表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

その世界(乙女ゲーム)を全く知らなかった“彼女”は、牧場主になった。

短編一作目を加筆修正した話になります。

 私、アイラ・クレスターには前世の記憶がある…とは言っても、思い出せない事も多いけどね。


 前世の記憶がある。そんな事を突然言われたら『え、この人。アタマ大丈夫?』と怪訝な目で見られ、不審に思われてしまう事はほぼ間違いないと思う。私だって言われた側ならそう思うし。

 家族にも『病院に入院させた方が良いよね、この子。私達では手に負えない』と言うような方向に向かってしまうだろう事から、前世の記憶が甦った事は、それを思い出した幼少時から今まで。誰にも話した事はない。


 前世を思い出したキッカケというものがある。


 それは、とある牧場へ牛、羊など普段身近に見る事のない動物達を見に行った事だった。


 ただ見に行くと言うだけではなく、王立学園・初等部での課題で“動物を写生しましょう”というものがあった。


 他の子達は自分の家で飼っている血統書の付いている犬や猫、小鳥などを描く子が多かった。けれど、この時の私は何故か別の動物を描きたいと思ったのだ。


 そして――…


 「うちにいる、犬や猫達に不満はありません。皆、とても可愛らしいし、賢さもあって大好きです。ですが、私は普段すぐには目にする事のない動物を描きたいのです!」


 この言葉で、私は年が離れている兄達の一人。お城で騎士(当時はまだ新人騎士だった)をやっている二番目の兄様の休みに付き添ってもらう事を条件に、とある牧場まで連れて行ってもらう事ができた。


 …――あの時。


 兄様と手を繋ぎつつ。澄んだ青空の下どこまでも広がっているかのような広々とした緑豊かな地に、とても大きな牛達。もこもことした毛並みを持つ羊達。穏やかな表情で草を食む馬達を見た時には感動で言葉が中々出て来なかった。


 ――…後に聞いた兄からの話によると、私の目は今までで一番輝いていたらしい。


 (うわあ! みんな大きいっ! それにモコモコだったり、可愛いなぁ! どの子を描こう!? 迷っちゃうなー!)


 この時だった。見た事のない筈の物や場所が、ふと脳裏を過ぎった。


 (あ、あれ? 今のはなんだろう??)


 そして――…


 『さあ、ここが今日からアイラの牧場になる! わからない事があれば何でも聞いてくれよ!』

 『わあ、素敵な所ね! はい! 宜しくお願いします!』


 オーバーオール姿に、飾り気の無い麦藁帽子を被っている十五、六歳位だろう女の子が広々とした緑が広がる土地で、ニコニコと嬉しそうに笑っている光景が見えたのだ。


 あれ? 今の女の人って、もしかして…未来の私…?


 んん? でも、それなら…その“未来の私?”を目の前で見ている“私”は誰なの??


 (あっ。これ、“私”はゲームのプレイヤーなんだ! だから、モニター越しに“未来の私?”を見ているんだ! …――“ゲーム”“プレイヤー”“モニター”? んん? 今までこんなの見た事も無いのに―…何で分かるんだろう? あー…これって“前世”の記憶? そうだ。私はこの光景を知っている――…)


 まだまだ思い出せない事もあるけれど“プレイヤー”の私が見ている彼女の名前はアイラ。少し先の未来の私だと思う。表情はぼやけているようでよく見えないけれども、髪の色や目の色は、そっくりだ。


 …そっかー、私は今は“アイラ”として生きているのかー。あの牧場育成系の世界なんだ、ここ。道理で私は動物大好きな訳だよ。農業も全然嫌じゃないし、むしろやってみたいし。


 そう思ったら、断片的にだけど。そのまま、あっさりと色々な事を思い出して行ったのだった。(主にゲームでの牧場のノウハウや、主要キャラクター達、その他、日本でしていた生活に関する事等かな)










 …―――あれから、約十年の時が過ぎた。


 牧場経営に対し俄然やる気になっていた私は、反対する両親を説得し、初めは取り付く島もなかったけれど、幾度も話し合いを続けた末に。王立学園・中等部を卒業後、あの光景と同じ光景を目にしていた。


 澄んだ高い青空の下、広い大地にサワサワと風で揺れる草花。穏やかな風景だ。


 「さあ、ここが今日からアイラの牧場になる! わからない事があれば何でも聞いてくれよ!」

 「わあ、素敵な所ね! はい! 宜しくお願いします!」


 オーバーオール姿に飾り気の無い麦藁帽子を被っている私は、これから始まる牧場での生活に思いを馳せた――…












 …――“アイラ”が始める牧場からは遥か遠くにある某所にて。



 「なんで、悪役令嬢のアイラが居ないのよ!? アイラの婚約者の伯爵子息には会えたし、他のキャラだって居たわ! それなのに邪魔をする筈のアイラが居なかったからかイベント起きないし! おかしい――…おかしいわ! 王立学園ここに居る筈なのに!! わたしの逆ハー計画、どうしてくれるのよ!! 悪役が居なきゃ話にならないわっ!! ……――そうよ、居ない筈がないわ。だって、ここはヒロインの為の世界だもの。ふふ、居ない訳ないのよね。アイラ―…悪役令嬢なだけに面倒な子なのね、仕方ないから私自ら探し出してあげる。そして私を虐めさせてあげて――…ちゃあんと踏み台にさせて貰うわ」


