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インター・フォン  作者: ゆずさくら
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03




 頭痛のせいか、俺は居間で寝てしまったようだった。

 起き上がろうとすると全身が筋肉痛のように痛かった。今朝、インターフォンを押した男を追いかけるため、サンダル履きなのに無理に走ったせいで、変な筋肉を使ったのだろう、と俺は思った。

 真っ暗い居間を壁まで歩き、部屋の明かりをつけた。

 お腹が減っている。と思い、部屋の時計で時間を確認した。

「もうこんな時間か」

 部屋が暗いのも無理はない。もう、いつもの夕食の時間を一時間以上過ぎていた。

 家族のLINEを見るが、妻も、(いつき)沙耶(さや)も何も書き込んでいない。

「おい、誰かいるか?」

 答える者は誰もいなかった。

 樹は自室で寝ているか、ヘッドホンをつけてゲームをしているのだろう。

 沙耶は…… 出かける時に夕飯を食べてくる、とか言っていただろうか。

 そして妻。

 妻は買い物に行っているはずだった。しかし、余りに帰ってくるのが遅い。もしかすると…… 俺は推測した。

 樹が言っていたホテルに、ナツメ・ホテルに部屋をとり、不倫相手と一緒に過ごしているのだろうか。もうこの家に、俺のところには戻ってくるつもりはないのだろうか。

 誰もいない家で、一人、何も言えないまま妻と別れ、家族がバラバラになっていくのだろうか。

 話し合い、お互いの溝を埋めることは出来ないにしろ、それを理解することが出来たかもしれない。

 顔を見たかった。とにかく、妻に会いたかった。

 その時、インターフォンが鳴った。

 俺は震えた。

 親機の映像を確認せず、玄関を飛び出し、走っていた。

 いた! 俺は三軒先の家の角を曲がっていく者の姿を見ると、全力で走った。

 体が痛い。全身に疲れが残っている。

 しかし、この人物を捉えないと、俺と妻、家族の関係を取り戻せない。

 そいつが、そいつの謎の動画が、すべての始まりなのだから。

 角を曲がると、その先に走っていく影を見た。俺はその姿を追いかけるように走る。

「!」

 少し幅の広い通りを渡ろうとした時だった。

 クラクションを鳴らし、車が突っ込んできた。

 俺は懸命に踏ん張って、渡るのを止めた。

 すると車はクラクションを連打しながら通り過ぎていく。ドライバーは俺をにらみつけていた。

「……」

 渡った先の通りには、追いかけていた人影は見えなくなっていた。

 俺はとりあえず通りを渡り、姿が見えなくなる前にいたあたりまで行って、あたりにまだいないか確認した。

 しばらく、あてもなくインターフォンを押す人物を探し回った。

 近所の住宅街を歩いているときに、俺は家に鍵をかけていないことに気が付いた。

「まずい!」

 息が整ったばかりだった体が酸素を欲し、また呼吸が激しくなり始める。

 筋肉痛で悲鳴を上げる体を無理やり動かしながら、家に着くと中に入り、鍵を締めた。

 廊下に腰を下ろして、壁に背中をつけて体で息をしていた。

「?」

 インターフォンの親機が点滅している。

 見ていない映像がある、という意味の点滅だった。

 たしかに、さっきインターフォンが鳴った時、俺はろくに確認もせず飛び出して追いかけた。

 おそらくその分の映像を『見ていない』と通知しているのだろう。

 呼吸が整わないまま、壁に背中をつけたまま立ち上がり、インターフォンの親機のところまであるいた。

「三件?」

 俺は焦った。

 三件も見ていない映像がある? さっき鳴ったより前に記録されたのか、それとも……

 映像には時刻がついていて、順番に並んでいた。

 一件は頭痛がして俺が居間で寝ていた時に記録されたものらしかった。全然気づかなかった。それだけ深く寝ていたというこことか。

 残りの二件は俺が出た確認したものか、その前後に記録されたものらしかった。インターフォンを鳴らした人物は、俺を撒いた後、家に戻ってきてもう一つ映像を残したということになる。

