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覚醒奴隷のニューワールド   作者: chaos シスルル
絶償
4/17

1幕 再会

 

 木にぶらさがったハンモックが揺れる。


 葉の隙間からはかすかに光がさしこむ。

 日のぬくもりが肌を心地よく刺激する。

 僕が帝国から逃げ出して、この孤児院に来てから3か月。

 奴隷だった頃の傷は徐々に癒され、孤児院の生活にも慣れてきた。


「アオイー?いつまで外にいるの?そろそろ夕ご飯にするわよ。」

「はーい、ヒズラ母さん」


 この人はヒズラ母さん、この孤児院の修道女で、僕たちの世話をしてくれる大好きなお母さんだ。

「あ!アオイ兄ちゃんだ。どこ行ってたの?遊んでくれるって言ったじゃん。」

「アオイ兄ちゃんの噓つき!」

「噓つきは泥棒の始まりだよ!」

「うわあ、泥棒だ!」

「泥棒兄ちゃんだ!」

「泥棒は捕まっちゃうんだよ!刑務所いきだ!」

「囚人じゃん!」

「囚人兄ちゃん!」


どうしてこうなった…


「ごめんよ、みんな」



「ヒズラお母さん!囚人が帰ってきたよ!」

「あらあら、アオイ。1人で何してたの? ほかの子もアオイと遊びたがってたようだけど?」


「ただ外を眺めてただけだよ。」


「いきたいのね、そとに」

 ヒズラ母さんが悲しそうに、つぶやく。

 ヒズラ母さんの横顔に胸がしめつけられる。

 この孤児院が嫌いなわけじゃない。

 むしろ平穏で、心が暖まる、

 そのうえ孤児院はものすごく居心地がいい。


 でも、ずっとここにいて、外の世界に戻らず、父さんの仇も討たないまま、一生を終えるなんて、

 そんなのいいわけがない。



「ヒズラお母さん、ごめんなさい、でも僕…」

「わかったわ、でも明日、1度私と外の世界を見に行ってみましょう。また気が変わるかもしれないわ」


 こうして僕は再び、外の世界に出ることになった。


 ◇

「アオイお兄ちゃん?アオイお兄ちゃん?」

 鼓膜を包み込むような、優しい声で、目が覚める。

「朝だよ!出かけるんでしょ!」

「スザク、ああそうだね。」。

 外の世界に出るなら、スザクをはじめとする孤児院の家族たちと別れなければならない。

 言葉では理解していたことなのに、胸の筋肉が心を締め付ける。

「少し出かけてくるから、留守を任せたよ。」

「うん、まかせて」

 それは、まるで、一輪の向日葵のような笑顔だった、



 ◇


 孤児院の門の鎖が外れる。

 爽やかな風が、背中を吹き抜ける。

 眼前に新しい世界が映し出される。

「これが外の世界…」

「そうよ、アオイ」


 そこにあるのは、一面に広がる、草原や木々、

 そして、その奥には、赤煉瓦の街並みが続いている。

 新鮮な景色に、胸が高鳴る。


「とりあえず、町のほうまで行ってみようか」

「うん、そうだね」


 草の浅いところをえらんで、街のほうまで走り抜ける。


「アオイー もう 、ころばないようにね。」

「わかってるって、ヒズラ母さん」

 しばらく走ると、街が見えてきた、草原を抜けたのだ.