 王立学園・高等部(廊下)では、桃色の髪を肩まで伸ばし、少し垂れ目がちの大きな目の、見た目は可愛らしい少女がヒステリックに叫んだ後。何やら暗い表情でブツブツと一人呟いていた姿が複数の男子生徒に目撃されていた。


 また、王立学園・高等部(一年生のとあるクラス)では――…


 「あれっ? アイラじゃないか! 君も王立学園ここに進学していたんだね! 確か君の家は大きな牧場を親族で経営しているだろう? てっきり跡を継ぐのだとばかり思っていたよ!」

 「あら、アーク。町の学校での卒業式以来ね。ああ、牧場うちの事? そうそう、一応私が跡継ぎって言われていたから、私もそのつもりではあったんだけど、何でも遠縁にあたる家の女の子が牧場をやりたい! って昔から言っていたらしいの。それが…まあ、本気だったらしくてね」

 「えっ、もしかして?」

 「そう、もしかする。その子が継いでくれる事になったみたい。勿論、最初から任せる訳じゃなくて、叔父が持っている牧場の中の小さな牧場から始めるみたいだけどね。牧場主が務まるか時々、試験もするって言っていたし。まあ、そんな訳で。私はずっと勉強したかった事を学べる事になったって訳。だから、これからまた宜しくね、アーク」

 「ああ、こちらこそ!」


 牧場で働き始めたアイラと同じ髪と目の色を持つ、アイラと同じ名も持っている、彼女と同い年の少女が、隣席の学生に答えを返していたのだった。













 「よ〜し、よし。皆、おはよう! 今日も良い子だね〜! さあ、今から順番にブラッシングするからね〜」


 日が昇り、空気が清々しい朝。二頭の牛と、二頭の羊。そして、二羽の鶏。彼女達(羊達以外は雌だ)を放牧した後。


 『さ! まずはブラッシングしようね〜』と、動物達にブラシ片手に近寄ろうとしていた時だった。


 「よう、アイラ。おはよう! 頼んでいた物は出来ているか?」


 牧場入口の方から、青空のような爽やかな青を基調とした警備隊の制服姿の青年が大きな声で呼びかけて来た。


 「ルッツさん、おはようございます! 今日も早いですね〜、朝の見回りお疲れ様です! あ、頼まれていたプリンなら冷蔵庫に入っているから今持って来ますね!」

 「バッ、大きな声で言うなよ!?」


 ルッツさんは、街をおじさん(幾つかの牧場の持ち主で遠縁にあたる人だ。確か、ゲームでも“おじさん”と呼んでいたんだよね)に案内して貰っていた時に紹介された人達のうちの一人だ。

 牧場を始めると言う話の流れから『牧場の動物達のミルクや卵を使ったお菓子も作って売り出そうと思っているんです』と言うような話になると、ルッツさんは、少し恥ずかしそうな顔で『…その、プリンとかも作れるのか?』と聞かれたので頷き、後日。


 実は牧場ウチから割と近くに住んでいる事がわかったので、引っ越し蕎麦ならぬ“引っ越しプリン試作品”を持って行ってみたら大層気に入って貰えたらしく、その後。プリンを販売する時には必ず予約を入れてくれていたりするうちの一人だ。


 『本当は全部予約したいところだが、アイラが作るプリンを楽しみにしているのは俺だけじゃないからな…一つで我慢する』と言ってくれた事は作り手としては嬉しい言葉だった。


 「誰かに聞かれたらどうするんだ!?」

 「いやいや、こんな朝早くからウチに来るのは警備隊に所属しているルッツさん位ですよ?」

 「あ。それもそうだな」


 彼は少し恥ずかしそうに笑っている。


 「別に、甘いものが好きだって公にしても良いんじゃないですか?」


 ルッツさんは甘いもの好きな事を他の人にあまり知られたく、隠しているらしい。


 「いや。俺みたいな厳ついのが嬉しそうに菓子食ってるところなんざ、見たくもないだろうし、見せたくもないんだよ」

 「うーん、そういうものですかねー? 私はプリンを食べてくれている時のルッツさんの嬉しそうに笑った顔、好きだけどなぁ」


 見たくないとは思いませんよ? むしろギャップ萌え? と続ける私に対し、ルッツさんは顔を少し赤くしながら――…


 「はぁ!? 何を言っているんだ! オッサンをからかうんじゃねぇ!」

 「オッサンて。ルッツさん、まだ二十代じゃないですかー」

 「い、いいいいから! 早く! 注文の品!」

 「ハイハイ、ただいまお持ちしますよー!」


 ンモー! コケッ、コケッ! メェ〜


 あ。いけない。


 「みんな待たせちゃって、ごめんね! もう少しだけ待っててね!」


 動物達の声でハッとなり、私は急いで注文を受けていたプリンを取りに向かったのだった。


 「おい、アイラ! 急いでくれるのは有難いが、慌てて転ばないよう気をつけろよ!」

 「はーい!」











 新しい生活は何もかもが今までの生活とは違っていて、毎日が新鮮で楽しい。自然や生き物が相手だから、勿論、楽しいことばかりではなくて、大変な事もあるけれど――…


 私は今、この牧場での生活が大好きだ!

(いやぁ、前世を思い出して良かったー!)


ここまでお読み下さりありがとうございます。


後の話に出すかもしれませんが、アイラ(どちらも)には、婚約者は居ません(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