1章 3話-すれ違い-
仲里桧璃が気になり、違法契約と知りながら戦う諒。
とんでもない異常な強さに敗れてしまう。
組織の違法契約よりも彼女が気になってしまう。
一体、彼女は何者なのだろうか。
次第に組織よりも彼女への興味が勝っていく。
昨日の出来事が嘘のようだ。本当に仲里桧璃と戦って無事に帰って来られたのだろうか。半ば意地で戦っていた。違法契約だと知らされた。彼女と戦う意味はほとんど無い。ほんの少しの好奇心が勝ってしまった。しかし……人間なのか、あの動き。いくらエーテルボディとスーツを着用したとしても人間離れし過ぎている。恐るべき瞬発力と身体能力……彼女が規格外だということにすんなり納得する。倒せない訳じゃない、そう考えていた自分が甘かったことに気づかされた。素直に認めよう、最初から最後までずっと手加減されていた。生身で戦っていれば2回ほど死んでいたタイミングがあった。華奢なあの身体の何処にあれほどの力が?
由佳:「大丈夫、昨日からずっと考え事?」
思わず自然と気になる人の名前が自分の口からこぼれ出た。
諒:「仲里先輩ってどんな人?」
由佳:「仲里先輩?そう言えば昨日絡まれたって聞いたよ。流石、諒くん!」
流石ではない。たぶん……象が蟻以外を見つけたという程度の感想だろう。それほど差があった。格が違い過ぎる、SSラウンダーとはどういう規格外の集団なのだ。
由佳:「仲里先輩は最強のラウンダー、女の子なら誰でも憧れていると思うよ。だって、SSラウンダーって仲里先輩しか居ないしね。」
彼女だけ規格外ということだろうか。これだけ、多くの隊員が居て彼女だけが?
由佳:「Sラウンダーって知っているよね?ガーディアンフォースの名誉ランカー。仲里先輩、強過ぎて全員降格させちゃったらしいわ。だからあの人、昇格試験に参加出来ないの。それでSSラウンダーという特別措置を受けているみたい。」
戦ってみて初めてわかる。彼女の強さは次元が違うというか……言葉に表せられない。目で見た鮮やかさとは裏腹にあの戦いは常識の外と言っていい。
由佳:「あの人、凄く綺麗だけど……近寄り難い感じするよね。まぁ、そんなに感じ悪い人でも無いけど……しっかり者というか?」
他にも詳しく教えてくれた。彼女が戦場に投入される際は“兵器”扱いされる。それなりの損害には目を瞑るということらしい。
柊一:「あぁ、こんなところに居たのか2人とも?次の模擬戦の打ち合わせをしよう。」
模擬戦か……戦術や戦力を競い合わせて小隊規模でポイントを稼ぎ、自分のラウンダーのランクを上げる。出来ることなら戦闘は避けたいものだ。実戦形式で人間同士を争わせても、あの化け物たち、レプリカントを倒せる有効的な訓練になるとは思えない。相手は人間じゃない。ではなんの為の模擬戦や演習なのだろうか……。
柊一:「明日の模擬戦は上位グループとぶつかる……城咲は草壁を援護。俺はいつも通り、囮役に徹する。頼んだよ。」
翌日、模擬戦が始まる。俺はいつも通りにポイントをゲットする。城咲も此方の援護でポイントをゲット。いつものように藤田は囮役でポイントは取れず、彼女との差が開く一方だ。なかなか苦しいところではあるが作戦立案と囮役でかなり俺たちは楽にポイントを稼ぐことが出来た。彼もそろそろポイントを稼がないとBラウンダーの彼女に置き去りにされてしまう。そうなれば益々彼女を守ることが難しくなるだろう。
柊一:「どうしても君や城咲のように上手くはいかないな。」
模擬戦が終わった後、彼と2人で会話していた。彼もなかなかに苦しい状況だろう。
諒:「焦っているのか?」
柊一:「そうかもしれない……俺は……!」
悔しそうに落ち込む彼を俺は労ってやった。彼には彼に出来ることがある。そして俺たちには出来ないことも彼ならやれることもあるだろう。
諒:「俺も城咲も……お前の努力は認めている。」
軽く肩を叩くとそれだけ言い残して俺はその場を去った。たぶん、彼は俺や城咲が羨ましいのだろう。いや……城咲を守れない自分に不満があるのだろう。帰ろうとすると施設の玄関先で見慣れた人影を見つける。今度は城咲か……この2人はすれ違っているというか……どうも一筋縄ではいかない関係らしい。
由佳:「……諒くん。」
諒:「藤田ならまだ休憩室だけど?」
彼の居場所を教えて立ち去ろうとすると珍しく彼女が此方の袖を引っ張った。
由佳:「あぁ、いや……用事があるのは君に、なんだけど。」
諒:「……?」
なんだかハッキリとしない態度だ。仕方ない、この借りは高くつくぞ、藤田。俺は彼女と一緒に帰る。少しだけ寄り道をしようと言われて公園のベンチに2人で座る。
由佳:「ごめんね、無理矢理つき合ってもらって……。」
諒:「いや、気にしていない。」
藤田のことだろうか?幼馴染だけあって話し難いこともあると思うが。
由佳:「諒くん……わざと手を抜いているよね?」
その言葉に俺は平静を装った。彼女には気づかれていないと思ったから。
諒:「いいや、俺は別に手を抜いてなんかいない。これが俺の実力だよ。」
由佳:「嘘。私、あなたの師匠だからわかるの。たぶん、あなたって入ってきた時から私より優秀だった。エーテルの扱い方も凄く安定していたし。」
なるほど……どうやら彼女のことを甘く見過ぎていたようだ。
由佳:「あなたって意外と優しいから……藤田くんに頼まれたとか?」
それも知っているとは恐れ入った。
由佳:「実はね……藤田くんの気持ちには気づいているの。でも……その気持ちには応えてあげられない。」
彼女の目的の為か、他に理由があるのかはわからない。どちらにせよ、俺が口を挟むことではないか。
由佳:「私、次からAラウンダーに昇格するの。それでね……。」
彼女は言い難そうに俯いた。
由佳:「これからは本気で戦って欲しい……私にはあなたが必要なの。」
諒:「それはもちろんそのつもりだ、藤田も一緒に……だろう?」
その言葉に彼女は再び俯いてしまった。
由佳:「藤田くんじゃなくて、諒くんが必要……かな。」
藤田じゃなくて俺が?どうして俺だけが彼女に?教えてもらうことはあっても俺が彼女を手助けするようなことは無かったように思える。もちろん、作戦上でお互い助け合ったりしたことはある。
由佳:「突然言われても迷惑だったよね、ごめんなさい。でも……藤田くんの作戦よりもあなたと一緒に戦場で背中を預けて戦う方が安心するの。」
藤田と彼女のことを思ってわざと手を抜いていた。長い目で見れば藤田も優秀な人材な訳で……俺は彼の成長に合わせて時間を稼いでいた。しかし、手を抜いていると言われればそれは間違いようの無い事実。あのSSラウンダーにもとっくに見破られている。俺は城咲になんと答えれば良い?その日は答えを出せず、そのまま気まずく彼女と別れたのだった。