半夏生
皐月、教室。
葵:まーつーもーとーくん!
健:・・・!?な、なんですか?
葵:何やってんのー?
健:いや・・・次の授業に向けて予習を。
葵:へぇー、めっちゃ勉強してんだ。
健:ま、まぁ。
葵:アタシ、勉強だけはからっきしでさー。
葵:化学とか特に。元素記号とかどこの論語ですかー?って思うよ。
健:私も化学は苦手です。
葵:あれー?なんかそっけなくない?
健:別に・・・
葵:そんなに喋ったことないのにとか思ってる?
健:えぇ・・・特に何か関わった覚えもないです。
葵:いいじゃーん。同じクラスなんだし喋るくらい。
葵:あぁ。ごめーん!友達呼んでるから行くね。
---モノローグ---
健:彼女との出会いは、突然だった。
健:なんの面識も無かったのに、声をかけてきた。
健:ツレの人も言っていたけど、なんでこんな隠キャに?
---モノローグ(終)---
葉月、上旬。プラットホーム。
葵:あ!松本!
健:倉崎さん?
葵:もーう!同級生なんだし、敬語なんて堅苦しいぞ。
健:はぁ・・・
葵:どっか出かけんの?
健:夏期講習だからね。
葵:夏休みなのに学校行ってんの!?
健:まあ、勉強が資本ですし。
葵:なんか・・・疲れない?
健:行きたい大学あるんで。
葵:どこどこー?
健:どこでもいいでしょう。
葵:おしえてくれたっていいじゃーん。
健:府大だよ。
葵:松本、府大目指してんの!?
健:府大の法学部。
葵:へぇー!またまた大きく出てるねぇ。
健:だから勉強が必要なの。
葵:でもさぁ。勉強ばっかじゃ疲れない?
葵:いっつもランキング上位にいるのに、なんでそんなに勉強すんの?
健:少しでも合格率上げたいし、合格から先があるから。
葵:先?
健:弁護士になりたいの。
葵:そうなんだ!カッコいいね。
健:そう?
葵:アタシなんて、勉強しようとしても長く続かないんだよねー。
葵:・・・ねぇ?勉強ばっかしてる松本に提案なんだけどさ。
葵:今からアタシと遊ばない?
健:だから夏期講習があるって
葵:いいじゃん一日くらい!
健:仮に一日くらいだとしても
葵:松本さあ。高校生活謳歌してなさそうじゃん?
葵:だから、アタシが教えてあげようって思って。
健:でも・・・
葵:こういうのは急いだ方がいいよね!アタシ電話してあげるよ!
--学校に電話をかける葵(姉声で)--
葵:あ、もしもし。いつもお世話になっております。3年E組の松本健の姉です。
葵:実は、健が夏風邪を引いてしまったみたいで・・・夏期講習出れそうになくて。
葵:はい、健も最近頑張ってましたからね・・・少し休ませることにします。
葵:はい、ありがとうございます。健にも伝えておきますね。
--電話を切る--
葵:うん!これで良し!
健:ちょっ・・・!
葵:先生もしばらく休んでまた頑張れよ!健くらいの能力なら遅れは取り戻せるからなだってさ。
健:これがバレたら・・・
葵:サツの厄介にならなきゃバレないって。ほら、行こ。
健:というか倉崎さんはいいの?
葵:なにが?
健:倉崎さんこそ友達多そうなのに、僕なんかどうでもいい同級生でしょ?
葵:アタシが楽しいと思うからいいの!
葵:まあ、どうしても勉強したいなら、アタシと勉強しよ?
健:・・・
葵:もしかして・・・アタシみたいなギャルっ気あるのは苦手?
健:そんなことない(ですよ)
葵:(前の括弧にかぶせて)いーや、そんなことあるね!
葵:だってさっきから全然目を合わせてくれないし
葵: 授業中も周りの話し声でイライラしてるよね?
健:・・・はい。
葵:ごめんね、アタシも注意はしてるんだけど・・・
健:・・・
葵:でも、アタシのこと少しは見てくれてるよね?
健:えっ?
葵:松本みたいなタイプだと、苦手な人は避けるかなって思って。
葵:話聞いてくれもしないかなって思ってたら。
健:たしかに・・・
葵:それは・・・なんで?
健:なんか、巻き込まれてみるのもアリかなと思い始めた僕もいます。
葵:おお!そうこなくっちゃ!
葵:じゃあ行くよ!
葉月、上旬。プール
---モノローグ---
健:はじめての、ずる休み
健:自分から望んだものでは無いけれど
健:一夜の夢くらいに思っておこう。
---モノローグ(終)---
葵:お待たせー!
健:あぁ。
葵:今年買った水着なんだー!
健:そっ。そうなんだ・・・
葵:あ!もしかして水着姿とかマジマジと見たことないタイプー?
健:バ、馬鹿にしないでくださいよ。
葵:そっかぁ・・・体育の授業でコソッと見てくるスク水よりは刺激強いかなぁ(笑)?
健:み、見てないって!
