちは、この星に現存する全てのドラゴンに会いに行かなかければならない。そして、全てのドラゴンと戦い、虹色の枝を取得する必要がある。それが人間が歩みを止めていないと言う証明となり、再度の地軸逆回転を止める証となるの。それが魔神となった私の使命であり、その騎士たる貴方――神魔刀を持つ者の使命でもあるのよ」
「げぇっ、全部のドラゴンと戦い……虹色の枝を手に入れろって!? この前戦った時、エレノアがいてもギリギリだったってのに、アルマと二人であの化け物共から虹色の枝を奪取しろとか……すんごく難しくないか?」
「そう、とても困難な使命なのよ、私が憂鬱になる理由……分かってくれたかしら?」
それはもう嫌と言うほど……またあの命を懸けた戦いをしなければいけないとなると、胃の奥がきゅっとするような思いだ。しかし、まあ理解はできた。あんな化け物相手に戦って虹色の枝を得るなんて事が出来るのは魔女では力不足……その上位種たる『魔神』にしかできないことだろう。それがヒトの可能性云々になるのかは不明なのだが、それはこの先の旅路で追々聞いていけばよい。一気に聞くにしては重たすぎて頭痛がしてきているしな。
「さて、話は終わりましたか? ワタクシはこれから個体名:クロモリの虹色の枝を収めに魔女の島へ出向かなければなりません。また、此度の経緯やアルマさんが魔人から無事に魔神へと昇格を果たした事の報告も必要でしょう……何か他に託はありまして?」
「いいえ、私は特に何も……他のエレメント連中にヨロシク伝えて頂戴な」
「俺も特には……報告ついでに無事に使命を果たしたと、月の巫女様にお伝えください」
「分かりましたわ。では、次に会う日まで――ごきげんよう」
そう言ってエレニアは虹色の枝を手に、あっさりと俺達の目の前から去って行った。
さて、これから俺達は何処へ向かうべきか……使命とやらに殉じるなら、直近の他の魔獣の森へ向かうべきなんだろうが、戦い続けた事と、アルマの魔獣化を解いたことによってある種の緊張化が解け、精神的な疲労が溜まっていると感じている。
金銭的な面としては、クロモリ防衛局から防衛報酬として十分な報酬を受け取っているから当面の間は傭兵としての責務からも解放される。
「さて、アルマ、これからどうする? 俺としては、ここは一つ、温泉にでも出向いて疲れを癒すと同時に、次の使命に向けての英気を養うというプランを取りたいんだが……」
「そうね……此処のところ戦い続きで私も疲れたわ、シグ、この辺でいい温泉が湧いている所を知ってる?」
「それならこの近くにヨグの邑っていう、観光地、兼、温泉地があるらしいぜ。まずはそこへ向かうとするか……?」
「いいわね、採用!」
腕を絡めて来るアルマに苦笑しつつ、俺達は歩き出す。
この先、困難と呼べるものは幾らだってあるだろうし、実際に牙を剥いて襲い掛かってくるだろう。しかし俺とアルマのコンビなら何とかなるという漠然とした予感がある。
それは長年、相棒を務めた信頼感から来るものであるし、実際に苦難を共にして乗り越えて来たことから来る達成感から来るものだ。
俺達ならどこへ行っても大丈夫だ。
ー 完 ー




