1.さあ、この現実世界からおさらば!
はぁ……
帰りの電車を待つホームで無意識にため息を吐いた。
俺、これからどうしよう……
お先真っ暗となってしまった人生を目の前にして打ちひしがれる。
どうしてこんななってんのかというと
数時間前
「田中正幸くんね、クビ。」
えっ?
今なんて言った?
く、クビ?
「うちもなかなか業績不振なもんでね、それに君、女性社員から苦情きてるよ?」
「そ、そんなことは、ないと思うんですが。」
俺が必死に弁論していると、女5人組がそんな俺を見て、陰でクスクス笑っている。
クッソーアイツら!
1週間ほど前にあの女5人組を仕事関係でキツめに言ったら恨みを買ったらしい。
女って怖い
「ま、そういうわけだから、田中くん明日から来なくていいよ。」
「嘘だろおおおーー!!!!」
と、今に繋がるわけだ。
今までの人生、平均くらいの高校に行って、平均くらいの大学に行って、働き始めて2年目。特技もなんも無いし、これから生きていくあてもない。
はあ、これからどうしよう。
いっそのこと、この現実から逃げ出してしまおうか。
「間もなく、電車が5番線、8両編成で参ります。安全のため、黄色い線の内側までお下がりください。」
でも無理だよ、俺。
もう0からまたやり直したい。
また新しい世界にでも行って、人生をやり直したいよ。
そんなこと思っていると、電車がやってきた。
ま、そんなの無理だから、家に帰ってなんとかするか。
「なら、異世界、行ってみる?」
……ん?今誰かがなんか言った気がするが。
電車がホームに入ってきたと同時に後ろから何者かに、
「ドンッ」
背中を押され、俺は線路に突き落とされた。
は?え?もしかして俺、死ぬ……?
スローになる世界の中、ろくに中身もない走馬灯を見ながら俺は、そう思った。
そして、俺は、電車にはねられた┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……の人……この人、そこの人!まったく、起きなはれ。」
見知らぬ老人に叩き起こされた。
ん、いや、何が起こった?急すぎる出来事に頭が真っ白になる。
俺は何者かに線路に突き落とされ、電車に轢かれ、死んだはずだが……?ふと、あたりを見渡すと、その光景に驚きで声が出なかった。
西洋風の建物が並ぶ町中、荷台にたくさんの荷を詰んだ馬車、いかにも冒険者って見た目の人がそこら中を闊歩している。
そう。そこは、紛れもない異世界だった。
おいおい、マジか。
確かに新しい世界で生活したいとは思っていたが、まさか本当になるとはな。
うーん。まあでも、現実に生きてたってどうしようも無いし、これはこれでありなのかもしれない。
「あ、すみません、ありがとうございます。」
とりあえずこのじいさんに返事をすると、
「その様子だとこの街に来るのは初めてのようじゃな。
ここは、あまたの初級冒険者たちが集うはじまりの街、『サートス』ここに来たということはお主、冒険者志望じゃな?」
サートス?冒険者?なんのこっちゃ。
理解が追いつかないが、どうやら俺は異世界転生し、始まりの街でもある「サートス」に転移したようだ。
「は、はい。そうなんですよ〜。とりあえず、僕は行きますね。」
おう、気をつけてな。と見送る爺さんを尻目に、俺は街の中央部に向けて歩き出した。
さて、これからどうするか。
とりあえずこういう世界ではギルドというものがあるのがお決まりなので、そこに向かうとするか。
「おい!それ以上俺に近づくならハウな目にあってもアイドンノーだぞ!」
「は、はあ?こいつ何言ってるんだ?わかったから、もう万引きしたくらいで何も言わねえよ。」
なにやらゴロツキみたいな男と訳の分からない俺と対して年齢が変わらない男が話している様子が聞こえた。
なんか明らかにガラの悪いやつが根負けしてるんだけど。怖っ
よく分からんことを考えていると、冒険者ギルドについていた。
冒険者ギルド
冒険者としての登録、クエストの受注、報酬の受け取り、
パーティーメンバー募集。また、緊急事態の場合の集合場所にもなっている。横には酒場が併設されており、クエストで出た素材を使ったメニューなども置いてある。
そこで俺は、とりあえず冒険者としての登録をしてもらうことにした。
3つあるカウンターには受付嬢がそれぞれ並んでいて、カウンターごとによって受け付ける内容が違うようだった。
俺は1番右のギルド登録のところに並んでいた。
「はぁー?!なんなのよあんた!……ハッ!さては、あんた私のことを誘拐して、あんなことやこんなこと、イ、イヤーーー!」
緑髪の少女がなんか叫んでいる、何が起きてんの?