葵:あれぇー?じゃあガン見するタイプー?
葵:松本ムッツリスケベだと思ってたらガッツリスケベだったんだね!
健:だからぁ!
葵:ふふっ、ごめんごめん!
葵:はじめて松本が怒ってるの見たかも♪
健:べ、別に怒ってるわけでは・・・
葵:いーよ!さ、スライダー行こっ。
スライダーを待つ列
葵:人いっぱいだねぇ。
健:そりゃ真夏だからね・・・
葵:しかしさー、松本ー
健:何?
葵:その水着は無いわぁ
健:いや、貸出の物だから選択肢無いですよ。
葵:なんでこうなる事想定して水着持ってないかねぇ。
健:普通こうなると思わないですよ!
葵:普段本読んで作者の気持ちとか登場人物の気持ちは読みまくれるのに、
葵:自分という物語に出てくる女性の気持ちは読めないんだね。
健:・・・倉崎さんって、頭良いよね?
葵:知らなかったの?アタシ、頭良いほうだよ?
健:自分で言っちゃうんですね。
葵:だって、学年ランキング2位とか3位とかにいるよ?
健:嘘!?
葵:松本ぉ・・・またダメなとこ出てるよ?
健:ダメな所?
葵:まあ、女の子と喋ったことも付き合ったことも無いなら当然か・・・
葵:でも大丈夫!これからは私が先生だから!
健:なんの?
葵:女心と冬の風についての授業かな。
健:うつろいやすいことに関する授業か。
葵:秋の空だって思わない?
健:使い方としては男心と秋の空が正しいですからね。
健:女心と冬の風は確か・・・イギリス?
葵:正解、イギリスのことわざだよ。
健:めっちゃ文系なんですね。
葵:そうなの!って、脱線しちゃったけど。
葵:これから松本には課題をやってもらわないと・・・
健:課題?
葵:これから毎日、松本と会う時に何か変えていくから、それに気づくこと。
健:毎日!?
葵:だって、夏期講習の間は外出の事実作らないとでしょ?
健:そうか・・・夏期講習残りも休むって言っちゃったんですよね?
葵:そうだよー?我が弟よ。
健:なった覚えはないです。
健:しかし、よく先生にバレませんでしたね。演技上手いんですね。
葵:そりゃあ・・・学校サボるのに必要な手段だから。
健:その技術をもっと他のことに使えそうなのに・・・
葵:そうだよね・・・
健:どうしました?
葵:ううん!なんでもない!
葵:あ!順番来たよ!
葵:私が後ろで、松本が前ね。
健:うん。
葵:私が落ちないように脚抱えててね!
健:はーい。
葵:まさか手よりも先に脚抱えられるとは
健:へっ!?
葵:気にしない気にしない!いくよ!
---モノローグ---
健:それからの夏休みは、あのウォータースライダーのように過ぎていった。
---モノローグ(終)---
葉月、中旬。ショッピングモール
葵:おはよう!松本!
健:おはよう。
葵:・・・(ニヤニヤと見つめる)
健:・・・?何かついてる?
葵:はいダメー!
健:何急に?
葵:言ったじゃん。何か変えてくるって。
健:言ってたね。
葵:そこは・・・松本から言ってこないと!
健:そうなの?
葵:バカだなぁ〜、女子はそういう変化を気づいてほしい生き物だよ?
健:わかった。
葵:で、変わったところは?
健:サングラス新しくしました?
葵:おぉ。それ気づいた!?
健:昨日とは形が違うなとは思っていました。
葵:流石、頭いいから記憶力は当然か。
---間---
葉月下旬。駅
健:あっ、おはよう。
葵:おはよー!
健:今日はズボンなんですね。
葵:おっ、気づいた?
健:ずっとスカートでしたもんね。
葵:そっちの方が好きなのかな?って思って。
健:なんで?
葵:おっぱい星人じゃなくてお尻星人かぁって思って。
健:はっ!?
葵:ほら、松本に性欲って存在するのかなって思って。
健:からかわないでよ・・・
葵:ドキッとした?アタシ、ボディライン自信あるんだよねー。
健:・・・(無言で照れる)
葵:松本さ、表情増えたよね。
健:そう?
葵:後口調も!最初の頃より砕けてきた。
健:まあ、これだけ一緒に居ればね。
葉月下旬。松本宅
葵:さあ、今日は勉強だ!
健:あら、珍しい。そういえば進学予定?
葵:うん!府大・・・なんだよね。
健:えっ!?
葵:あ!お前なんかがー?って思ったでしょー?
健:いや、ほんとは頭良いんだろうなとは思ってたけど府大とは思わなかった。
葵:まあ、本当は声優になりたかったんだけどねぇ・・・流石に夢だけでは食っていけないかなって。
健:それで演技も・・・
健:でも、内申とか大丈夫なの?
葵:やっぱそこ心配になっちゃうよねー
健:そりゃあ・・・あんな感じだからね。
葵:まあ、正直距離おこうかなあとは思ってるんだけど。
健:無理してるのかなとは思ったけど。
葵:えっ!?