 ◇

 街の前には、検問所があった。

 どうやらこの街はフロシアというらしい。

 僕と母さんは列に並ぶ。


「はい、次の者」

「2人で、荷物は特にないです。目的は観光です。」

「って、ヒズラじゃねえか」

「あら、へレス少尉?6年ぶりね」


「ああ、となりのこどもは、孤児院からか?」

「ええ、アオイよ」

「そうか、うん。」


 一瞬だが、へレス少尉の顔に曇りがさしているように見えた。


「まあ、今日は初めての街を楽しむといい。いいものばかりとは、限らんが」

「はい、へレスさん」


 この国の関所税は一律で銅貨3枚である。ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚である。


 僕たちは、銅貨3枚を支払って、街の中へ、中へと、歩みを進める。

 フロシアの街に入ると、目の前には、にぎやかな街道が広がっている。

 その奥には、街の象徴たる城が、またたいている。

「母さん、あの城を見に行きたい」

 といい終わらないうちに、お腹が、しぼんだ風船のような情けない音を発する。


 ガス欠のようだ。


「その前にお昼ごはんにしましょうか。」

 母さんがくすくす笑いながらそう言う。

「うん…」

 こうして僕たちは、腹ごしらえに店を探すことになった。


 ◇

「ここはどうかしら」

 ある店の前で、ヒズラ母さんが立ち止まる。

 何の店だろうか。

 メニューを見ようと、しゃがみこむ。

 僕がメニューを開けようとしたその時、

 後ろからノイズのような怒鳴り声が聞こえた。


「おい、臭い息を吐くな、空気が汚れる」

「も、申し訳ありません。ご主人様」

 赤髮の少女がかすれた声をあげる。

「お前ごときの役立たずのためにいくら金がかかってると思う。このただ飯ぐらいが」


 街を通る人々は、それを見て一度流れを止めて立ち止まったが、すぐにまるで何もなかったかのように動き始めている。


「母さん、あれはもしかして、」

「ええ、奴隷ね。」

 母さんがすこし動揺したようにそういった。


 奴隷の赤髪の少女はこっちに気が付いたのか、訴えかけるようにこっちを見ている。

 僕は昔の自分を見てるような気がして、胸が痛くなった。

「何を見ている、おい、いくぞ。」

 主人は、彼女を連れて歩き始めた。


「母さん、僕は彼女が何か言いたいように見えました。ほっておけません、昔の自分を見ているようで…」

「ええ。アオイも知ってるように、奴隷は奴隷術で、余計な行動ができないように拘束されてるの。実はね、さっきの子は8年前まで、うちの孤児院にいたの。でも、8年前、彼女は外に出たいといって出て行ってしまったの。それから一切音沙汰がなかったから、心配してたのだけど奴隷になってしまったとはおもわなかったわ。」