 俺は、見ていない映像を順番に再生した。

 一つ目は、俺が寝ていたであろう時間帯に記録されたもの。

 マスクとサングラスで性別も年齢もよく判らない。背景は記録された時間通り、明るかった。すぐに紙を広げて画面はQRコードになった。

 俺はそれをスマフォで記録する。

 QRコードの先は見ずに、次の映像に進む。時刻のせいか、背景は真っ暗だった。

 今まで同じように、マスクとサングラスをかけていて人物を判別できないままQRコードを見せて終わっている。

 今度もQRコードを記録するだけして、インターフォンで次の映像を確認する。

「同じか」

 まったく同じだった。なんの手掛かりにもならない。ただ、すべてQRコードだけが違っている。

 俺は、壁に背中をつけ、息を整えた。

 そしてスマフォを操作して、記録してあるQRコードを順に確認していくことにした。

 一つ目のQRコード。

 これはヨウツベのURLだった。俺は躊躇なくリンクをクリックした。

「えっ?」

 画面には『コンテンツは削除されました』とある。見ると、アカウントごと削除されているように思える。

「どういうことなんだ……」

 動画が削除される場合を調べてみる。

 一つは著作権を侵害しているもの。他人の映像や音楽をパクったりするものだ。もう一つはガイドラインに違反したもの。わいせつ映像や暴力などが相当する。

 著作権に違反するような映像が上げられた、というのは考え辛かった。おそらくこの人物は、この家の近所とこの家の人物を撮影した映像をアップしたはずだ。今までも他人の音楽をつけるなどと言った加工はしていなかったから、著作権に引っかかって動画が消えたわけではないだろう。

 すると、わいせつか、暴力……

 まさか、妻と浮気相手が関係している画像だろうか。

 ありえない話ではない。俺は怒りが湧いてきた。

 怒りのままに、次のQRコードを確認する。これもヨウツベのURLだった。何も考えないまま、リンクをクリックする。

「えっ?」

 いきなり始まったのは我が家の中で撮影された映像だった。

 音声は入っていない。

 廊下を通って、階段を上がる。そして長男、(いつき)の部屋を開ける。驚いたような息子の顔。映像が止まり、その顔がクローズアップされて止まってしまう。

 俺は腕を組んで考えた。

 誰だ。この映像を映したのは誰なんだ。

 そしていつの映像を上げている。

 音声を入れていないのはなぜだ。

 樹が何か言っているが、口の動きだけでは何を言っているかさっぱりわからない。

 妻の浮気相手が、樹の部屋に入るとは考え難い。

 だとすると、樹の友達が撮ったものか。それを偶然入手した者が面白半分に編集してアップした。そう考えるのが自然か。

 髪型や服を見る限り、まるで今日撮ったかのような映像だ。しかし、あの服をいつから持っていたかとか、髪型がいつ頃から変わっていないかなんてはっきり記憶もない。

 そして最後のQRコード。

 やはりヨウツベだった。次のURLも動画が始まる物と思って身構えていると、コンテンツは削除されましたと表示される。

 また妻の映像だ。

 削除されていると表示された瞬間、俺はそう決めつけていた。

 繰り返すようだが、削除される理由は著作権の侵害。もう一つはガイドラインへの抵触。わいせつや暴力といったコンテンツだ。

 削除されたものを上げたのだとしたら、おそらく妻の浮気現場の映像だろう。俺は怒りで頭が痛くなり始めていた。

 突然、インターフォンが鳴り、画像が表示された。

沙耶(さや)か?」

「……」

 長女はそのまま無言で玄関の方に移動した。

 俺もそのまま玄関に向かい、鍵を開けた。

「……ただいま」

「飯はどうした?」

「食べてきたよ。こんな時間だし」

 上着を脱ぎながら、靴を脱いで家に上がってくる。

「そうか」

 俺は居間の方に歩き出しながら、そう答えた。

「お風呂は治った?」

「いや」

「えっ、どうすんのよ」

 急に高い声でそう言った。沙耶は怒り方が妻に似ていた。そんなことを考えながら振り返った。

「悪いが、銭湯を使ってくれ」

「……」

 沙耶は立ち止まり風呂場の扉をじっと見ていた。

「なんだ?」

「なんでもない」

 沙耶はそのまま二階にある自分の部屋に駆け上がっていった。

「父さんご飯を食べてくるからな」

 俺は二階に向かっていった。

 足音が止まったように聞こえた。

「……」

「留守を頼んだぞ」

「……」

 俺は沙耶の返事を確認せず、そのまま支度をして、外に出た。




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