健:なんかさぁ、この夏一緒にいると意外と礼儀正しくてちゃんとしてるのかなとは思ってた。
健:演技が出来るから、学校だけは違う自分でいたいのかもなって。
葵:流石、優等生には何も隠せないね。
葵:そう、昔から勉強しろって言われ続けちゃって、友達も居なかったから高校入学して変わりたいと思ったの。
健:僕から見たらすごいと思うけどな。
葵:すごいって?
健:僕は見ての通り、勉強しかしてこなかったから・・・くら・・・葵さんみたいに高校生としても楽しみながら勉強も出来るのが凄いなって思う。
葵:あ!!今は初めて名前で呼んでくれたね!
葵:めっちゃ良いよ!そのまま呼び捨てで呼んで!
健:ちょっ・・・勇気出して言ってみたのに!
葵:可愛いじゃん!もっと言ってこ!
健:・・・勉強、再開しよっか。
葵:もー!折角良いところだったのに!
---モノローグ---
健:あの時、名前で呼んだ理由は正直無い。
健:単なる同級生から友人に変わったからなのかもしれない。
健:それから、お互いの帰省等で夏休みは終わっていった。
健:始業式、彼女の姿は無かった。
---モノローグ(終)---
長月、学校
---モノローグ---
健:少し賑やかな教室に入り、席に座る。
健:彼女の姿が無いことに、動揺したまま学校が終わる。
---モノローグ(終)---
葵:健!
---モノローグ---
健:正門に居たのは、黒いショートカットの女性だった。
健:僕は、それが彼女だとは気づかなかった。
---モノローグ(終)---
健:・・・えっと。
葵:アタシだよ!葵。
健:葵!?
葵:クラス中から声かけられて全然声かけれなかったのー。
健:・・・ごめん、変わり過ぎて葵かすらわからなかった。
葵:酷いなー!健の好きなタイプに合わせてみたのに。
健:はっ!?
葵:動揺し過ぎ!呼び捨てにもなったのは嬉しいけど・・・これはまだまだ課題だらけね。
健:そりゃあ・・・転校しちゃったの?って思ったくらい
葵:先生も触れてたのにあんまり話聞いてないこともあるのね・・・珍しい。まあ、帰ろ。
長月、プラットホーム
健:そういえば、どうして髪型変えたの?
葵:健の家で2人で勉強した時あったじゃない?
健:うん。
葵:あの時に、エロ本隠してないかなって探してたら画集見つけちゃって!
健:おい・・・!
葵:その時の絵を見てね、こう言う女の子が好みなのかなって。
健:好みというか・・・あの画集のモデルは、昔の友達なんだ。
健:小学生の頃、仲が良かった友達でさ。病弱で学校になかなか来れてなくて、
健:家が近くだからプリントとか届けて帰ってたらたまの登校の時に仲良くなって。
健:小学3年生の夏くらいに転校しちゃってさ・・・全く気がつかなくて、サヨナラも言えなくて。
葵:初恋・・・みたいな?
健:・・・そう。居なくなってからさ、勉強に手がつかなくなって、気づいたら絵を描いてた。
健:忘れたく無かったんだろうね。それから、成長する姿を想像しながら描いたりしてた。
葵:・・・一途で良いじゃん!
健:女々しい男ですよ。
葵:で?その絵に似た私が現れて驚いた、と?
健:うん、全部思い出したよ。
葵:・・・思う気持ちはあっても見る目は無いね?
健:・・・ごめん。
葵:でも、忘れずにいてくれたのは嬉しいよ!
健:聞きたいことはいっぱいあるけど、今一つ聴いていい?
葵:なに?
健:・・・
葵:どうしたの?
健:・・・俺の初恋、実るかなぁ?
葵:・・・1%だって。
健:え・・・?
葵:初恋が実る確率。
葵:私も、もう会えないって思ってた。
葵:あの夏、私の体調が悪化して街を離れたの。
葵:会いたいってと思っても、身体は動かないし、動いたとしても家すら知らなかったからさ。
葵:もう二度と会えないって思ってた。
葵:そこから、病気入院病気入院の無限ループで正直死んだ方がマシとすら思ったの。
葵:でも、そんな時健が夢に現れたの。
---モノローグ---
健:行かないで!!!!
健:絶対!会えるから!
---モノローグ(終)---
葵:その夢が起きても、いくつ夜を超えてもずっと覚えててね。
葵:いつか現実になるんじゃ無いかって。
葵:こんなにも・・・思ってたんだよ?
葵:だから。
--葵の頬に軽くキス
葵:はっ。
健:僕の答えです。
葵:・・・大胆なことしてくるのね!
葵:成長したね。
健:これからの成長も、隣で見届けてくれる?
葵:・・・はい!
タイトルの半夏生には
「内気」「内なる情熱」という花言葉があります。
書き終えてからいざタイトル・・・となった時にすごく迷いました。
恋が咲く
健自身に秘められた情熱
夏の花
という点で、タイトルにしました。