仏教の世界と出会い、別れ、決断
自分の中で一人でパニックになっていた。確かに、俺は仏像の扱いなどを爺さんから学んでいた。ただそれだけで見抜かれた。
こっち側の人間。その言葉に引っかかった。同じ側の人間ということは、社長も祓い屋なのだろうか。
「僕は、祓い屋じゃないよ。ただこれから行くところが祓い屋だけどね。」
俺はこの人のことをエスパーか何かと思った。今思えば社長はすごい人間観察が得意なのであろう。だからこそ、社長として入れたのであろう。
ミニバンは、どんどん山の中に入って行く。県道から明らかに意図的に作られたであろう横道に逸れて行く。中型のトラックがギリギリ通れそうなぐらいの道だ。坂になっており、急だ。申し訳程度のガードレイルがあるが、逆側は崖みたいになっている。
「ここな、こんな道だが誰も落ちたことがないんだよ。この周りは山だらけで崖も多く、不注意でよく突っ込んで行くがこの道だけは誰も落ちたと聞かない。まあ、みんな気をつけるからだろう。」
俺は、何か感じた。すごく懐かしく、なおかつ心地よい。不動に守られているような清々しい気分。
「お主、そこから離れろ………」
龍王の声だ!しかし、いつものように落ち着いた声ではなく、危機迫っている声だ。
「やかましい。龍神は滅しようぞ。」
懐かしい声だ。不動の声。そんな声に苛まされていると時に車が止まった。
「着いたよ…ってどうしたその顔色。」
そんなやりとりをしていると、奥から一人男性がやってきた。
「よくきたな。さて、どうしたものか。」
ガタイのいい男だ。この人を見ると何か嫌な気と縋ってしまうような感じがする。
「とりあえず、茶でも飲もう。」
そう言いながら荷物を持って家の中に入った。
家の中は色々なものにあふれていた。仏像や仏具、色々な骨董品。そんなものを見ているとコーヒーが用意された。
「ほら飲みな。」
そう言いながらコーヒーを渡された。夏にホットコーヒーは堪える。
「さて、お前さん。龍神がついているな。しかも相当大きい。厄介だな。」
えっ…。
どういうこと?
確かにその力を人を魅了する力を持っているが、厄介だとは思ったことはない。
なのにも関わらず、そんなことを言われると少し怒りが湧いてくる。
「何だか腑に落ちないみたいだな。こんなことを言われて。ただ、お前は龍神について知らなすぎる。それゆえにお前さんはまだ神の怖さを知らないだろう。」
そういえば、俺は神だけでなく、不動たちについてもしらない。
「お前には、この界隈の話をしてやろうか。」
そういって何冊かの本を持ってきた。
不動明王を使って祈祷をする人にも種類がいる。その中でも爺さんや今回出会った男は、真言密教を使って人々の願いを祈祷する。また、その力を使って魔を祓ったりもする。その中で様々なお経や祝詞、仏具を使う。
また、不動明王や観音たちを総じて十三仏と呼ぶ。13の内訳は、大きく分けて明王、菩薩、如来に分かれている。不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿閦如来、大日如来、虚空蔵菩薩。これらのうち、俺たちは不動明王の力を主に使う。しかし、十三仏にも役割がある。不動は魔に対し力を使い魔を祓う役割、人の死んだ後の者たちのことを仏というがその仏を成仏させる役割、如来はこの全宇宙に対し力を使い維持する役割。そしてその中にもまた様々な役割がある。そんな十三仏であるが、その大元は大日如来であると言われている。
これら十三仏は、金剛界や胎蔵界の二つに存在し、金剛界は現実世界、胎蔵界は人の生まれてくる場所である母親の胎内世界を表している。
このようなことを日本に伝来させたのが、弘法大使、又の名を空海である。
逆に、魔の話をしよう。魔とは、神や仏、化け物のことを総称している。神とは龍神や稲荷、仏とは人の死後の魂、化け物とは天狗や鬼などを指す。そしてそれらは、人間に仇なすものも多い。そしてその仇なすことを魔が刺すや障りを受けるという。その障りにより怪我や病気、死に至らしめる。そしてそれらは血の繋がる血縁者を全て体を通じて障りをもたらす。一人が死んでもまた別の血縁者へ移り、別の元にまた影響する。そうすることで、力を大きくし、自分自身を維持していく。このようなものは、人間だけでなく自然のものに対しても宿主とする。御霊を壊したり、移動させたりすることにより怒りを買う場合もある。
俺は驚いた。それと同時に自分の知識の未熟さに気づいた。こんなにも深い世界とは予想外だった。それなりに大きな世界だとは予想していたが、想像をはるかに超えて広く深い世界だ。十三仏も知らなければ、二つの世界についても知らない。そんな状態で不動や龍王の力を使っていたことが恥ずかしい。
「お前についている龍神が、良いやつだろうが悪いやつだろうが関係ない。とりあえずその体から引き離して、そいつを何かに封じ込めようか。」
ここにくる前ならこの言葉を受け入れられなかっただろう。だが、少しずつ理解はできる。このまま自分に龍王が取り付いていると自分が死ぬ可能性がある。ならばどうして良いかはわかる。
「お願いがあります。この龍王を僕から引き離して、何かに住まわせてください。」
俺は、強く言った。なぜかわからないが強くだった。嫌だとか、毛皮らしい、怖いからではない。ただ、そのようにするべきだと、本能が言っている気がする。
