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思い出のクッキー

 私と婚約者との付き合いはなかなかに長い。

 初めての顔合わせは物心のつく前だったらしく、よく覚えていない。ただ、両親のいうことには、仲は良かったそうだ。

 私にとって婚約者の思い出は、私が初めて婚約者のために手作りのクッキーを作ったときのことだ。


 10才ころだったと思う。

 その頃私は、物語に憧れていた。物語の中の、真実の愛だ。主人公が恋人に手作りのクッキーをあげるのだ。恋人は、それを美味しいといって食べる。料理人の作ったものよりも、何よりも美味しいといって食べるのだ。実はこの時主人公は分量を間違えていて、不味いことが後で分かる。そして主人公は恋人の思いやりに感動するのだ。

 とはいえ、本当に不味いものを食べさせるわけにはいかない。私はきちんと砂糖と塩の区別をつけたし、小麦粉の分量もちゃんと量った。初めてのわりにはまあまあの出来だったと思う。私はそれを綺麗にラッピングして婚約者へ渡そうと思った。サプライズで渡そうと思って、先触れを無しに婚約者の家に行った。私も婚約者もお互いの家は顔パス状態だ。


 どうやら友人が来ていたらしく、部屋へと入る前に話し声が聞こえた。

「それでさ、婚約者に手作りクッキーっていうの?貰ったんだけど、これがまあ不味くてさ。こんなもの食べたらお腹壊すわ!って思わず言いそうになったんだよね。」

 声の主は婚約者の友人だった。名前は覚えていないが、その頃はよく一緒に遊んでいた子だ。

「へえ、そのまま食べてお腹壊せばよかったのに。」

「ひどいな。いやー、あれ食べたらほんと死ぬと思うね。」

「そんなに不味かったんだ。なんでまた彼女は手作りなんてしたんだ?買えばいいだろうに。」

「いやー、それがさ、今流行ってるんだよ、手作りクッキー。姉上たちも作っていたよ。」

「そうなのか?」

「お前もしかしてアイリーンからもらってないの?」

「もらってない。っていうかいらないし手作りなんか。不味いに決まってる。」

「あー、お前ならはっきり言いそう。不味いもん食わすなって。」

「…それで、結局どうしたんだ?」

「あー、さすがにその場はお礼いったよ。でも、婚約者が帰ったあと捨てた。」

「…ひどいのはどっちだ。」

「まあまあ。でも覚悟しておいた方がいいぜ。っともうこんな時間か、」

 部屋から出てくる気配がして、私は慌ててその場を立ち去った。

 メイドに不思議そうに見られたが用事を思い出したといって帰宅した。慌て過ぎたのか途中でクッキーを落としてしまったらしく家に着いたときにはクッキーはなかった。



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