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”その後”の悪役令嬢は幸せなのか?

悪役令嬢系の物語が好きで書きました。

読んで頂けると嬉しいです。


※「ダッシュ」、「三点リーダー」が上手く表示されない可能性があります。ご了承ください。

——中世の雰囲気漂う、ここはラス王国。




 この国——というよりこの国の王都にある王立学園——で、とんでもない大事件が起きた。


 なんと、学校主催の卒業パーティーで、王太子の婚約者である貴族の令嬢が婚約破棄されたのだ。

さらに、その令嬢——カシュ・ローラン侯爵令嬢——は、同じ学園に通う平民の女生徒に酷いいじめを行ったとして断罪までされてしまった。

なんでもその女生徒は王太子やその側近のお気に入りだったらしく、王太子達は侯爵令嬢に罵詈雑言を吐き、公衆の面前で断罪したという。




——これだけでも十分大問題なのだが、事件はこんなところでは終わらない。


 いじめを行っていたとされていた侯爵令嬢の無実が発覚したのだ。

国王が事実を確かめるためにあの手この手で調べた結果だった。


 しかしそれは学園の生徒たちにとっては既に周知の事実だったらしい。


「カシュ様が、“いじめ”なんて、ねぇ」

「まさか、ローラン嬢がそんなことするはずがないだろう」

「えぇ。カシュ様はただ婚約者のいる殿方に近づく彼女を(いさ)めていただけですわ」

「そうですわ。王太子殿下達の目は節穴なのかしら」

「こら、不敬罪にあたるだろ」


 侯爵令嬢のクラスメイト達の会話が、彼女の無罪を物語っている。


 そして、例の平民の女生徒が隣国のスパイだったことが判明し、現在は牢の中で尋問を受けている。

その女生徒は『魅了魔法』なるものを使って王太子やその側近たちをたぶらかし、侯爵令嬢を婚約者の座から引きずり下ろすことが目的だったと吐いた。


 王太子は国の危機(スパイの存在)に気付けず、しかも無実の侯爵令嬢を婚約破棄・断罪したとして廃嫡になり、彼の側近達もそれぞれに罰を与えられた。


 廃嫡になった元王太子の代わりには、第二王子が選ばれ、彼と侯爵令嬢は婚約した。

第二王子は品行方正で、何でもできる天才肌で、女性にも優しいと言われている。

元王太子のように、何も調べずに婚約破棄をしたり断罪をすることはないだろう。

そのため誰もが、彼らの婚約を歓迎した。


――皆に祝福されて、彼らは幸せになるはずだった。



********



——えぇ、私にもそう思っていた時期がありました。


 私の名前は、カシュ・ローラン。

侯爵家の長女で、王太子殿下の婚約者を務めております。

元王太子殿下が引き起こした卒業パーティーでの婚約破棄騒動から早二年、私も18歳になり、結婚適齢期となりました。


 あの騒動の後、現在の王太子殿下——カイン殿下——は私に婚約を申し込んでくださいました。


「カシュ・ローラン侯爵令嬢。私の兄上が大変な失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした」


 そう言って、頭を下げるカイン殿下。


「殿下、どうか頭をお上げ下さい。(わたくし)は気にしておりません」


 元王太子殿下は『魅了魔法』にかかっていたのです。仕方のないことでしょう。


「ありがとうございます。私は、貴方に二度とこんな思いをさせないと誓います。勝手なお願いですがどうか私と婚約していただけませんか」


 まだ14歳ながらも真摯に婚約を申し込んでくださったのです。


「はい、謹んでお受けいたします」


 不覚にも、少しドキッとしてしまいました。この人となら一生添い遂げられるかもしれない、その時は本当にそう思ったのです。



——なのに、どうして……こうなったのでしょう……??



 カイン殿下に招待されて訪れた、王立学園の卒業パーティー。


「カシュ・ローラン侯爵令嬢、私は貴女との婚約を破棄し、ここにいるマリアンヌと婚約する!」


 あの時と同じ、冷たい眼。その眼は、“彼女”以外映してはいません。


「見損なったよ。王太子の婚約者という地位を使って彼女に危害を加えるなんて」


 一言一句同じ、その台詞に、私の中で何かがプチっと切れました。


「私こそ、見損ないましたわ、王太子殿下。あの時の言葉は嘘でしたのね」


 まるで、数年前に言えなかったことを言うかのように。


「兄弟は似るものだと言いますけれど、本当ですのね。魅了魔法でたぶらかされているところまでそっくりですわ」


 言葉があふれてきます。


「……」


 何も言わないカイン殿下。だが、わずかに眼が見開かれました。

魅了魔法が解けかかっているのでしょうか。

普通なら喜ぶべきところでしょう。

しかし私は貼り付けた笑顔で、


「もう結構ですわ。婚約破棄の件は了承いたします。ですが私は彼女に何もしておりませんので、断罪をするのは貴方様のためにならない、とだけお伝えしておきますね。では、王太子殿下、御前失礼いたします。今までお世話になりました」


 それだけ告げて、私は会場を後にしました。


 言いたいことを言えてすっきりしたと思ったのにどうしてでしょう。

私の眼からは涙が出ているのです。

魅了魔法だとわかっていても……。


「お慕いしておりました」


そっと呟いた言葉は風にかき消されました。



********



 あれからどのくらいの月日が経ったのでしょうか。

私は現在、隣国にあるとある商団で働いています。


 婚約破棄後のあの時、たまたまこの商団の方々が通りかかったのです。

泣いている私を見て皆さんはとても優しく接してくださいました。

私はどこか遠くへ行きたかったので、無理を言って彼らの旅に同行させて頂いたのです。


 もちろん、その旨は家族と国王陛下には伝えましたよ。

今でも家族や陛下とはたまに会います。

その時聞いた話によると、次期国王はカイン殿下のままなんだとか。

カイン殿下は優秀な方だし、良いと思いますよ。

ただ誰とも婚約しないので陛下は困っていらして……

でもそれは私のせいではないので、知ったこっちゃありませんわ。


 ともかく私は、今とっても幸せですわ。

婚約破棄されたからって不幸になんかなりません。

いや、不幸になんかなってやるものですか。

読んで頂いて、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第二王子は、主人公は学園にいない(卒業してる)のにどうやって『マリアンヌに危害加えた』と思ってるのだろうか? どうして「断罪するためにわざわざ招待する必要があった」か考えてみようよ。 『王…
[気になる点] 主人公も一度経験したんだから、対策取ろうよ...と思いました。 一応、次期王妃だったんだし。 洗脳系で本人の意思じゃないとわかってるのだから、受け身 で終わらせるんじゃなく、何かやって…
[一言] まるで雨後のタケノコのように生えてくるピンク(ヒロイン) 次から次にターゲットになる王族、王太子。 2度も巻き込まれたら、そりゃもううんざり、ってなるよね。 ただ、魅了魔法?を防ぐ方法が無…
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