18話 作戦会議
そんな感じで満月から3日間は魔獣退治に明け暮れて時間が過ぎて行った。(精霊化したアルマの参戦は完全に予想外だったが)
満月から3日も経てば月も欠けて魔獣の活性も収まり、大人しくなっていく。後はクロモリ防衛局の正規兵だけで何とかなるということで、傭兵との契約は終了し、お待ちかねの報酬タイムと相成った。
今回は精霊化したアルマが頑張ったおかげで犠牲者がかなり少なく、防衛局の会計担当者が頭を抱えていたが、生き残りが多いのは良いことなので諦めて貰いたい。どうせ多くの傭兵は施設内の色街でお金を落とすのだから、クロモリ防衛局に還元されるだろうし。
それより俺達が望むのは『虹色の枝』を探索した記録である。
俺とアルマ、そして何故かエレノアを交え、俺達はクロモリ防衛局の資料室で『虹色の枝』に関する資料を調べていた。
前回得た記録が二百年前とは云え、残っているのはありがたい。せめて魔獣の森のどの辺りに在るかだけでも分かれば僥倖だ……と思っていたんだが、どうも簡単に事は進みそうにないらしい。
「位置については大丈夫ですわよ。ワタクシ、先に調べておりましたが『虹色の枝』を得た場所はちゃんと記載されていました。問題は虹色の枝の正体がドラゴンの角だということです。残された記録によると、ドラゴンとの戦いは熾烈を極めたとありまして……貴方とアルマさんだけでは到底敵わないのではないでしょうか?」
『ドラゴン』、前にも言ったがそれは巨大な魔獣の森の正体にして頭脳体である。
「虹色の枝の正体がドラゴンの角だって!? ……ドラゴンと一戦交えなければ手に入らないって事か……たしかにそれは、俺とアルマだけでは手に余るかもな」
『なによ、ドラゴンてば森の深部で寝ているだけの大きな魔獣でしょう? 寝ている内に刈り取ってしまえばいいのよ!』
「それがそうもいきませんの。事前に森を傷つけられたドラゴンは怒り狂って襲い掛かって来たとあります。今回のクロモリ防衛局の防衛戦で、ワタクシたちは何度も戦術級魔法を行使しました。それによって、森の外縁部を大きく削り取りましたから……もちろん、ドラゴンは自分の体の一部を傷つけられた事にとても怒っているでしょうね」
「……ああ、満月の時の話か。大魔獣キョジンを差し向けて来たし、大分怒っているのは確実だな」
「問題はそれだけではありませんわ。この時、魔獣の森の中を探索して到達したチームは、エレメント階級の魔女二人と、魔女の騎士二人、そして、防衛局の凄腕二人の計六名。そんな精鋭チームに対して今回挑むのは元エレメント階級の魔女一人と、元魔女の騎士一人……仮にワタクシを加えたとしても、森の中を進むには戦力的に全く足りておりませんのよ」
「ああ、それについてはどうにかなる」
アルマが精霊化した今、馬鹿正直に森の中を突っ切っていく必要がない。森の上をアルマの核に捕まって目的地まで飛んで行けばいいのだ。何故か魔獣には飛ぶ種類のものがなく、全て大地に根差したモノばかりなのだ。アルマが飛べるのだから、目的地までは何の問題もなく到達できるだろう。
「そうなると……やはり問題はドラゴンか」
資料によると、とにかく攻撃が苛烈で全滅しそうになったり、頭を真っ二つにしても蘇って来たとか有る。まともに戦うのは無理だろう。俺が正面で戦っている間に、隙を見てアルマに虹色の枝を回収して貰うというのが最善の手か? 逆もあり得るが……。
『私のエナジードレインでドラゴンを弱らせて、その間にシグが角を頂くってのが勝算が高そうだけど?』
「なるほど……下手に真正面から挑んで刺激するよりはそちらの方が良さそうだ。角を頂いてしまえば後は逃げるだけだし、その線で行ってみるか?」
「ならばワタクシも同行しましょう。人手が多い方が陽動になりますし、ワタクシも虹色の枝にはとても興味がありますの」
『物見雄山で参加されても困るんですけど?』
「あら、とんでもない。親友のピンチに駆け付けようとしているワタクシに、何と無体な言葉を投げかけるのでしょう」
『どう考えても、アンタ個人が虹色の枝を手に入れようとしているだけじゃない! シグ、コイツの事は放って置きましょう!』
「いやしかし、ドラゴンの戦闘力は未知数だし、現地でどんなことがあるか分からない。エレメント階級の魔女であるエレノアがいてくれた方が何かと助かる場面があるかもしれない」
「まあ! 流石は元魔女の騎士だけあってシグルズさんはモノの道理を弁えていらっしゃる。ちゃんと協力しますから連れて行ってくださいませ。不安でしたら『リベリオン』を使って契約してもよろしくてよ」
――『リベリオン』とは魔法的な誓約書と思って貰って良い。契約を破った時、そのリベリオンに込められた魔法が牙をむくという仕組みの恐ろしい誓約書だ。
『リベリオンか……それを口にしたって事は、それだけの覚悟があるってことよね。いいわ、元同僚としてアンタを信じてあげる。でも、もし裏切ったらこの世の果てまで追いかけてリベリオンで誓約していた方が良かったと思える制裁をするから覚えておきなさいな』
「承知しましたわ……必ず、そう、必ず『虹色の枝』を手に入れましょう」
そういうエレノアの顔は何かを想像して恍惚としており、不安を煽らせた。しかし、彼女が戦力的にかなり頼りになる事は確かだ。
何はともあれ、決行は12日後の新月の日と相成った。




