思いやり
トントン ガチャ。
「話が終了したとのことなので、宿泊スペースへご案内します」
入ってきたのは20代後半くらいのお姉さんだった。
「今鍵外しますね。居心地悪かったでしょう。ごめんなさいね。あれ?」
そう、その手錠はは彼女に外してもらった。無理やり力づくで。
彼女は私から降りてお姉さんの方にトトトと歩み寄る。
「あんた、なんで”私”のご主人様に色目を使っている訳?」
ちょっと!何言ってるの!?
「別にそういうわけでは」
「ふーんそう。どうでもいいわ」
彼女の傷のない小さい手がお姉さんの首へと伸ばされる。そして食い込むのを見た。それはあまりに強く、指の半分ほどが首にめり込んでいる
「ちょっと!死んじゃうよ!止めて!!」
身長差的に持ち上がることは無いが、黒目の見ている位置がおかしい。
彼女はきょとんとした表情で、何を言われているのか分かっていないようだったが離してくれた。お姉さんは固い床に崩れ落ちる。
「いいかい?普通の人は、息ができないと死んじゃうんだ」
「知ってますよ」
「じゃあ、なんで首を絞めたの?」
「だって、むかついたから」
そうか、彼女はあの偉い人がむかついた時にどうするかを見ていたのか。だからさも当然にこんなことを
「いい?よく聞いて。そんな風に人に接してはいけないよ。相手を思いやらなきゃいけないんだ」
「そしたら何かいいことがあるのですか?」
「色々な人に好かれるようになる」
「ご主人様も思いやる女の子が好きですか?」
「うん、そうだね」
「じゃあ私、思いやる子になります!!!」
ゴホッ!!
あ、女の人が起きた。良かった、死んでなくて。でも彼女の首には掴まれてところがくっきりと変色している。
「でも思いやるってどうしたらいいんですか?」
「じゃあ、やられる側の立場に立ってみようか。例えば私が君を叩いたらどうだい?」
彼女の可愛らしい顔が一瞬にして、悲しい顔に変わる
「私...まだ良く分からなくて...ごめんなさい。どうか叩かないで」
「悲しい?」
「良く...分かりません。でもご主人様と出会うことのできた幸福な気持ちが、胸のとこから漏れ出す感じがします。これは...病気なのでしょうか」
「それが悲しいという感情だよ。私も君に叩かれたら悲しい。そんな気分にはなりたくないよね?」
「はい...つらいです。」
「そういう気分にさせないことが、思いやりなんだ」
「私には難しいです」
「少しずつ学んでいけばいいさ。でもまずはこのお姉さんに、ごめんなさいをしないとね」
「はい」
彼女はお姉さんに再度近づく。良いぞ頑張れ!!
でも彼女たちの距離はなかなか近づかない。お姉さんが後ずさりをしているからだ。背に壁が当たってその後ずさりは終わった
「ごめんなさい」
よくやった!!これでお姉さんが許せば彼女は一歩進める
「...こっちに来ないで、化け物」
お姉さんの口から出たのは謝罪を受け入れる言葉ではなく、彼女を拒絶するもの。そのとがった言葉は、人としての感情を学び始めた、小さな彼女の心に突き刺さり、ズタズタに切り裂くことを容易に想像できた。




