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19話 ドラゴン


 作戦決行の新月まで、俺達は何もせずに過ごしていたわけではなかった。


 虹色の枝の採取を行ったことに対して、もし、ドラゴンを怒らせてしまった場合に満月時のようなキョジンを差し向けて来る可能性があるから、それに何とか対応するようクロモリ防衛局のエライさんと協議を行ったり、対ドラコンを想定した戦闘訓練を行ったりで時間は過ぎて行った。


 そして新月の日。


 晴れ渡る青空をバックに俺達三人は準備した装備を手にし、その時を待っていた。



「そろそろ行こうか。アルマ、負担を掛けるけど、いいな?」

『勿論よ、練習もしたし、しっかり捕まって振り落とされないようにね。エレノアも準備はいい?』

「ワタクシはいつでも……ブランコ方式で安定感は皆無ですが、直線的に飛んで行けば25km程度なのでしょう? 時間としては30分程度として、まあ、大丈夫だと思いますわ。いざとなればワタクシも飛ぶことができますし」



 俺達はアルマの核にしっかりと何重にもロープを掛けると、それに繋がった底板に腰を掛ける。そしてアルマの合図とともに浮かび上がった。


 あまり経験のない浮遊感に震えつつも、しっかりとロープを握る。すると、アルマは急上昇して防衛局砦や魔獣の森の木々よりも高く高く飛んだ。無論、その下にある底板に腰かけた俺達も同じように高く飛ぶ。



 ああ、コレが魔法使いが空を飛ぶ時の視点なのか!



 俺は今まで見たことが無い、上からの下を見下ろす視点に感動を覚えた。


 当然だけれども地上に居る時よりもずっとずっと遠くを見渡すことができて、いつも立っている地上は凄く遠い。森の木々は針のように細く、流れる川は糸のようで……まるでカミサマにでもなったような気分だ。


 なるほど、今俺は確実に空を飛んでいるんだなと実感を覚えた。



「アルマ! すごいなっ、これが普段、お前たちが見ている風景なのか!」

『ええ、そうよ。そっかー……こんなに感動するんだったら、もっと早く体験させて上げればよかったわ』



 無論、これから行う作戦を忘れたわけではない。しかしこの世界が平坦ではなく、僅かに丸く歪曲しているのを見ると、自分がこれまで見ていた風景はほんの一部だったんだなと分かり、興奮してしまっていた。



「シグルズさん、興奮している所を申し訳ありませんが目標地点が見えてきました。何らかの妨害が予想されますのでしっかりとロープを掴んだ方がよいですよ」



 気が付けば、結構な距離を飛んで移動していた。


 眼下と言うにはまだ遠いが、森の中にとても大きく開けた場所があって、そこには今までに見たことが無いような魔獣が鎮座していた。



「あれが……ドラゴン」



 頭部は馬というか鰐というか奇妙に合体した形状をしている。そして全身は大蛇のように長く、鱗に覆われており、尻尾は地面に埋まっているというか……魔獣の森と直接繋がっているように見えるのは錯覚だろうか? 特徴的なのはその角で、鹿のように頭から二本生えているそれは虹色に輝いており……ああ、あれこそがドラゴン、そして、虹色に輝く枝の正体なのか!!



「その通りですわ。地下からは龍脈という名のマントルエネルギーを吸い上げ、地上においてはヒトを始めとする全ての有機生命体の血肉を喰らい成長する巨大生命体」

『この地に生る禁断の果実は生贄を釣る餌であり恩恵というわけよ。まさに、千の民に犠牲を強いて万の民に恩恵を授けるという、この国における別れの神話を体現した魔獣。いえ、アレを単に魔獣というのは不敬でしょう――『神魔獣ドラゴン』、個体名をクロモリ。それが彼の魔獣の名に相応しいでしょうよ』



 確かに……あれほど雄大で美しい生命体に単なる魔獣の名は相応しくないだろう。『神魔獣』とはよくいったモノだと思う。


 問題は、やはりかのドラゴンが起きており、こちらに明確な敵意を向けている事だろう。どうやら事前の打ち合わせ通り、ドラゴンとは戦って虹色の枝を得るしかない様だ。



「!! 思ったより反応が早いですわ! 最初の攻撃はワタクシの魔法で相殺します。その間に地上へ降ろしてくださいませっ」

『承知したわ。シグ、エレノアが戦術級魔法を使うわ! 振り飛ばされないようにロープをしっかり掴みなさい!』



 はたして、ドラゴンが口から放った白い光のエネルギーと、エレノアが放った白銀色の水箭は、丁度、中間地点でぶつかり合い、凄まじい爆発を引き起こした。


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