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魔王様放浪譚  作者: 道すがら道
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第一話

薪をくべる。

小さい枯れ枝から始め、火が大きくなってきた様子を見て大きめの薪をくべる。

ただくべる。

火の上には何もない。

鍋を置くでもなくただ無駄に薪をくべていた。


これは羊頭曰く魔術の指導だという。

ただ薪をくべ火を焚くだけだという始末だ。

正直に言おう。つまらない。

普段の授業では、魔術の構築術や展開陣について学ぶ。

私が期待していたものは、それらのよりはるかに進展した極みを学ぶことだった。

しかし今行っていることは炊事場の日常。

今楽しいこととすればぱちぱちとはじける薪の燃える音と揺らぐ炎を眺めることだけ。

つまらない。

せめて芋くらい持ってくればよかった。


「魔王様、この火を焚く行為について魔術となんの関連があるのですか」

「十分に関連がある。魔術で火を起こすことはできるな」

「はい。初歩から戦術用まで一通り学びました」

「では魔術で火を起こしてみよ」


怪訝さを抱えたままとりあえず魔術を行使する。

展開陣を開き魔力を導いて手のひらに火を灯す。

火を灯す魔術は生活からも切っても切れない重要な魔術だ。

生まれてから死ぬまでに一番多く使う魔術といっても過大ではない。


「火を起こしましたが」

「よろしい。では火はなんだ」

「それは、このように物を焼ける熱を出して光を発して。それが火です」

「ふむ。間違ってはいないな」


羊頭は空き地に転がっている石を焚き火に放り込んでしばらく黙り込んだ。

程なくして放り込んだ石を取り出して問う。


「これは火か」


触れるまでもなく熱した石を浮かせて問うてきた。

確かに熱した石は物を燃やせるであろうほどに熱い。

しかしそれが火であるかと言われると難しい。

光は発していないし風で揺らぐこともない。


「それは、火ではない、と思います。あくまでも熱した石で火ではないかと」

「そうだろうな。しかしこの石は魔術で起こした火と変わらない熱を持っている。ではこれが火ではない理由は何だ」


明確な答えを出すことが出来なかった。

確かに羊頭がいう話について道理が通っているように思える。

しかしそれが火ではない理由を問われるとなんと答えるのが正しいかわからなかった。


「火の魔術について今一度考えてみよ。明日も同じく焚き火を行う」


羊頭はまた揺らいで音もなく消えた。

羊頭が伝えたいことはなんとなくわかった気がする。

しかしどのように魔術について向き合えば良いのかはわからない。

結局その日は結論が出ずに食堂から芋を数個回収して魔術書を読み直すのだった。


翌日、また薪を焚べた。

今日は芋を入れてある。

これだけでも目の前の焚き火には価値があるのだ。


「得るものはあったか」


羊頭は問う。

魔術書を読み直し、いくつか気になる点はあった。

しかしまだ形になっているとは言い難い。

ひとまず見つけた気になる点を試す。

芋を掲げて火の魔術を行使する。

見た目では確かに魔術を行使しているが芋は燃えていない。

言うなれば熱のない火の魔術だ。

明かりを灯す魔術との共通点を引っ張り出した結果だ。


「これを見つけました。火の魔術から熱だけ排除しました。今手の上にある芋は確かに火に包まれていますが燃えていません。生のままです」


羊頭はどことなく満足げな様子だ。

どうやら正解だったらしい。


「今見つけられたことはここまでです。明かりの魔術と火の魔術を比較して共通部分を残しました。熱のない火を作り出せました」

「よろしい。いい筋だ。そのまま魔術と向き合うがいい」


やはり正解だった。

言葉数も表情も少ない羊頭から直接理解できることは少ないが、全く理解できない訳では無い。

しばらく熱のない火をいじくって遊んだ後、焚き火から芋を取り出した。

いい具合である。

皮を向けばホクホクでいかにも美味しそうな具合だ。

サラッと塩を振ってかじりつく。

うんうん。美味しい。食堂から窃盗した介があった。


焼けた芋を羊頭に差し出すと遠慮なく受け取った。

視線だけで塩も要求し、どことなく嬉しそうな様子だった。

この羊頭、見た目の割に器用に食事をするものだ。


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