襟元秀和は転生前からボッチでした。
「エリー、どこにいるの?」
冬が来る。
11月という季節はどうしようもなく寂しくなると、俺は登校中におもった。特に、高校生活初めての11月はなんとなく精神的に来るものがある。4月から11月までなんとなく短かったような体感。この7ヶ月という長くも感じられる時間の中、俺はなにを成し遂げたのだろうか。部活もせずただだらだら、学校に行って帰ってネット見て。何の生産性もない日々をずっと繰り返してきたように思う。ただ死ぬ理由もないから惰性で生きてる、そんな毎日だ。
片耳についたワイヤレスイヤホンに流れるのは4年前に流行ったパンクバンドの曲。"冬らしい"匂いを感じながら、俺はいつもの十字路につく。3個くらい手前の信号機につかまってからもうずっとこの調子。一つの信号機につかまったら永久のその道で信号機につかまる状況ってない?今俺は絶賛それを身をもって体感してる。様々な色形大きさの車の往来をボーっと眺ている。いつもどうりなら、ここいらで、、、。
「おーい、エリー!」
「エリーはやめろ、エリーは」
騒がしいのが来た。イキった小学生がつけそうな前側がとんがったヘルメットをつけ、マウンテンバイクを市街地にもかかわらず豪快に乗り回すガタイ大き目の彼は、中学から見知っている大石だ。
「俺はエリーじゃない。襟元だ。エリーだと、なんか金髪の外人美女みたいな感じするだろ。もっとなんか男のあだ名つけろよ、せめて。」
「細かいことばっか気にすんなってエリー」
「人の話聞いてる?聞いててそれならやばいよ君、悔い改めな?」
「杭?ちょっとよくわかんないが、俺は今日も元気だ!」
「よくわかんないんだったらもういいよ、青だから行け。はよ。」
「えー」
大石は名残惜しそうにこちらに手を振り、信号を渡っていった。どうせお互い学校に友達いないんだから、またしゃべりに来るでしょ。
さて、という具合に俺もゆっくりと横断歩道を白、黒、白、とわたっていく。車道が広い県道とか国道とか、そういう類のものだからか横断歩道も長い。せかせかと早い足取りで渡るまわりの人たちに息が苦しくなりつつも、何とか横断歩道を渡り切った。帰宅部ボッチは外に出て歩くだけでしんどくなる。疲れたんで少し足取りを遅くする。と、後ろからギシギシ、という自転車特有の金属音が聞こえてきた。その自転車の音はあろうことか、全速力で俺の真横を通り、そのまま俺の視界に入るように自転車を急停車させた。AKI〇Aみたいな物理法則フル無視の急停止だったぞ今の。変な人に絡まれるのかな。怖いな。下に向いていた顔を自転車の方に向ける。あ、
「どうした日向。」
「兄ちゃん、これ。」
自転車を急停車させたのは妹だった。妹の手元には俺の財布が、、、なんで?
「兄ちゃん、おばさんから交通費もらったあとそのまま靴箱に財布おきっぱだった。」
「げ、まじか。おりがと。」
「お礼なら気づいたおじさんにいってよ、それじゃ。」
手を振り、逆方向に舵を切る妹。全然違うところに中学校あるはずなのに、もうしわけない。マリ〇ーで言うところの、「3,2,1」の「2」でボタンを押したときのような、きれいなロケットスタートを決め、後は音を置き去りにしてひたすら走る。さすがです、運動部。お兄ちゃんに似ないでくれて、うれしいぞ。
瞬く間に見えなくなった日向がスピードのわりに安全運転であることを確認し安心したら、俺も学校につかなきゃ何気にヤバイ時間であることに気付く。財布をぽっけに突っ込み、俺は学校への近道である住宅街のほっそい道を行くことにする。閑静な住宅街の中にひっそりと佇むおんぼろ県立高校でよかった。時計の針は20分を少し超えたあたりを刺している。あと10分ないくらいか。秀和、ちょっと焦ってきたぞ。
横断歩道や、小学生中学生に邪魔されることなく、快適な通学ルートで幸せになれるこの道を俺の中での全速力、つまり一般的には小走りで走る。持ち前の方向感覚で裏門へと確実に近づいていく。
その時の
その一瞬の出来事だ。
俺の視界は何か黒く鈍く明度も彩度も低い何かにさえぎられた。
ブラックアウトだ。
そこで俺の金川県和泉市での記憶は途絶えている。
「おーい」
「?」
気が付くと、ブラックアウトから一転真っ白い、、、。白い?これは薄めの黄色?金色?よくわからないが、なんともふわふわしたような、ごつごつしたような空間にいた。
「あ、気づいたー。」
「、、、ここどこ」
「ここですか?ここはあなたと私の精神世界です。」
にんまりとしたかわいらしい笑顔。白い羽にわっかが頭の上に一つ。天使のような悪魔のようなよくわからない知らない女の人が目の前にいた。え、どういう状況。これ。だれ。日本がわかんのかな、Who are you?あ、でもさっき日本語しゃべってたか。いやでもマジで誰だこの人。ここ最近で一番の脳の回転スピードをもってして、俺はある一つの結論を導き出した。
