クリスマス・イヴ
「メリィ・クリスマス」男がワイン・グラスを軽く掲げた。
「メリィ・クリスマス」女が軽く合わせてワイン・グラス。
そこへ横から豊かなバス・ヴォイス。「ちょっと待った」
白髭も恰幅も豊かな身体。紅の装束に白の縁取り。
男と女の声がハモる。『――サンタクロース?』
「いいところをお邪魔して悪いがね」サンタクロースに苦笑い。
「え、どこのドッキリ?」女は視線を周囲へ巡らせる。
「ええと、お願いしているのは僕では……」歯切れ悪く男。
「違う違う」サンタクロースが鷹揚に首を振る。「ちょっと体が冷えてきてね、ワインの一杯でも……」
『飲酒運転は犯罪です』またしても男と女のハモリ声。
「なるほど、これは手厳しい」サンタクロースが笑みも崩さず頭を掻く。「で、訊きたいのだが」
「何を?」怪訝に男。
「何を?」意外そうに女。
「君たちは」二人を眺めるサンタクロースにしたり顔。「どの足で帰るつもりかね?」
男がグラスを取り落とし――かけたところを女が受け止めた。
「あのですね!」グラスを両手に立ち上がって女。「“クリスマス・ケーキ”ってご存知です?!」
「バブル時代かね、今は?」なだめ声でサンタクロース。
「知ってるじゃないですか!」女が噛み付く。「今このムードを逃したら私どうなるか……!」
「えーと……」男の声に兆して狼狽。
「まあまあ」女を受け流しつつサンタクロースが男の耳元へ。「帰る気がないなら、この老体にも一杯おごってくれんかね?」
男の顔が火を噴いた。女が頬を朱に染める。
『どうして……!』転げ出た声がまたもハモる。
「ああ、最近はね」小首を傾げつつサンタクロースは頬を緩めた。「代行もやっていてね――キューピッドの」
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著作者:中村尚裕
掲載サイト『小説家になろう』https://ncode.syosetu.com/n6542el/
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