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その謙遜は侮辱も同義

 守護者の砦から離れた場所にある隠れ家的な酒場に、物憂げな顔で座っているアディール。

 隣で気まずそうな顔をしながらピーナツをハイペースでつまむガイスは、ちらちらと彼の顔を確認している。

 すると盛大なため息をついたアディールが、目の前のコップに入った飲み物を口に含んだ。

 

「あいつ、きっと今まで一人で迷宮行ってたんだろうな」

 

 アディールのため息を聞き、ガイスは困った顔でさらにハイペースでピーナツを口に放り込み始める。

 

「俺はお前と迷宮に入るのは楽しい。 お前を悪く言う奴らのことは気に食わねえが、幼馴染のお前と仕事できるのはめちゃめちゃ楽しいんだ。 なのにあいつはくだらないあだ名のせいでずっと一人なんだよな?」

 

 アディールは心ここに在らずと言った表情で、ちびちびと飲み物を口にする。

 そんな様子を見てソワソワし始めるガイス。

 

「ア、アディール元気出して! きっとあの子、いきなり声かけられてビックリしちゃったんだよ! アディールはこの街でも超有名な守護者だ! そんな有名人に声かけられたら、びっくりして思わず断っちゃうのも無理ないよ?」

「あいつ、びっくりしてるようには見えなかったぜ?」

 

 アディールの返事を聞き、言葉を詰まらせながら明後日の方向に視線を送るガイス。

 すると酒場の入り口が静かに開かれた。

 

「ビリビリ小僧。 おぬし、めんこいおなごに盛大にフられたようだな?」

 

 入り口から入ってきたのは鈍色のちぢれ毛を、頭頂部で雑にくくった侍のような格好の大男。

 

「ウケるんですけどー! ぷしゅしゅしゅしゅ! あたしもあんたがフられた現場を見たかったわ!」

 

 大男の肩から、手のひらサイズくらいの大きさをした紅髪の少女が顔を出し、しぼんだ花火のような笑い声を上げながら大男の顔周りをふよふよと飛び始める。

 桃色の袴を着ていてキレイな紅髪を団子にくくり、身体中から赤色光をほんのりにじませた妖精のような少女だ。

 

「ちっ! また来やがったか……… なんのようだジジイ! いっとくが俺は告ったわけじゃねえからフられたって表現は間違ってると思うぜ?」

 

 舌打ちをしながら大男に視線を向けるアディール、しかし隣に座るガイスは緊張したように肩を震わせた。

 

「あ、あれは! アディールと同じ五聖守護者のエンハ・カグズチさん! なんでこんな大物が来ちゃうのさ!」

 

 口をぱくぱくさせながら震え出すガイス。

 そんなガイスを見て口角を上げるエンハ。

 

「ほう、その小童が先日言っていた相棒か? あまり強そうには見えんな?」

「こいつは少し自己評価が低いだけだ。 かなり強えし俺の動きにも余裕でついてくる」

 

 アディールの言葉を聞き、顎をさすりながらガイスをじっと見るエンハ。

 しかしエンハの顔周りをフヨフヨ飛んでいる小さな少女は、ガイスのことなど一切興味がないようで、口をニマニマさせながらアディールの顔の周りに移動し始めた。

 

「そんな事よりアディー! あんた、死を呼ぶ少女にフられたんでしょ? 『お断りします』って真顔で言われてたって聞いたわよ! なんて声かけたのよ!」

「さっきからうるせえな! それと、あいつの名前はララーナだ! そのくだらねえあだ名は二度と口にするんじゃねえ!」

「きゃーこわーい! アディーが怒ったー! 一目惚れした女の子を悪く言われてすっごく怒ってるー! ぷしゅしゅしゅしゅ!」

 

 顔の周りを飛び回る少女を振り払うように、手をバタバタと振り回すアディール。

 しかし少女はニコニコしながらアディールの腕をかわし、ケタケタと笑い始めた。

 

「ハナビ! 静かにせい。 こやつは傷心中なのだ、そうからかうものでないぞ?」

「お前が静かにしろこのクソジジイ!」

 

 エンハが飛び回っていたハナビに注意をするが、一言余計だったせいで余計に怒り出してしまうアディール。

 

「それがしはまだ二十代、クソジジイではないわ」

 

 エンハは口をすぼませながらさりげなくアディールの隣に腰掛けた。

 

「そんな事よりビリビリ小僧、おぬしはあのおなごの噂を知った上で声をかけたのだろう? なぜそんな危険なことに首をつっこむ?」

 

 突然、真剣な目つきに変わったエンハを一瞥したアディールは、ため息をつきながら酒場の天井をあおいだ。

 

「あいつの顔、見たことあっかよ?」

 

 無言でアディールの横顔を凝視するエンハ。

 先程まで騒いでいたハナビも口をつぐみ、静かにエンハの肩へ着地する。

 

「あいつ、この世の絶望を誰よりも味わったとでもいいたそうな顔してやがった。 そりゃそうだ、今まで組んだ守護者全員死んじまったんだからな。 いやでも自分の責任を感じちまうだろうぜ?」

 

 天井をあおいでいたアディールは、勢いよく身を起こし、飲み物が入ったコップに手を伸ばした。

 

 「けどなぁ。 そんな思いしてまで、なんであいつは今も守護者やってんだろうな? たった一人で迷宮に潜る理由はなんだ?

