20話 魔神転生
凄まじい爆風が巻き起こる中、アルマは高度を下げて、俺とエレノアを地上に降ろしてくれた。ここまでは打ち合わせ通り、そして此処から先は虹色の枝を得るまで全員が別行動だ。
幸いな事にドラゴンの直近には他の魔獣がおらず、何故か多くの黄金の果実が転がっていた。これも事前情報通り。
森の開けた場所に鎮座するドラゴンに気付かれないように俺とエレノアは潜伏し、まずはアルマのエナジードレインで様子を見るよう前打ち合わせしていたが、今のところ上手く行っている。
爆風が過ぎ去った後、件のドラゴンは機嫌が悪そうに唸り声を上げ、精霊化したアルマに視線を合わせて再び口から白い光のエネルギーを吐き出した。
対するアルマも戦術級魔法を放ち、ぶつかり合ったエネルギー同士で再び巨大な爆発を引き起こした。
正直なところ、アレがいつまで続くかは分からない。
巨大な森の頭脳体であるドラゴンのエネルギーがどれだけ蓄積しているか不明だし、エナジードレインをしながら戦術級魔法を使うアルマがどれだけ戦術級魔法を行使し続けられるかも不明だ。予備としてエレノアを連れて来てはいるが、事を急いだ方が良いだろう。
俺はドラゴンに気付かれないように森の中を迂回して走る。
改めてドラゴンを見れば見るほど圧倒的な体躯をしている。大魔獣キョジンも大きかったが、ドラゴンはそれ以上だ。
頭だけでキョジンくらいの大きさはあるし、胴体を含めたら防衛局の砦の端から端まであるんじゃないだろうか? それがとぐろを巻いており、高さは50mくらいはあるかもだ。それを後ろから気付かれないように駆けあがって行くと言うのは無理があるんじゃなかろうか?
しかしやるしかない。いま、正面ではアルマが必死にエナジードレインと戦術級魔法を駆使してドラゴンの気を引いているのだ。たかが50mの体躯を駆けあがる程度で泣き言を言ってはいられない。
はたして何度かの爆風で吹き飛ばされそうになりながらも、俺は虹色の枝がある頭頂部まで到達することができた。
近くに居るだけで疲労が回復していく圧倒的な存在感がある。虹色の枝は……この、大木から分かれて生えている枝みたいなヤツを切り取ればいいだろう。
俺は祖霊に祈りを捧げて神魔刀を抜くと、一振り、二振りし、予備も含めて二本の虹色の枝を切り取った。
ドラゴンが不快そうな唸り声を上げて此方を振りむこうとするが、アルマが連続の火炎弾をドラゴンの顔に叩きつけて、それを許さない。
その隙を突いて、俺はドラゴンの体を駆け下りた。行きとは違って両方の手に虹色の枝を持っている所為でバランスを取るのが大変だったが、何とか転ばずにドラゴンの体から地面へ到達する。後はこれを持って逃げるだけだ。
問題はドラゴンがそれを許してくれるかどうかだが……。
角を斬られたことでよほど頭に来たのか森の端々まで届くような咆哮を上げるドラゴンに、見逃してくれる事を期待するのは無理そうだ。しかし、俺達もせっかく虹色の枝を手に入れたのに殺される訳にはいかない。
そんな中、いずこかに隠れていたエレニアが俺の前に姿を表した。
「シグルズさん、虹色の枝を手に入れたのですね!? であれば、それをアルマさんに渡してください。彼女の核にそれを突き刺せば『精霊』から『魔神』への羽化が始まります。それであればいくらドラゴン相手と言えど、圧倒できるはず。時間はワタクシが稼ぎますので!」
「!? そう言う事は事前に教えておいてくれよなっ、と、とにかく、これをアルマに渡せばいいんだな?」
返事はなく、エレニアがドラゴンへ立ち向かっていく。逆に、ドラゴンと戦って体が点滅しているアルマが俺の方へやって来た。
『シグッ、不味いわ、魔法を使い過ぎて意識が保てなくなりつつある。早く、その虹色の枝を!』
「あ、ああ、分かった。元よりアルマに渡すつもりで用意したモノだからな!」
俺は手にした一本の虹色の枝をアルマに渡した。
すると、アルマはその虹色の枝を自らの『核』へ突き刺した。なんの躊躇いもなく、ずぶずぶと突き刺して虹色の枝を取り込んでいく。
そして、それがある深さまで達した時、強烈なルビー色の光を放った。
それは先ほど見た戦術級魔法の煌めきを何十倍にした輝度があったが、不思議と目を焼かなかった。だから……彼女が肉塊の殻を破り、羽化するのがはっきりと見えた。
ルビー色の輝きが収まり、羽化が終わった彼女は空中から地上に降り立って、唖然とする俺を前に仁王立ちで宣言する。
「エレメント元第一席、炎のアルマ――いいえ、私は生まれ変わったわ! 炎の魔神アルマ、ここに爆誕したわ! やっぱり肉体があるっていいわねー、頭がすっきりして気分もイイ! そこの生意気なドラゴン、ぎったんぎったんのぼっこぼこにしてあげるんだから、覚悟しなさい! あーッ、はっはっは!」
……いい歳の娘さんが素っ裸の大股開きで何を言っているんだ。やたらと綺麗で魅惑的なアレが、哄笑と共にぶるんぶるんと揺れていて、変な気分になって来る。
その変な気分が最高潮になる前に、俺は背嚢から予備の服を取り出して、銀髪褐色の変態女に投げつけたのだった。