「なるほど、トラックかなんかにはねられて死んで転生一歩手前なんですねわかりました。」
「まだそこまで言ってませーん。正解ですが、まだそこまで言ってませーん。」
「なろう系小説に魂を売ったと約1名の友人から揶揄されている男のなろう力なめないでください。」
「なろう力って何ですかー?なにいってるかよくわかりませんこのキモオタ。」
口悪いなこの天使みたいなやつ。ちょっとイメージと違うぞこの天使。もっとこう、、、高次元的な、何かじゃないのか天使ってのは。もっと超絶すごい力もってて、おしとやかで。天使の相場ってそういうものだと思うんだけどな。ちがうのかな。ちがったらすいません。
「ちょっとー、きいてるんですかー?」
あ、
「すいません、ちょっと思索に耽ってました。」
「この状況でよくそんな深淵な思考に入れますね。」
「僕は死んでどんな状況なんですか。」
「え、えー。切り替え早いな。」
「切り替えの早さは昔から自信があります。」
「えーと、どこから話せばいいんだろ。君は確かに今からとある異世界に転生してもらうんだけど、、、」
「そこじゃなくて」
「へ?」
天使の口がまさしく「へ」の字にゆがむ。不覚にもどきっとしてしまったのは内緒。
「そこじゃなくてどこなんですか?」
「現実での僕はどういう状況なんですか?もう死んでんですか?まだギリ踏みとどまってますか?」
「え?あ、あぁ。えーと、確か君はいま市立和泉病院のどっかの部屋で叔父叔母に囲まれてると思うよ。命はまだ取り留めてるけど、瀕死の重体ここに極まれりって感じだと思う。内臓から何から何までダイレクトアタックだったものの、どうにか致命的ななにかはなくてって感じ。」
「じゃあまだ俺は生き返れることができれるんですね。」
天使が目をまん丸くしてこちらを見てくる。豆鉄砲食らった鳩ってこういう顔するんだろうな。
「生き返るもなにもまだ生きてるから全然できるとは思うけど。」
「どうやったら意識戻れるんですか?」
もちろんただで帰れるとは思っていない。転生されてそのまま、みたいなのも多いけど、転生先から現実に戻ってきたライトノベルも多い。まだチャンスはある。あきらめてはいけない。俺はさらに天使に食い下がる。
「何をしたら現実世界に帰れる?このふざけた精神世界から。」
「、、、帰りたいの?」
「はい。」
「君は現実の世界に飽き飽きしてるんでしょ?」
「そうですよ?」
「それなら、転生後のことだけ考えればいいだろ?なんで、わざわざつまらないところに戻ろうとするんだ?」
「飽き飽きはしてますが、大石と日向と明日の飯があれば別にそっちの方が充実はしてると思いますよ、よくわかんない異世界より。」
「、、、どうしたものかな。」
天使が困ったように頭をかいている。なにか不都合でもあったのだろうか。
「てっきり喜ぶと思ったんだけどな。」
「喜びませんよ、別に。というか転生したことを普通に受け入れてる転生ものの主人公が異常なだけですよ。現実世界じゃそうはなりません。」
「まぁ、君があちらに戻るのは別に構わない。だが、こっちの世界でも今困りごとができててね、、、。君にやってもらわないといけないことがあるんだ。」
天使みたいなよくわかんない彼女は頭をかきながら俺に言う。その顔から見るに相当困っているらしい。
「そうだな、、、こうしよう。君が私たちの世界の困りごとを解決できたら五体満足で現実世界に戻らせよう。」
「わかりました。どういった困りごとなんですか?」
「凄いぐいぐい来るね。」
「さっさと帰りたいですから。」
「言っとくけど一朝一夕で終わらないからね?」
「もち」
「急にため口になったね。というかそれってため口なのかな。」
いや、僕に聞かれても困りますよ。天使っぽい人はあきれ気味にため息を一つこぼした。
「私たちの世界のは今ね、主人公がいないの。」
は?主人公?ごめんよくわかんない。もうちょっとかみ砕いて説明してほしい。
「いつまでたっても物語が完結しないの。だから、あなたに私たちの世界の物語を終わらせてほしいの。ハッピーエンドでね。」
「ちょっと話の内容がよくわかりません。」
「正直でよろしい。」
正直さには自信がありますから、わたくし。
「行ってみたら私が何を言いたいかわかりますよ。」
なんじゃそりゃ
「なんじゃそりゃ」
「心の声出ちゃってますよー。」
天使がゴミを見るような目でこっちを見てきた。そんな目で見ないでよ、悲しくなるだろこっちが。
「まぁ、いいです。それじゃ行きますよ。」
「え、どこに?」
「目的地にです。」
「え、うそ、ちょっと待って心の準備が、うわぁぁぁああぁああぁああああああああ。」
天使は大きく腕を振りかぶり俺の足元を殴る。すると、ふわふわした世界の床がたちまち崩れ落ちる。白い世界の壁の下は真っ黒、暗闇だ。俺はそのまま暗闇に吸い込まれていった。
おれの精神世界(笑)での記憶はここで途切れている。
異世界にまだ行ってないのは内緒。




