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第八話 迫る絶命

 骸鳥は骨同士をガタガタと震わせる。


 イオーネとロナーは一度攻撃を中止し、地上に降りた。


「ッぐ……そうね。翼! 翼の部分を同時に攻撃するわよ!」


「了解!」


 もう一度モチに合図を送り、補助魔法をかけてもらう。

 そして先ほどと同じ手順で跳躍する。


 今度は骸鳥の右側の翼を破壊すべく、同時攻撃に出た。


「せりゃああああァアア!!」


 翼の付け根に浴びせた二人の斬撃は、またしても何事もなかったかのように消し去られる。


「マジっすか! ……どんだけ硬いんすか!」


 目を丸くするロナー。

 同じくイオーネも驚きを隠すことができずにいたが、妙な圧を感じる。


「――はッ!? ロナー!」


「なんすか? ……ってウォォオ!?」


 翼に乗っていたロナーと、間近にいたイオーネは突如として噴き出した蒸気によって吹き飛ばされた。


 二人はモチとティーガンのところまで転げ落ちた。


「大丈夫!? 二人とも」


 ティーガンがすぐさま駆けつけ、二人に回復魔法をかける。

 幸い、落下する寸前に異変に気が付いたモチによってかけられた補助魔法によって衝撃は最小限に抑えられた。


「えぇ、だけどあれじゃ近づけない……」


 蒸気の成分も気になるところではあるが、何より物理的に近づくことができないでいた。

 掴まっている人間を容易に吹き飛ばすことのできるだけの風力。

 あれがある限り太刀打ちできない。


「せ、先輩……あれって」


 ロナーは顔を青くしながら、彼方に向けて指をさす。


 夕陽の向こうからやってきたそれは、まさに絶望に他ならなかった。


「つがい!? そんな……聞いてないわよ」


 襲来したそれは、既に対峙している骸鳥より一回り大きい図体をしている、恐らくはオスの骸鳥であった。

 翼を羽ばたかせる度に木々は揺れ、土煙が舞う。

 メスの骸鳥を守るようにオスの骸鳥はイオーネたちの前に立ち塞がった。


「ま~ずいねこりゃ」


 予想外の出来事に笑うことしかできないモチ。

 そんなことはお構いなしに、オスの骸鳥は身をかがめて臨戦態勢に入る。


「取り敢えず……ロナー、手分けして戦うわよ」


「手分けって……いけるんすか先輩? まだ一匹だけでも無理なのに」


 明らかに無謀な戦法。

 (はな)から勝算など無かった。

 それは骸鳥が一羽であろうと二羽であろうと同じこと。


 ただ死なないレベルの危機的状況が必要だったのだ。


「いいからやるわよ! 危なくなったらお得意の逃げ足を使いなさい」


「わかりましたよ! もっかいバフお願いしてもらっていいっすか」


 半ばヤケクソに返事をするロナー。

 長い付き合いである先輩イオーネの性格をよくわかっているのだ。


「うい~頑張って~」


 モチは軽い言葉を発しながらも、出せるだけ全ての補助魔法を二人に与えた。


 ロナーはメスの骸鳥へ、イオーネはオスの骸鳥へ向けてそれぞれ駆ける。

 当初は蒸気で近づくことすらできないと思われていたが、あれはどうやら常に使用できるわけではないらしい。

 近づくことでわかったが、メスの骸鳥は蒸気を使ったことの影響か体力を少しばかり失っているようにも見える。


 この好機を逃すまいと、二人は全力で二羽の翼へ向けて剣を振り下ろした。


「せりゃああァアア!!」


 鈍い音が響くが、ビクともしない。

 逆に彼女らの腕の筋肉と骨が悲鳴を上げていた。


「くッ……やっぱ全然効かない……」


 断念しようと骸鳥から離れた瞬間、ティーガンの声が響く。


「イオちゃん! 危ない!」


「え」


 オスの骸鳥から離れた刹那、メスの骸鳥の鋭利な爪がイオーネの腕を切り裂いた。


「いッ……」


 血が噴き出し、痛みのあまりそのまま転げ落ちる。


「今回復を!」


 ティーガンは彼女の元へ駆け寄ろうとするが、またあの蒸気が噴き出した。

 今度はオスの骸鳥によるものだ。


 ティーガンが近づけないことを察したモチは、メスの骸鳥がイオーネに攻撃する際に振り落とされたロナーに向けて叫ぶ。


「ロナロナ! イオイオが!」


 モチは残量のほとんどなくなってしまったスピード魔法をロナーにかける。

 強化されたロナーは、全速力でイオーネの元へ走り出す。


「先輩ッ!」


 落下したはずみで意識が曖昧なのか、イオーネはその場から動けずにいた。

 そんな彼女を、オスの骸鳥が踏み潰そうと巨大な脚を上げる。


「間に合わない……!」


 あと少し、ほんの少しだけ届かない。

 あまりにも焦るあまり、脚が絡まりロナーは転倒する。


「はっ……く」


 眼前に迫る巨大な足裏。

 イオーネは死を覚悟し、目をぎゅっと瞑る。


 走馬灯など走る余裕もなく、着実に肉塊へのカウントダウンが始まっていた。


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