22話 真実
――さて、アレから3日間の時間が過ぎ、怒ったドラゴンがクロモリ防衛局へ差し向けて来た魔獣も粗方倒し尽くした。そろそろこの土地から去る時が来たかなと思う。
虹色の枝の探索に向かうにあたり、防衛局長と約束していた後始末はこれで終わった。
なにより、今まで魔人化の症状を抱えていたアルマが、『黄金の果実』、さらには『虹色の枝』を得る事で魔神となり、魔人化の症状を克服した事で俺達が旅する最終目的を果たすことが出来た。
傭兵である俺達がクロモリ防衛局に留まる理由は何処にもない。
これから先は、魔人化の治療方法を探すという目的に縛られることなく、自由に旅をして好きなように生を謳歌できるようになったのだ!
……しかし、そんな未来に向けて希望が一杯な俺とは反対に、アルマは、そして何故かエレノアも憂鬱そうな顔をしていた。
もしかして魔神化するにあたり、俺の知らない情報があるのだろうか?
「いやまあ……そうね。魔神となったことで、魔獣と化すというリスクからは逃れる事ができた。けれど魔神化したことで生まれた新たな課題というものがあるのよ。これはエレメント階級以上の魔女しか知り得ない情報だから、シグが知らないのも当然の事なのだけれど」
「ワタクシからも少し補足しましょう。アルマさんに魔人化の症状が出たことで、アナタたち二人は故郷である魔女の島から追われ、果て無き旅路に出るように仕向けられたと思っておいででしょう。しかし、それは違うのです。魔人化を治すためには、こうして魔獣の森を巡り、黄金の果実と虹色の枝という二つの禁断の果実を得る必要があった。即ち治療として旅に出る必要があったのです」
なんだろうそれは……俺はてっきり故郷のワルプルギス機関に見捨てられて、希望の無い旅路に出たと思っていたと言うのに、それは既定路線だったという事なのか?
「ゴメンね、シグ。私が無事、黄金の果実を得て『精霊化』し、果ては虹色の枝を得て『魔神化』出来るかはとても確率が低い賭けだったの。だから表向き追放と言う体裁をとった。そのまま魔獣化して貴方に討たれるという未来も十分に有り得たのよ。事実、もう少しと言うところまで私は追い詰められた。だから貴方をそんな細い希望で縛るわけにはいかなかった」
「ですが、アナタたちは賭けに勝ちました。偶然にも黄金の果実を得、そして更には虹色の枝をも得たことで魔神と化すことができた。魔神は魔女とは比較にならない力を持ち、また、その力の行使に何らリスクを持つことがない、超人類と言って良い存在です。本来なら魔神を縛る事なんて誰にもできない、しかし、そんな魔神にしか出来ない事がこの世にはあるのです」
なんだか話が壮大な事になりそうな予感がヒシヒシと伝わって来る。俺達の旅の終着点は魔獣化を治す事ではなかった? だとしたら、この先にどのような目的で旅をして、何を強いられると言うのか?
「端的に申し上げましょう。これからシグルズさんとアルマさんには……再度の地軸逆回転を止めるための旅路に、星の観察官である全てのドラゴンへ人類の可能性を示すための旅路に出て頂きます」
「ドラゴンへ人類の可能性を示す? 星の観察官? 再度の地軸逆回転を止める!? な、何を言っているか全く分からないぞっ、壮大すぎて頭が追いつかない。もうちょっと噛み砕いて説明をしてくれないか?」
「わかったわ。此処からは当事者になる私から説明するわ」
混乱する俺の前にアルマが立つ。普段のおちゃらけた様子を微塵にも感じさせない、賢女がそこには在った。
「まずは理解して欲しいのだけれども、私たちが戦ったドラゴンは単なる魔獣でなないわ。その身はこの星の触覚にして、人類を観察せしもの。人類が成長を止めた時、地軸逆回転を引き起こして文明をリセットする事を判断する、いわば、この星の観察官なのよ」
「いや、ドラゴンが普通の魔獣じゃないってことは確かにそうだと思うけど……流石に星の観察官てのは話が飛躍し過ぎじゃないか? まだしも単なる敵対生物と言われた方がしっくりくるが」
「黙って話を聞きなさい。単なる敵対生物があんな馬鹿げた力を持っているワケがないでしょう? それにドラゴンと戦った時、アレに知性を感じなかったとは言わせないわよ」
それは……たしかに。こちらの手札に反応して、次々と対抗して来る手段を編み出してきたのは記憶に新しい。
「それに単なる敵対生物が、『銀色の草花』をはじめとする人類に恩恵を与える禁断の果実を生成する理由なんて何もないよね。魔獣の森から出て来る魔獣も倒せば凄いお金になる事はシグも知っているでしょう? 見方を変えれば人類に試練を与えて、乗り越えた者に恩恵をもたらしている――そうは思えない? 無論、試練はその恩恵に比して難易度は変わるわ。例えば『銀色の草花』であれば魔境たる魔獣の森の探索。『黄金の果実』であれば大魔獣キョジンの討伐か、ドラゴンの住処まで辿り着くこと。『虹色の枝』であればドラゴンが直接相手をして品定めを行う……分かってきたかしらね?」
なるほど……確かに。しかし、それは単なる推測の域を得ないのではなかろうか? ドラゴンが直接そのような事を言ってきたのであればともかく……単にエサで以って人間と言う生贄を釣っているともとれるし……。
「そうね、だけど実際に確かめた人がいるのよ。シグルズ……貴方が持つ神魔刀。その交感機能を用いて直接ドラゴンと話をした人が……『ルート・トワイス』――貴方になら『初代様』と言った方が伝わりやすいかしらね」




