第二話 俺は美女
「あ」
ここは一体何処だ...。
えっと状況を一旦確認しよう。
確かおっさん屋上に引っ張って、フェンス乗って、フェンスぶっ壊れて、
そんでめっちゃ真っ逆さまに落ちて...。
「あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
俺、死んだんだ...!
まだ40年は生きれる自身あったのに、あんな一瞬で!
嫁どころか彼女すら十年以上出来ない人生だったなんて...。
「ってあれ...?」
俺は突然肩に今まで無かった重みと、すぐ近くに聞こえた高い声に気が付いた。
下を見てみると、そこには丸みを帯びたおっぱいらしきものがあり、
筋肉質だった足はスラッとした足に変わっている。
「もしかして...」
俺は咄嗟に鏡らしきものを探す。
丁度俺が寝ていたベットの隣に手鏡が置いてあり、俺はそれを覗き見た。
するとそこにいたのは、
茶髪のくるんとしたボブヘアの美少女だった。
いや、美少女というより可愛らしい顔、といったほうがあっているのだろうか。
くりっとした外国人のような青色の目はじっと俺を見つめてきていて正直照れる。
だがしかし、きっとこれは俺なんだろう。
この女の子が、この美少女が、俺...。
「うっしゃぁぁぁぁぁ!!」
俺はその場で飛び上がる。
普段ならこんな風に叫んだらおっさんの声しか出ないが、喉から出るのは華憐な女の子の声。
俺は遂におっさんを卒業して美少女になったのか...!
ここまで幸せな事が前世にあっただろうか。
まぁ前世の記憶も薄れてきてはいるのだが。
断片的な記憶は覚えている。
俺はもう一度鏡をまじまじと食い入るように見る。
「あー可愛い。やっば」
そういえばこんなキャラいたよなー
俺は前世でとある一つの漫画を二年間ほど読み続けていた。
主人公が魔王を倒すテンプレのRPGのような内容だが、当時の俺には夢中になれるものだったのだ。
確かこれに似てたキャラは...。
あっ、そうか。最初に死んでたキャラだ。
かなり顔が良かったけど死に顔だったんだよな...。
丁度その子に服装も顔もよく似ている。
そういえば今俺のいる謎の部屋も似てるなー
偶然ってこんなあるものなんだな...
いや待ておかしい。
俺は脳内に焼き付けた最初の場面を振り返る。
くるっとした内巻きのボブヘア、青色の目、質素な服、そして胸の大きさ...。
全てが一致している。
「あれ...?つまりそれって...」
俺、やばくね?
確かこの子は序盤に魔王の直属の手下に殺されていた。それはもう無惨な方法で。
主人公はそれで魔王の残酷さを知り、倒そうとするのだ。
つまり、俺は話の序盤で大切な死亡シーンの名も無き人間になってしまったというわけだ。
「くっそ、そんなんありかよぉぉ...」
俺は机に突っ伏す。
せっかく美少女になったんだから楽しみたかったのに...
何でモブに生まれ変わったのに死ななきゃなんだよぉ...
「あっ」
その時俺は気付いた。
そうだ、倒されないよう逃げればいいんだ。
案外それは簡単なことだった。
荷物をまとめ、最初の村へと行って働けばいい。
「なーんだ、簡単じゃねぇか」
俺は早速明日出ることにした。
何だかんだ考えているうちに外はもう暗いし、とっとと寝よう。
俺は布団に潜って明日の事に関して脳内でシミュレーションをするのだった...