「彼女を救い出す方法はないんですか?」

「残念だけど、一度奴隷になった人を救うには、莫大な財産か権力がないと無理なの。

 でも孤児院にはそんな金も権力もないのよ」

 ヒズラ母さんは、辛そうな顔をしてそう告げる。


「母さん、いつか僕が外に出て彼女を取り戻します。僕にとって、母さんに泣かれるのが一番つらいんです。」

「アオイ、やめて。あなたをまた奴隷にさせたく、


「きゃあああああああ!」


 街の西側から悲鳴が響く。

 この事態に、さっきの奴隷も含め、近くの通行人は歩みをとめた。

 あたりが、静寂に包まれる。



 悲鳴が聞こえた方向から、ハチの巣をついたように逃げる群衆を見て、あたりは騒然となった。


「母さん、何事でしょうか?」

「わからないわ」

 周りを見ると、同じように不安そうな感じをただよわせている。



「帝国兵だ、まさかこんなところまで」

 近くの金髪の男性がそうつぶやいた。

「帝国兵?」 「帝国兵だと?」


 そのつぶやきが周囲に伝播して、民衆がパニックに陥るまでそう時間はかからなかった。

 慌てて東へ逃げ出す人や、あきらめたようにたちつくす人、狂ったように家族の名前をつぶやく人すらいた。



「かあさん、帝国兵とはなんですか?まさか…」

 母さんは、それにこたえる代わりに、僕の手を引き東門に向けて走り出した。




 ◇

 東門では、急に内側から押し寄せてきた民衆に対応に、苦難していた。

「向こうから帝国兵が押し寄せてきたんだ、早く逃げないと皆殺しにされるぞ!」

「門を開けろ!」

 民衆から怒号が響く。


「ばかな、帝国兵だと?前線が抜かれたという報告も来ていないぞ?」

「しかし、大佐。実際に民衆が暴動を起こしています」

「だが、本当だとすると、かなりまずいそ、へレスよ」

「至急、民衆を避難させ、兵を東門を中心に密集させるべきです」

「間に合うのか。」

「やるしかありません。ここで食い止めなければ、帝国兵は内部になだれ込み、帝国軍の猛攻を許すことになります。」

「わかった、儂は、兵をかき集める、おぬしはここで避難誘導をすませろ」

「了解しました、大佐!」


 門が開き、民衆が大勢外へ脱出する。


「押さないで、落ち着いて避難してください。」



 ◇

「アオイ、こっちよ。」

 僕たちは渋滞する大通りをさけて、母さんの知る抜け道から東門を目指していた。

 あっという間に東門につく。

 そこには、大勢の民衆が列をなしていた。

「意外と落ち着いているようですが」

「ええ、そうね。きっとへレス少尉が避難誘導してるのね」

 僕たちは、列の後ろに並ぶ。

 その後ろを見ると、多数の兵隊が、民衆の後ろを警護していた、



 ◇

「次のもの、早く続け!」

 門ではへレス少尉が民を誘導している。

 門から抜けるとき、へレス少尉と目が合った。

「無事を祈る」

 へレス少尉の目はそう言っているようだった、


 こうして僕と母さんは無事、街を脱出した。


「アオイ、孤児院についたら、荷物をまとめて。

 逃げるわよ。前線後方の要所であるフロシアが陥ちたら、孤児院も危ない、」

「了解です、母さん」


 すでに日は傾き、血のように赤い夕焼けと、

 ヒグラシのなきごえがあたりに響いていた。










 ◇

 草原を抜ければ、孤児院の門が見えてくる


 ()()()()()


 しかし、そこには以前の孤児院はなかった。

 目の前にあるのは、燃え盛る孤児院だった、

 僕は茫然とまえをみつめる。

「かあさん、これは」

 夜の闇と、孤児院の炎で、目がちかちかする。



「アオイ、母さんは孤児院に戻るから、あなたは先に逃げなさい」

「そんな。母さん。いやだ」

「アオイ、ごめんなさい。でも、わたしは行かなくちゃ、身勝手な母さんを許して」

 母さんは孤児院に向かっ走り出した。




 しばらく、僕はひとりで、孤児院を見つめていた。


 このまま逃げていいのかー

 後悔しないのかー


 いや、するに決まっている。

 まだ、僕は孤児院の仲間に別れを告げていない、

 そればかりか、一番世話になった、大好きな母さんに感謝の思いすら伝えていない、

 なら、もうすることは決まってる。


 暗闇の中、僕は孤児院に駆け出した。






 ◇

 炎上する孤児院の門をぬけると、孤児院の庭に出た。

 庭には、孤児院で暮らした家族の亡骸が転がっていた。


「スザク!」

 孤児院から出る前に見たスザクの笑顔が、脳裏によみがえる。

 スザクの亡骸は、何者かに食い散らかされたようであった。

「なんで、こんなことに…」


「ア、アオイ…」

「かあさん!!」

 母さんは体中にやけどの傷を負っていた。

「アオイ、帝国軍が探してるわ。何人かはうまく逃がしたけど、もうすでにたくさん子どもが殺された。あなた一人なら逃げられるわ。」

「いやだ、母さんも一緒に逃げよう。」

「いいえ、私はもう足手まといにしかならないわ。それよりもアオイだけでも逃げて。それから生き延びた子供たちを探し出して助けてほしいの。」

「いやだ、母さん」


「アオイ、今まで楽しいときを私にくれてありがとう。ごめんね、あなたを最後みんなで送り出すことができなくて。でもこれだけは忘れないで、あなたのそばにはいつでも孤児院のみんなとつくった思い出が…」

「かあさん、いままで捨てられた僕に、愛情をもって育ててくれてありがとう。」

 涙が溢れ、頬からつたいおちる。

「アオイ、形見替わりにこれを持っていきなさい。生き延びた子たちを任せたわよ」

 僕は、形見の水晶と金貨の入った袋を受け取る。

「母さん、ありがとう。」

 僕は、涙を振りほどきながら孤児院を背に走りだした。






明日も出します。

評価をくれると更新速度が上昇するらしいです。

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