俺の想像してた異世界と全然違うんだけど。
「次の方どうぞー」
順番が来たからとりあえずそっちを優先するか
「ギルド登録ですね、こちらの水晶玉に手をかざしてください。」
言われた通り手をかざすと、空中にホログラムのようなものが出てきた。そこには、名前、年齢、性別、身長体重にステータスが載っていた。
「知能が少し高くて、運がとても低いこと以外は特に目立った項目はないですね。」
平均、か。運についてはなんか引っ掛かるが、ま、そこまで支障が出る訳では無いだろう。
「では、登録料として1000ペスタ頂きます。」
ペスタというのは、この国の金の単位だろうか。
やべっ、財布あるっけ。
あ、なんかあった。
見覚えのある俺の財布の中身には、よくわからない紙幣がたくさんあった。
俺が元々財布にあった金額は3500円。この財布の中にもピッタリ、3500ペスタ。
1円1ペスタってことだな。
「はい。」
「ありがとうございます。こちらがマサユキ様の冒険者カードになります。」
職業、冒険者。これは、基本職らしくて、この他にも上級職だったり、いろいろとある。
ステータスやレベルに応じて転職できるらしいが、最初は冒険者スタートというのが基本らしい。
さて、冒険者として登録もした事だし、これからどうするか。
そこらへんのアルバイトするか?それとも、クエスト探して日銭を稼ぐか?
いや、飯を食おう。
思えば、朝からなんも食ってなかった。
酒場で席につき、注文することにした。
「蛇の1本焼き、カエルの唐揚げ、牛殺しのソテー」
「牛殺しのソテー?!」
この世界にはまともな食いもんはねえのか。
うーん、まあ、蛇とカエルはだいたい味の想像がつくから、
「すいませーん、牛殺しのソテーください。」
数分後
なるほど、確かに牛殺しだな。
てっきりなにかの動物かと思ったら、死ぬほど乳製品が入った料理だった。
牛肉は入っているにはいるんだが、上にめちゃくちゃチーズが乗ってて、スープは牛乳入りのコンソメスープ的な感じ。
これだけ搾り取られて、これは牛さん死んじゃうわ。
手短に食事を済ませ、クエストに出るために、パーティー募集をすることにした。
「募集要項は、職業はなんでもあり、20歳くらいの人限定っと。」
年齢に制限をかけたことに関しては、年下すぎても、年上すぎても色々とやりづらいと思ったからだ。
とりあえず集合場所で待つことにした。
どんな人が来るかな、男か?女か?魔法使いのやつとかがいるといいなぁ。
待つこと数分
「パーティー募集の張り紙、ルックさせていただいたぜ。」
お、早速1人目か、どれど…………?!
「おい、どうした、俺のフェイスになにか付いてるのか?」
あー、間違いねぇ。こいつ、ギルドの途中で見かけたヤベェやつじゃねえか。
「えーっと。ひ、人違いでは?」
「いや、リアリーお主で間違いナッシングだと思うんだが。」
「黒目に黒髪、青色の冒険服に、短剣を携えてるってお前しかいないだろ。」
ごもっとも。
これは、言い逃れなんて出来なさそう。
「あ、ああ。募集に応じてくれるのか?ありがとう。とりあえず職業と、冒険者カードを見せてくれ。」
名前、スラック。年齢、21歳。男。職業、アークマージ。マージというのは、魔法使いの職業名だから上級職か?レベルは28。ステータスは、化け物だな。ちから、みのまもり、どれも俺より優れてて、なにしろ魔力が桁外れ。
おい、人としてはやべえけど、こいつ相当強いのか?よし、
「採用!!!」
「とりあえず、クエストに行くか。」
とスラックに言って、クエストを受けに行った。
「ジャイアントバッファローの狩猟。これにしよう」
「おいおい、バッファローってことは牛だろ?結構強いんじゃねえのか?」
「いや、今はメス個体しか出てこないし、鋭利な角がある訳でもない。正面衝突さえ避ければ、動きも遅いし、大した敵では無い。」
なんか物知りだなー。最初の雰囲気とは違う感じがする。
もしかして、初対面の人にだけテンションが違うだけなのかな。
まあ、なんにせよ、このクエストを受けるか。
「クエスト受理しました。ジャイアントバッファロー3体の狩猟ですね。お気を付けて行ってらっしゃいませー。」
俺は、この頼もしくもなんか不安な感じのする仲間と共に、クエストへと旅立った。
「俺たち、これからどうしようか。」1話です。
これからも連載していくので、ぜひぜひ、見ていってください。