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第三話 なまえ



「うぅ~~ん...どうしよう...」


漫画の名も無き美女に転生した、次の日の朝。

34歳の元サラリーマンの俺、中井春樹はある事で悩んでいた。


「アリスもいいし、メリーもいいな...。いやでも馴染めないかもしれないなぁ...」


そう、それは名前だ。

折角美女に転生したのだから可愛い名前でいようと思い、自分で名を付ける事にした。

生憎俺は転生した後の記憶しか持っていないし、元の名前も知らないので無いと困る。


まず漫画のメインキャラクターと被るのは面倒くさくなりそうだから駄目だろ、

そんでもって馴染みやすい洋風の名前...


駄目だ、可愛いのは思い浮かぶが、中身が30代のおじさんともなると...

少々拒むものがある。



だがしかし名前も無いと、村に出て働けない。

たとえ美女だとしても自分の名前を知らないと、気味が悪くなってしまう。



因みに女の子のメインキャラクターの名前は、

アン、リタ、フローの三人だ。

どの子も美少女で、愛らしい容姿をしている。



アンは少々強気だが、

勇者として勤しみ、慈悲深い主人公に惹かれ、パーティーの一員となった。

金髪と、吊り上がった赤色の瞳が何ともかっこいい。



強気なアンに対してリタはかなり弱気な少女だ。

主人公を尊敬しているが、パーティーに入るのは躊躇していた。

その後のアンに勇気づけられて入ることを決心するシーンが感動ものである。

ふわふわとした長い黒髪と、青色の瞳が可愛らしい。



そして俺が漫画で一番好きでグッズを買い集めていたキャラクター、フロー。

穏やかな子で、誰にでも優しい、所謂女神みたいな子である。

見た目は銀色の髪に緑色の目という、正に天使のような風貌。



あわよくばこの世界でその子たちに会いたいが、会っても語彙力の欠片もない

言葉を口から出し、気まずい空気になるだけだろう。

いや、嫌そうな、侮蔑するような顔で見られるかもしれない。


「...それは悪くないかもな」


いや、何を考えているんだ。

今は名前を考えなければ...


俺は一通り思い付いた名前を紙に書く。


「レン、リア、スラ...」


二文字がいっぱい並んでいるが、どれもパッとしない。

自分で考えた精一杯の可愛い名前だが、何だかなぁ...、という感じだ。


「もういっその事花子とか...。hanako...いやちょっと違和感あるかぁ」


せめて女の子っぽい名前が良い...

紙に俺が咄嗟に思い付いた名前、「hanako」を書こうとしたその時だった。







「ごめんくださーい!何方かいらっしゃいませんかー?」


扉を叩く音と共に、聞き覚えのある、いや何十、何百回と聞いた声が聞こえて来た。

凛とした涼やかながらはっきりとした、女の子の声。



「は...はい...」


俺がゆっくりと扉を開けてその先を見る。

そして、そこにいたのは予想通りの人物であった。


サラサラの金髪が柔らかな風で靡いており、赤色の強気な瞳が私を見下ろす。

そして目の前には豊満な胸。


この世界での主要人物、アンだ。


「え、あ、えーっと...お名前は...?」


アンは俺を見るなり、いきなり戸惑いだした。

え、俺の上目遣いそんなに気持ち悪かっただろうか。

この姿でも内側から中年の男っぽさが滲み出ていたり...


「あの...お名前...」


「あ、えと、そのぉ...」


目の前にいるアンの神々しさと、名前をまだ決めていない戸惑いでどもってしまう。

頑張れサラリーマン!

満員電車に揺られ、お偉いさんに頭を下げていたあの日々を思い出せ!

こんなの目じゃないだろう!

そう自分に言い聞かせても、名前は出て来ない。


「は、はる...き...」


生前の名前を咄嗟に俺は出す。

あぁ駄目だ...俺は洋風の美女に適した、そして俺好みの名前を付ける事が出来なかった...



「ハ、ハル?さんかしら...」


「ハッ!!」


その時、俺のどもりとアンの聞き間違えが奇跡を産んだ。


「う、うん!ハル、ハルです!」


アンは相変わらず苦笑いをしているが、

俺はただ目を輝かせてこの世界に来て初めて、未来が明るく感じた。

ハル...かぁ。なんて素敵な響きだろうか。

華やかすぎるわけでもなく、地味すぎる名前でもない。

所謂、普通に可愛い名前。


俺が求めていたのはこれだった...。



「えっとハルさん、ですね?あの、この家にはいつ引っ越してこられましたか?」



そう言われた時、天に舞い上がっていた俺の意識は一気にリアルに引き戻された。

そして俺の表情も固まる。


どうしようか...

流石に『昨日転生してきちゃいましたーww』なんて言えないだろう。

ここは無難に5年前とかでいくか。

というか何でそんなこと聞かれているのだろうか...


「5年前に引っ越してきました...えへへ、あの何でそんな事聞くんですか?」


必殺!!上目遣い!!


実は俺は名前を決める前にこっそり鏡を見ながら上目遣いの練習をしてきたのだ。

おかげで目が乾燥しまくったが、自分でも満足できるくらいの可愛さになっただろう!

女の子相手にこれが効くかは分からないが、少しは怯むか...?



「.........いえ、何でもありません」


すごく冷たい目で見られた。

もしかしたら勘違いかもしれないが、

まるでひっくり返ったテントウムシを見るかのような目で俺を見て来た。



...しばらく、上目遣いはしないでおこう






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