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13話 悲嘆


 俺は『黄金の果実』を誰にも見られないように懐に隠すと、キョジン相手に戦術級魔法を使って息も絶え絶えなアルマとエレノアへ歩み寄った。


 二人が相手をしたキョジンは大方が吹き飛んでおり、黄金の果実を回収することは不可能だろう。そもそも黄金の果実が生えていたかどうかも分からない。俺の知るところによると、キョジンが黄金の果実を生やしている可能性はかなり低いと聞いている。そんな中で回収できたのは幸甚だった。


 クロモリ防衛局の連中に気付かれる前に、アルマに黄金の果実を食して貰わないと。


 そう思い、アルマに語り掛けようとしたが何かがおかしい、荒い息を吐いて殺気が収まっていないような感じだ。もしや大魔法を連続で行使したことで魔獣化が進行してしまったのだろうか?


 俺はアルマに走り寄ると、頬を軽く叩いた。


 その瞳の形――瞳孔は縦に割れており、明らかに人間とは異なる型をしている。また、ローブから覗く手足はヒトとは思えない剛毛に覆われていた。


 通常であればすぐに戻るであろうその変化が戻らないという事は……まさか、第二段階に進行してしまったのだろうか? いや、下手をすると第三段階まで!?



「シグルズさん、残念ですがアルマさんは魔獣化に飲み込まれてしまったようです。貴方達の旅路は此処で終わり。アナタの騎士としての役目を果たす刻です」

「馬鹿を言うな! まだだ、まだ俺達の旅はまだ続く! しっかりしろ、アルマッ、漸く黄金の果実が手に入ったんだ、これを食せば治るんだ! だから、返事をしてくれ、アルマ!」

「…………」



 再び俺はアルマの頬を叩いた。今度は手加減なしの本気の一撃だ。強すぎて鼻血が舞ったが知ったこっちゃない。せめて第二段階で留まってくれなければ黄金の果実を食しても無意味に終わるかもしれないのだ。それだけは勘弁して欲しい。俺はまだ、アルマとの旅を終わらせたくない!



「……なによ、めちゃくちゃ痛いじゃない……でも、それで気合が入って戻ってこれたわ。心配させちゃったわね」



 はたして、縦に割れた瞳孔も、ローブの下から覗く剛毛も変わりはないが、ちゃんと理性は戻ったようだ。どうやら第二段階で止まったらしい。第三段階の精神汚染までは進行していないようで俺は安堵の溜息を吐いた。



「それで……黄金の果実を手に入れたって聞いたけど?」

「あ、ああ、そうだ! 喜べ、俺が倒したキョジンの頭に生っていた。お前たちが倒したキョジンはあの体たらくだから、もしあっても残っていないと思うが……」

「仕方ありませんわ。あの大魔獣を戦術級魔法を使わずに斃せるなんて、その神魔刀を受け継いだアナタしか出来ない事、同列に見てもらっては困ります」



 うまく行けば三つの黄金の果実を手に入れられたかもしれないんだけどな……まあいい、アルマを治すには一つあれば十分だ。


 俺は懐から黄金の果実を取り出すと、アルマに手渡した。


 少しの間、アルマは黄金の果実を品定めするように眺めた後、猛然と食いついた。それはもう果実の芯まで喰らおうと言う勢いで、俺とエレノアは少し引いてしまった。


 しかし、その効能は確かなようだ。黄金の果実を喰らったアルマの瞳が、そしてローブから覗く剛毛が元の状態へ戻っていく。それどころか、体全体が光りはじめて……!?



「こ、これは一体何が起こっているんだ!?」

「分かりませんわ、文献に載っているいずれの状態とも当て嵌まりません! もしや、手遅れの状態で食した事で、このような現象が」

「馬鹿な事をっ、アルマは絶対に戻って来る、必ずだ! そして、俺とずっと旅を続けるんだ!」



 エレノアとそんな言い合いをしつつも、アルマから放たれる光はどんどんと強くなっていき、目を開けていられないほどに眩しく輝きだした。


 砦の方も騒がしく今の状態を見守っているようで、ざわめきが聞こえて来る。


 くそっ、いざとなったらアルマを連れて何処へまででも逃げてやる。それが俺の騎士としての誓い。アルマに忠誠を捧げた俺の意地だ!


 そして、目を開けていられないくらいアルマの発光が激しくなって、思わず目を閉じてしまったそのとき、大きな音がして、俺とエレノアは衝撃を受けて後ろに転ばされた。


 なんだと思ってすぐに立ち上がり、アルマの居た方を見ると……アルマが着ていたローブだけが残っており、アルマの姿は何処にも見つからなかった。



「……そんな馬鹿なっ、アルマ! 何処へ行ったアルマッ、返事をしてくれ、アルマ!」



 俺が叫ぶも、アルマの姿は何処にもない。元居た場所に残ったローブに駆け寄って掴み上げるも、その中身は何も残っていなかった。



「うそだろう…………黄金の果実があれば助かるってのは噓だったのか。それとも、魔獣化を治すには最上級の『虹色の枝』が必要だったとでもいうのか……」



 俺は残されたアルマのローブを引き裂くほど強く握りしめ、轟くような怒号をあげた。


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