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彼女の“謎”の裏では、こんな事が起きていました。1《ルッツ視点》

ルッツ視点の話になります。(区切ったので少し短めです。)

 夜の時間帯に向かって暗くなって行く空には大きな月と小さな星達が輝き出し、空気も少し冷え込んで来ていた。

 

 「今日は、あったかいスープでも作るとするかねー…あ?」


 今日の夜勤の同僚と交代を済ませた俺は、職場を後に真っ直ぐ家へと帰っていたのだが。 


 「アイラ!」

 

 季節が冬から春へと移り変わった頃。暫く誰も住んで居なかった町外れにある牧場へ、牧場主としてこの町にやって来た少女、アイラが一人で前を歩いているのを見つけたので、声を掛けた。


 「ん? あ。ルッツさん、こんばんは〜…」


 アイラは何だかクタクタとか、ヨレヨレといったような表現がピッタリの状態だった。


 「よう。まだ遅い時間でもないが、もう暗くなってきている時間帯に、家がある方向とは言え若い女が一人で町外れに向かって歩いているのは、あまり良くないぞ? 遅くなる時は宿に泊まるなり、警備隊を頼るなり対策しろ? 見回りがてら送ってくれるから。ま、今日のところは俺が通り掛かったから良かったけど気をつけろよ?」


 この町の治安は他の町に比べればとても良い方だ。しかし、だからと言って油断するのはよくない。

 町に居る人間全てが善人だとは残念ながら言い切れないし、他の町や国から来ている旅人や冒険者達だって滞在している。彼らに至っては全員がどのような人物かなどと、把握しておくのは難しいし、滅多に無い事だが凶暴な野性動物に遭遇する事だってあるのだ。

 つまり、危険が無い訳ではないのだという事を解って欲しい。

 

 「はい〜。いやぁ〜…もう少し早く帰るつもりだったんですけどね…アルバイトをした後に買い物もして来たんですけど、気づけばこんな時間になっていまして…あはは」


 アイラは立ち止まっているつもりなのだろうが、上体が左右に、ふらりふらりと揺れていて、時折たたらを踏んでいる――…まるで酔っぱらいのようだな。


 「なあ、アイラ。フラフラしているようだが大丈夫か?」

 

 心配になり、そう尋ねた時だった。


 「おっととと、だいじょ、う、ぶ、で――…」


 グラリとアイラの上体が前屈みになり、ガクリと両膝から崩折れ――…


 「アイラ!!」


 手をのばすも一瞬遅く、その手は空振りしてしまい――…アイラは、ドサッと地面に倒れてしまった。

 

 「しっかりしろ!」 


 アイラが何と答えようとしたか分かってはいるが――…“大丈夫ではありません”って事にしてやる。(大丈夫なヤツは倒れねぇし)


 「ったく。アルバイトって言っていたな…無茶したんだろ。とにかく、まずは診療所だな」


 気絶したアイラ(十中八九、疲労スタミナぎれだろう)を抱き起こし、背負せおって。町の中にある医院まで、なるべくアイラを揺らさないようにしながら。俺は来た道をまた引き返したのだった――…




 




 …――アイラは、やはりスタミナ切れを起こして倒れたようで、医院に居た医師に点滴と注射を打って貰ってから帰宅、という流れになった。


 ここまでは…まあ、アイラも治療を受けられたし良かったのだが。この後、困った事になってしまった――…


 『ごめんなさいね。今日は急患の患者さんと、ついさっきお産が始まった妊婦さんの為に病室を空けているから、他に今空いている病室が無いのよ。アイラさんは後は安静にして寝ていれば大丈夫だから、お家まで連れて帰ってあげて貰えるかしら?』

 『せ、先輩っ! 急患こっちの方、手を貸して貰えますかっ!?』

 『! 分かりました! 今行きます! すみませんが、そう言う事で! お大事に!』


 …――とまあ、看護師から説明を受けて。医院の廊下や待合い室に、このままコイツを寝かせて放っておく、なんて事は出来ないからな。


 (最初は外が暗くて気づけなかったが、顔色も悪かったんだな…注射や点滴のおかげか、その顔色も良くなって来たようだし、ひとまず良かったな)


 俺は再び、まだ目覚めていないアイラを背負って医院での支払いをした後。アイラとは親戚で、牧場についての師匠でもあるだろうボブさん(そう言えばアイラは、いつも“おじさん”って呼んでいるな)の家に送る事にした。


 ボブさんの家なら、ボブさんと奥さんが居るから、目が覚めた時そのまま一人で寝ているよりも安心出来るだろう――…






 …――と、考えて居たのだが。


 「はあっ、嘘だろ!?」



 

 “明日、早朝から開場する隣町の市場の見学に行っています。明日の昼頃には戻りますので、ご用の方は申し訳ありませんが、明日昼過ぎにまたいらして下さい。《ボブ》《ナンシー》”




 ボブさんの家の木の扉に。恐らく今日の昼過ぎあたりにでも貼られたのだろう貼り紙。その端のうち一箇所は剥がれてしまったのか。パタパタパタパタ!と。そこは風が吹くたびに音を立てて、はためいていた――…

 

ここまでお読み下さりありがとうございます…!!


予定より長くなるので区切りました。後一話分、次回に続きます。

その次はアイラ視点に戻ります。少しだけですが、ちょっとお久しぶりな“ヒロインちゃん”が出てくるエピソードも入る予定です。

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