 きっと待ってんだ、あいつを救うことができる強い奴が現れんのを。

 きっと好きなんだ、冒険に行くことが。

 きっと少しでもこの街を守る力になりてえんだ。

 だから最強であるこの俺が、あいつに力を貸すことにした。 つーかぶっちゃけ、顔が好みってのも六割くらいあっかな!」

 

 手にした飲み物を一気に飲み干し、頭の悪そうな顔でにっこりと笑う。

 

「キモっ、ナンパじゃん!」

「ビリビリ小僧め、王子様気取りか?」

 

 エンハたちは鼻で笑いながらアディールに視線を送った。

 

「さっきは断られたがな、多分無理やりにでも着いて行かねえとあいつは折れねえ気がすんだ。 つーことで今日は、正門で夜通しあいつ来るのを待つことにすっから!」

 

 ポケットからお金を取り出し、自分が座っていたテーブルにひょいと投げるアディール。

 チップ代を考えてもかなり太っ腹な支払いとなっているが、彼は何も気にした様子も見せずに店の出口へと向かう。

 

「あ、そうだガイス! お前そこのジジイにしばらく面倒見てもらえ! おいジジイ! ビシバシ鍛えてそいつのネガティブ根性叩き直してくれよ!」

 

 アディールはそれだけ言い残すと、返事も待たずに酒場を出て行った。

 突然の出来事に目を丸くするガイスと、呆れたように腕を組みながら背もたれに寄りかかるエンハ。

 

「あやつは何もかも強引すぎる、まだまだ若いな。」

「ねーねーエンハー! この子がアディーの言ってた相棒君でしょー? なんだかすっごく頼りないんですけどー! ほんとーにこの子が優秀なのー?」

 

 エンハの肩の上に座り、足を組んでジッとガイスを観察しているハナビ。

 ガイスはハナビの視線を受け、不安そうな顔で縮こまってしまう。

 

「そう緊張するでない。 それがしはエンハ・カグヅチだ。 おぬしの面倒を見ろと言われた。 よろしく頼むぞ?」

「あ、いえ! こちらこそよろしくお願いします」

 

 ぺこぺこと何度も頭を下げるガイス。

 

「ちょっとー! この子なんて名前だっけ? もうめんどくさいしへなちょこだから、へなちょ小僧でいいかしら?」

 

 膝の上に肘を固定し、頬杖をつきながら面倒臭そうに吐き捨てるハナビ。

 

「これ、ハナビ! 流石にへなちょ小僧は無しであろう。 名前は確か、なんと言ったか?」

「しっ失礼しました! ガイス・リルヤーフと申します。 自己紹介が遅れて申し訳ありません」

 

 怯えたような表情で首を引っ込めるガイス。

 その様子を見てエンハは困った表情に変わる。

 

「もう少し気楽に話そうではないか? おぬしは自分に自信がないようであるが、ビリビリ小僧は絶賛しておったぞ?」

「ほ、本当ですか? でも僕はアディールにおんぶに抱っこされているだけなので、たぶんアディールの買いかぶりかと………」

 

 モジモジし始めたガイスを見て、ハナビが突然ガイスの目の前に飛んでいった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ウッザ! ウジウジうじうじウジウジうじうじ! マッジでウッザすぎなのよ! もっとシャキッとしなさいシャキッと!」

 

 ガイスの顔面に一直線に飛んでいったハナビが、小さな指で強烈なデコピンをお見舞いする。

 突然デコピンされ、涙目で額を押さえるガイス。

 

「ハナビ、おぬしもいい加減にせい! のう、ガイスとやら。 さっきの一言なのだが、おぬしはビリビリ小僧の目を節穴だ、と言っていると解釈しても良いのか?」

 

 エンハは若干前屈みになり、鋭い瞳でガイスを睨みつける。

 その視線を受けたガイスは、ハッとした表情で強く首を振った。

 

「そんなわけありません! アディールはすごいやつなんです!」

 

 ガイスの返事を聞き、満足そうに口角を上げるエンハ。

 

「なら、いたずらに自分を非難するでない。 おぬしが自分を非難するという事は、おぬしを高くかっているビリビリ小僧の目も非難していることに等しいのだ」

 

 柔らかい表情で語りかけるエンハの言葉を受け、ガイスはようやく肩の力を抜いて強くうなづいた。

 その様子を見てドヤ顔で腕を組むハナビ。

 

「ふふーん、それでいいのよ! もっと堂々としなさい!」

「なんでおぬしが偉そうな顔をしておる?」

 

 エンハはガイスの目の前をふよふよと飛んでいるハナビに視線を送りながら、ぼそりと呟いた。

 ちょうどそのタイミングで酒場の扉が勢いよく開かれる。

 

「おい! ここにアディール来てねぇか? アディールの野郎はどこ行った!」

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