第Ⅱ話 国立ガドウィン学園風紀委員
「あ~、もう間に合わないよぅ!!」
ロゼッタは慌ただしく、錆びたアパートの階段を
ガチャガチャと音を立てながら下りる。
「…コレ、ロゼッタも使うか?」
「へ?」
ロゼッタの目の前に差し出したのは
小さなビンに入った黄色い粉。
「え、またコレ使う気?」
「うん」
「もったいないよ~」
「大丈夫。また研究室からくすねるから」
う~ん、と、ロゼッタは腕を組み考え始めた。
遅刻するんじゃなかったのかよ。
「分かった。でも今日は特別、だよ?」
「はいはい」
俺はビンを手のひらの上で逆さにひっくり返し、
中の黄色い粉をすこし出す。
黄色い粉はキラキラ光って、太陽の光を反射している。
ビンを鞄の中に詰め、
そしてその粉を2人分に少しずつ両手で分ける。
「おい、目、つぶっとけ」
「ん」
そして、右手の粉は俺に、
左手の粉はロゼッタに対して振り掛ける。
「んん…」
体中がフワッと軽くなり、
体が空に浮く。
「よし」
「流石、ヒイロ♪こんなに少ない量で飛べるなんて知らなかったよ」
ニマニマした目で俺を見るロゼッタ。
嫌味か。
「行くぞ」
「は~い」
◆◆◆◆◆学園◆◆◆◆◆
学園の門には、
[国立ガドウィン学園]
と彫られた、柱が一本と、普通の柱が
反対の右側に立っている。
そしてその門の前には、
風紀委員と呼ばれる彼らがいた。
俺たちの間では、彼らは
悪魔の門番と呼ばれているほど、
厳しい連中だ。
「おい、降りるぞ」
「うぃ」
俺等は空からゆっくりとできるだけ物音を立てないように
草むらに下りる。
そして何事も無かったかのように
俺達と同じく、遅刻しそうな連中に混じって走る。
「ちょっと待って」
門をくぐり終える途中で呼び止められた。
ゲ…
「貴方、鞄の中ちょっと見せてくれない?」
「はい…」
俺はしぶしぶ鞄を手渡そうとする。
「?貴方じゃないわ、そっちの彼よ」
「え?」
どうやら呼びかけられたのは俺ではなかったらしい。
呼びかけた女は、
黒髪のロングで、かなりの長身(モデルかよ)。
大きな黒い瞳は見ているもの全てを凍らせそうな
吊り目で赤いメガネをかけている。
「って、お前ケイじゃん!!」
「あら、やっと気が付いた?」
当然でしょ、のような
顔で、こっちを振り向かずに答える。
彼女はケイ=ガドウィン。
この学校の理事長の娘。
「なんで漫画が入っているの?必要ないでしょう」
「すみません…」
持ち物検査をされている男は漫画を没収される。
と、思ったら返された。
「反省文、10枚書いてきなさい」
「え、あ…はい!!」
男は小走りで校内に入っていく。
こういう小さなことが優しいと思う。
ここの学園は没収したものを卒業までに返さないという。
鬼だ。
ケイは手に持っていた下敷きに挟んだプリントに
何かを書き込み始める。
「何書いてるの?」
「遅刻者の人数。貴方も混ぜていいのかしら?」
「へ?あ!!」
気が付くと、俺の姿はそこには無かった。
「もう、ヒイロはなんで言ってくれないのかな~!!」
叫びながらロゼッタは走り出す。