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インター・フォン  作者: ゆずさくら
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01




 最初は小さな出来事だった。

 物音がしたような気がして、ふと、二階の窓から門の外を見た時だ。

「あなた、どうしたの?」

 門扉の横についているインターフォンの前で、誰かが立って何か細工をしているように思えた。

「ああ、ちょっと門のあたりに誰かいるようだ」

 俺は上着を羽織って外に出てみると、そこには誰もいなかった。

 しかし、さっきまで誰かがいて、このインターフォンに何かしているように思えた。俺は上から下から、横も含め、門扉のインターフォンをじっと見てみる。何か傷がついているようにも見える。一度、家に戻って工具を一式もって、戻ってくる。

 スマフォで情報を調べながら、インターフォンを門柱から外してみる。

 特に何もない。発信機のような小型の基板とか、怪しげな装置とか、そんなものは何もつけられていなかった。スマフォの説明にある通りだった。

「……」

 俺は取り付けなおしたあと、この周りを水が入らないようにもう一度パテか何かで埋めなければならないことに気が付いた。

 その日の午後、ホームセンターに行って、パテを買ってきてインターフォンをしっかりと取り付けた。

 その日はただそれだけだった。




 会社に行って、休憩時間にふとこの話をした。

 本当に大した出来事がなく、誰も話題を振らなかったから、俺から話し出したのだった。

「というわけで、ホームセンターでパテだけではなく、いろいろ道具も勧められて金がかかったんだよ」

 確かにかなり金額が掛かった。レジの金額表示で驚いたほどだった。

 すると、会社の後輩が変な動画を見せてきた。

「先輩の家かどうかわからないんですけど、先輩と同じ苗字『林』だったから妙に気になっちゃって」

「なんだそれ」

「いいですか? 再生しますよ」

 映像が動き出すと、まさに家の門が映像に現れた。

「あっ、これ家……」

 いや、これだけでは判らないか、と思って口をつぐむ。

 映像が進んでいくと、表札が『林』であり、植木の様子や家の外壁についても家とそっくりなことがわかる。

 映像が終わりに近づくと、インターフォンの前に立った一人が紙を広げ、インターフォンのカメラに向ける。そして、カメラを持った人間がインターフォンのスイッチを押す。ライトが光ってインターフォンが反応しているように思えた。

「なんだろう?」

「なんでしょうね。もしこれが先輩のお家だったら、インターフォンの録画映像に残っていないですか?」

 確か、家のインターフォンは顔でないと判断した場合には室内の装置が鳴らず、インターフォン側で勝手に対応するはずだ。

「いつごろの映像なんだろう?」

「アップされたのは…… そうですね。先輩がホームセンターに買い物に行っているぐらいの時間ですよ」

「そうか」

 インターフォンの映像を確認したはずだったが、確かに過去の履歴をすべて見たわけではない。家に帰ったら確認してみよう、と俺は思った。




 仕事を終え、家に帰って、食事をし、風呂に入った後、インターフォンの機械が目に入った。

「そうだった」

 バスタオルで頭を拭くのもそこそこにして、インターフォンの過去映像を順番に再生した。

 長男が帰宅する時の映像、長女が学校から戻ってきた時の映像、宅配業者が鳴らした時の映像、と順に再生すると、今度は自分でやったテストの為の映像が続く。

 こんなにテストしただろうか…… とうんざりし始めたとき、急に雰囲気が変わった。会社で後輩が見せてくれた映像と同じだった。左右を手で持った紙の映像。黒い四角が組み合わさって、何かのコードが構成されている。

「QRコードだ」

 黒い四角のドットを並べて、意味のあるコードをこの四角い平面に埋め込んだものだ。よく広告などで、QRコードが描かれていて、スマフォで読み込むと商品やメーカーのサイトに接続したりする。俺はインターフォンの映像の再生を一時停止し、スマフォを持ってきた。

 スマフォでそのQRコードを読み込むとどこかのサイトのアドレスが表示された。

「……」

 俺の行動に疑問を持ったのか、妻が寄ってきた。

「何やってるの?」

「誰かが、インターフォンにQRコードを残したみたいだ」

「QRコード? よく広告とかで見かけるやつ?」

 広告以外にも様々な使い道があるのだが、俺はとりあえず相槌をうった。

「ああ、それだ」

「やだわ。新しいポスティングなのかしら」

「ポスティング?」

 そういうことなのか。俺はすこし考えた。単純にポストに紙を入れても、家がそうしているようにロクに読まないまま捨てられてしまうだろう。しかし、こうやって目新しいことをすれば誰かがサイトにアクセスするだろう。それが詐欺サイトだったりすれば、紙をポストするよりはずっと高確率で収益につながるだろう。

 俺はURLを確かめた。QRコードに入っていたのは、有名な動画投稿サイトのアドレスだった。これで詐欺サイトということはあるまい。

 スマフォに指を触れた。

「えっ、再生しちゃうの?」

「大丈夫だよ、アドレスはヨウツベだから」

「……」

 案の定、専用の再生アプリに切り替わった。

「ほら、いつもの動画再生ソフトに切り替わったから。詐欺とかではないよ」

「でも、変な動画かも」

「まぁまぁ、見てみりゃわかる」

 動画の再生が始まった。

 どこか見慣れた住宅街を歩いている映像が始まる。そして、家の玄関にたどり着く。

「これ、うちじゃない? やだ、気持ち悪い。やめてよ」

 妻が俺の持っているスマフォを手に取り、動画の再生を止めた。

「……」

 返されたスマフォを見たが、もうURLも動画の再生履歴も消えてしまっている。

 妻はそれだけにとどまらず、インターフォンの親機を操作し始め、画像を消していた。

「なにやってるんだ」

「気持ち悪いじゃない。こんなことするのはストーカーよ。ストーカーが撮影した映像。ああ…… やだやだ」

 ヒステリックな強い口調でそう言うと、素早く、手慣れた操作で映像を消してしまった。

「ストーカーされているのか?」

「わからないわ。これから気を付ける。沙耶(さや)も年頃だから、気を付けるように言っておくわ」

「……」

 俺はこの時、妻に疑いを持った。

 妻の推測はおそらくこうだ。ストーカーは勝手に妻か娘、もしかしたら息子かもしれないが、追いかけてこの映像を撮影し、ヨウツベにアップロードし、そのアドレスをQRコードに表し、インターフォンから家の住人に対しアピールした。

 しかし、動画はそこまで判断出来るほど再生していない。

 妻は、何か俺に見られてはいけない内容が隠されているから、先回りして動画の再生を停止し、それにたどり着くための手段をすべて消したのだ。そうとしか思えなかった。

 だが、そうは言えなかった。まだ長男も長女も起きてテレビを見ている。ここで言い争うのはよくない。

 それにQRコードからすべて消されたこの時点で、俺の負けだった。

 どす黒い疑惑が一つ残った。




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