やめろ先輩!それヒュドラっすよ!?──暁の幻影団、沈黙(5)
「……ていうか。
次、また姿消して近づいてきたら――
そのときはマジでぶん殴るっすからね!」
そんな私の威嚇ポーズを、
カインは粉まみれのまま、
ふっと楽しそうに笑って――名乗った。
「俺たちは冒険者。
暁の幻影団だ。
……聞いたことくらいあるだろ?」
「冒険者団体みたいなもんっすか?」
心の底から素で返した。
だってマジで聞いたことない。
「知らんのかい!」
ツッコミ早っ!!
反射でビクッとした。
カインはどこからともなく、
真っ赤なカードを一枚――
スッと差し出してきた。
表面、つやつやの光沢。
文字がギッシリ。
パッと見、クレジットカード以上の重圧感。
「まあいい……俺はリーダーのカイン・ナイトレイだ。
これが、俺の冒険者カード」
ドヤ顔でポケットからカードを取り出し、
指でひらりと弾いてこちらに向けてくる。
ぱっと目に飛び込んできた文字。
――【冒険者登録証】――
名前:カイン・ナイトレイ
階級:S級
「……え?」
瞬きも忘れて、
私はカードを凝視した。
「S級……!?
え、ちょ、まさかその、めっちゃ強い人っすか!?」
裏返った声に、
カインはひらひらとカードを振って、満面のドヤ顔。
「ははっ、驚いたか?」
……めっちゃ自慢気!
完全に見せびらかしターン入ってる!!
そのとき――
「リアル冒険者だぁぁぁ!!!」
先輩が突然、
絶叫しながら突撃していった。
もう完全にテンション最高潮。
漫画でしか見たことない本物の冒険者を前に、
完全に舞い上がっている。
「うわぁ……すごい……! 本物が目の前に……!」
町ひとつ簡単に壊滅できたり、魔王に挑むとか、
そういうクラスの人たちだよね」
「いやそこまで凄くはないよ…」
ああ……今ので絶対バレた。
私たちが冒険者ではないって。
カインが苦笑いしながら、
ひょいっと手を上げる。
「ま、とりあえず紹介しとくか」
はしゃぐ先輩を横目に、
他の三人も順番にフードを外していく。
最初に姿を見せたのは――
「ライラ・スカーレット。よろしくね?」
彼女は人差し指で髪をくるくると弄びながら、ウィンク一発。
火属性の魔術が得意そうな赤い髪をしている。
「ねぇ、さっきの絶叫……あれ、結構好きよ?」
青い瞳がきらりと光り、
言動も見た目も華やかだけど……なんか、
喧嘩売る前の猫みたいな目だ。
次に顔を出したのは、
弓を背負った黒髪ロングの女性。
「エリスよ。さっきは驚かせて、ごめんなさいね」
緑色のリボンを指先でくすぐるように撫でながら、
どこかいたずら好きそうな笑みを浮かべている。
微笑んでるのに、
目だけがどこか人を試すような色だった。
そして――最後に。
「……アーク・レオナード」
彼だけは、まだフードを深くかぶったまま。
重たい声が、ぽつりと空気を震わせた。
「元・王国騎士だ」
そのフードの奥、金色の髪がチラリと見えた。
背中にはバカみたいにでかい両刃の剣。
見るからに脳筋枠。
絶対この人、素手で熊とか倒せるタイプ。
三人が横一列に並ぶと――
雰囲気がもう、歴戦の猛者オーラ全開。
普通の人間なら、問答無用でひれ伏すレベル。
……なのに、その横で。
「ねぇねぇ! S級冒険者って一番強いの!?
月収いくら!?家どこ!?
貯金どれくらい!?」
先輩が、ハイテンションでぐいぐい詰め寄っていた。
ノーブレーキの質問ラッシュ。
完全に空気読んでない。
……いや、読めてないんじゃなくて、
読まないスタイルだ。
「まあ、S級冒険者は……百人いない
……で、その一人が、目の前にいるってわけ」
またドヤ顔!!
……この人、ほんと自慢番長。
私はひきつった笑いを浮かべながら、
心の中で、そっとそう呟いた。
こうして――私たちは、世界でも有名らしい、
トップランクの冒険者たちと、
まさかの“初接触”を果たすことになった。
『【粉まみれの不審者】(S級)』
……私の脳内評価、確定っす。
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著者:七時ねるる@7時間は眠りたい