やめろ先輩!それヒュドラっすよ!?──暁の幻影団、沈黙(1)
今、私は――謎の黒装束の三人組に囲まれている。
ひとことで言えば、
めちゃくちゃピンチな状況だ。
……なのに。
プルルは透明になって雲隠れし、
ニャンタに至っては焚き火のそばで寝そべって、
欠伸をかましていた。
「ふぁあ……食ったら眠ぃ……
胃に血が集まるせいだろうな」
「いやいや、くつろぎすぎっすよ」
私は慌ててニャンタに詰め寄り、
小声で問いかける。
「なんで私たちが魔族扱いされてるんすか?
もっとこう、角とか翼とか、
真っ赤な目のヤツらじゃないんすか?」
「それを俺に言われても知らねぇよ」
――魔族って言えば、ゲームとかだと大体、
人間を滅ぼして、世界征服して、
闇の王に従ってるアレでしょ?
私たち、ただのバーベキュー中の一般人なんすけど。
「……これ、どうしたらいいんすかね」
ニャンタに相談しようとしたそのときだった。
「後輩ちゃん!大変だあああ!」
「へ?」
「人間だぁぁ!人間がいるよぉ!」
――どうやら先輩、
異世界で初の人間遭遇に感動しているらしい。
目の輝きが、完全に宇宙人と出会った学者のソレだった。
……だが向こうから見れば、
正体不明の何かに凝視された不審案件である。
「……!?」
予想どおり、黒装束の男たちがビクッと反応した。
ひとりはじり……と後ずさる。
「うぉぉぉい!
今のはマズいっす!
本当に魔族だと勘違いされちゃうじゃないっすか!」
いやもう、「疑われた」とかそういう段階じゃない。
男たちの視線が、一斉に変わった。
“警戒”から“敵視”へ。
――我々、人外確定っす。
でも、言葉は通じてる……ワンチャンある!
「いや違うっすよね先輩?
こんな森の中で、
私たち以外にも人間がいたの間違いっすよね?」
こういうときこそ、冷静さが命。
私は無理やり口角を上げながら、
先輩のトンデモ発言を全力でフォローにかかった。
あくまで“私たちは普通の旅人です”っていう空気を、
丁寧に、慎重に、少しずつ――
――ほぐしていく、はずだった。
「それより後輩ちゃん
今、魔族って聞こえたよね」
台無しだった。全てが。
わざとらしく目を見開いた先輩が、
ずいっと私に詰め寄ってくる。
「なんで挙動不審なんすか!?
その無駄に驚いた顔やめろっす。
本気で魔族だと誤解されるっすよ」
小声でツッコんだものの、
先輩の顔からは明らかに“動揺”の二文字がにじみ出ていた。
そして、最悪の一手を打ってしまう。
「なんで私たちが魔族だと思ったの!?
魔族じゃないよ!違うってば!」
――声がでかいっ!
――語彙が逆効果っ!!
「これじゃ完全に、
正体バレて焦ってる魔族っすよ……」
……火に油を注ぐとはまさにこのこと。
私は顔を覆って崩れ落ちた。
当然、男たちは一言も発さないまま、
じっとこちらを見ている。
その無言が、逆に疑念を強めているのが痛いほどわかった。
慌てて、私は先輩の肩をポンポンと叩く。
「ちょっと落ちついてっす」
その一言で、
ようやく先輩がハッと我に返った――
かに見えたのも束の間。
「あ、あのっ、人間さんたち!
安心してください!
私たちも普通の人間です!」
「それ、余計に怪しいっすよ……」
どうやら先輩、
魔族”というワードと“異世界の人間”に興奮しすぎて、
理性のヒューズが盛大に吹き飛んだらしい。
そして今、炸裂したのは――
異世界ハイ状態の自己紹介。
男の手が、
ついに剣の柄へとかかった。
「……仮にお前たちが人間だったとして。
この森の奥に、どうやって辿り着いた?」
「ニャンタに連れてきてもらいました!」
元気よく即答した先輩は、
焚き火横で寝そべってたニャンタをひょいと抱き上げ、
胸の前で掲げた。
ニャンタは片目だけ開けて、
面倒そうにぼそり。
「おい炊飯器……こいつら、煮るか?蒸すか?
それとも……丸焼きか?」
「やめてっす!
それ絶対バーベキューの延長で言ってるっすよね!?」
全力で首を振る。
この状況が長引けば、
彼らの命が危ない。
覚悟を決め、
私はリーダー格らしき男に向き直る。
「いや、あの…私たちはただの冒険者っす!
少し休憩していただけっすよ!」
引きつった笑顔で、必死に弁解した。
……が、返ってきた声は冷たかった。
「この森には危険な魔物が多い。
本当に冒険者なら、
そんな無防備なことはしないはずだ」
……まさかの完全否定。
やばい。逆効果だった。
疑いはむしろ深まり、
背中にじっとり汗が滲む。
喉が渇く。思考も空回りしていく。
くっ、どうしたら……
――そのときだった。
何かが変わった。
黒装束の三人が、
いつの間にか武器を下ろしていたのだ。
「あれ?……少し警戒が解けてるっす」
彼らの視線は、
先輩に抱きかかえられているニャンタに集中していた。
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著者:七時ねるる@7時間は眠りたい