「よし。では始めるとするか。お前はそこの座布団に座って、合掌。手を合わせてな。」
言われるがままにする。すると、何かを始めた。何かを唱え、印を結んでいる。
「さあ、その体に住み着いていたものよ。その体借りて本人にわかる形で出てきてやれ。」
そんなことを言われていると、体が勝手に動き出す。体を蛇のようにくねらせる。そして口から言葉が出そうになる。
「喋るな。お前の要望や願望は一切聞き入れることはない。そのままこいつから離れていけ。」
なぜだろう。ものすごい苛立ちにより、体が熱くなる。
「さあ、お前を追い出していこうか。まず手始めに縛り上げて行くぞ。」
「やめろ……。そんなことして何になる……。俺は、仮にも、龍神たちを統べる、龍王だぞ。もっと敬意や畏怖を持って名を呼ばれ、拝め奉られるものだぞ。にも関わらず、このような扱い。お前ら、呪い殺すぞ。」
なっ……。こんなことを言われるとは……。
「とうとう本性を現したか。お前は、こいつの体を使ってこの世界に龍王として、龍神たちを統べる計画だったのだろう。その計画不動が許すわけもないがな。」
『この一件、私が預かろう。おい、龍王や。お主、此奴から手を引け。そうすれば、お前を此奴のしもべとして、席を用意してやろう。』
誰だ。とてつもなく、力を持っている雰囲気。ただ、陶酔するような力ではない。神々しく、今までの不動も到底及ばないような巨大で未知の力。
「この雰囲気は、如来だ…。しかも、大日如来が手を貸すというのか…。こいつにそこまでの価値、それほどまでの存在意義があるのか。」
俺?この俺が?なんで?たった一年程度この世界に入ったにも関わらず……
『御主は、この私の力を授かることができる器を持っている。御主の器は、我の力を授かれる。それだけの人間は久しい。いつぶりだろうか。この我がここまで楽しい気分になっているのだ。此奴を我が手放さんぞ。離れよ、龍王よ。』
その瞬間、自分の体から龍王が光に包まれ、引き離されていった。そして、どこかへ連行されて行った。
「お前、救われたな。如来に救われるとは…。こんな人間、一人しか知らんぞ。」
そう言われた。そんな特別な人間なのか?俺は…。そんな大層な人間じゃないぞ。22年間生きてきて、何も成し遂げず、何もしてない。そんな人間をこの世界の頂点に位置するモノが…。
「なんで俺なんかを…………。」
そんなことを呟いてしまった。顔をうつむかせ、手を合わせながら。
「まあ、お前さんがそういう星のもとに生まれてきたんだろう。そう思え。手相を見ても平凡。生まれも育ちも平凡。普通だ。そのように不動も言っている。」
そう言われた。
「だが、普通というのは一番難しい。そんな人間そうそういないがね。」
そう続けられた。男性は言った。社長と二人で笑いながら話していた。
そうだよな。そんな漫画やアニメのようなこともない。現実とはそういうものだ。どんなに憧れて、望んで、夢見ても、そう都合よくはいかない。こんなセリフをいろんな漫画やアニメで見てきた。まさにその通りだ。小さい頃、化け物祓いに憧れ、そんなアニメ漫画を見続け、期待し続けた。それがこの1年で掴んだ。それだけでも奇跡だ。それ以上を期待しても無駄だ。自分に憑いていたのは、龍王。その力がなくなってしまえば、自分はこの世界から離れなければならない。俺は、主人公にはなれない。それでいい。そうやって、一生を終えていく。多くの人間と同じように。
『さて、御主よ。お主に我が力を授けようぞ。ようこそ、如来の世界へ。』
はっきりと聞こえた。そこにいる三人全員が顔を見合わせた。
「なっ!?まさか本当にこいつに如来の力を授かれるというのか?こんな小さな体に如来という大きな力を本当に授かれるというのか?如来の力は、私たちのような微小なモノにその力本当に授からせて良いのか?」
そう言った。
『然り。其奴は神の子だ。遠い昔、其奴はこの言葉を聞いたはずだ。我の眷属不動明王の力を使っていたある男に。』
そんなこと…。と思いながらも記憶を探った。あっ。確かに聞いたことがある。俺の母さんが親戚の祈祷師をしていたおじさんから、俺が生まれ、名前を見せに行った時そう言われたと。
『此奴は、我の力を授かり、成してほしいことがある。今はまだ力がないが、そのうちその力が大きくなる。その時、此奴が成し遂げることがわかるだろう。』
そう言われた。そして俺は、一つの道が開いたような気がした。
「おじさん…いや、先生。俺にこの道で生きて行く方法を教えてください。」
頭を下げた。自分の人生の中で自分の人生を決めるとてつもなく大きな選択だと思う。ただ、このまま普通の人生送っても、俺は死ぬ時満足した人生を送れたと言えるのだろうか。
否だ。
なら、日常を捨て、非日常に身を置き、満足した人生を送るべきだ。そうやってくる寿命が長かろうが短かろうが、満足して死を迎え入れるだろう。
「わかった。多かれ少なかれ、この先お前もこういうモノから影響を受ける。お前を弟子として迎え入れよう。ようこそこちら側へ。」
そう言って、握手をした。
今回は、社長との営業に加え、不思議な体験をします。
その体験がどのような世界のことなのかも書いていますので、ぜひともご一読よろしくお願いします。
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