斧の娘
私は長い間夢を見ていた。瞳に映る物すべてが灰色で味気ない退屈な夢。時々自分と同じ境遇の子が話しかけてきてくれることが楽しみの、なんでもない夢。そんな夢の中で最も楽しみだったのは私を抱いて眠ってくれたあの人に会うこと。彼は時々、私をシース(鞘)から抜いて外の空気を吸わせてくれる。その一時は何事にも代えがたい幸せな一時だった。
ある時、一人の少女が表れた。髪はつやつやで、よく手入れが行き届いているようだった。
「私のマスターがあなたの力を必要としています。一緒に来てくださいますか?」
「この夢から覚めろというのか?」
「ええ、そうです。マスターがあなたを欲しています。」
「残念だが、私には思い人がいる。だから共に行くことはできない」
必要とされるのはうれしいが、あの人をほおって出ていくことはできないと思った。
「夢の中で会った男の人にもう一度会いたい?」クスクス
この小娘何を知っている?なぜ私の心が読める?不快だ
「温かく心地いいですものね。かなう物なら自分だけのものとして誰にも秘密にかくしてしまいたい…。」
「何故わかる!?」
「私も同じ境遇にあったからです。あなたを必要とされているのは思い人その人ですよ。」
ああ、なんということだ。やっとこれであの人に恩を返せる。今度は私があの人を温めてあげよう。
「そうか、ならば喜んで力になろう。」
次の瞬間、私の体に何か熱い物が流れる感触があり、白い光に包まれた。
目を開けると、そこには夢にまで見たあの人がそこにいた。
可愛らしい眼はわたしをどこか好奇心おおせいと言った風に、のぞき込んでいる。程よく引き締まった体は指を這わせれば素晴らしい弾力を伝えてくれそうだった。しかし、童顔でどこか可愛らしい。今すぐにでも抱きしめてしまいたい。
「お力をいただき無事、新たなる体を手に入れることが出来ました。M48 HAWKでございます。これからどうぞよろしくお願いします。可愛らしいご主人様。」
ああ。私はきちんと自己紹介ができただろうか、声は震えていないだろうか。
会釈して私の目に映ったのは、ご主人様の親指から床にしたたり落ちる真っ赤な液体。
その時、私の直感がささやいた「あれは良い物だ」
我慢できなくなった私は跪きご主人様から漏れ出すその汁を、一滴も無駄にしないために、そのお手をやさしく持ち上げ、液体へと舌を這わせた。
瞬間、口の中に芳醇な香りが広がる。その温かき液体は、私の喉を通り体の中心へとめぐり、体の一番深い所が熱くなった。そうか、この力によって私は夢から覚めたのか。
自分がこの液体なしでは生きられないだろうと強く思った。
「おいひいです。ごひゅじんさま。」
何か隣で小娘が騒ぎ立てていたが、そんなことはどうでもよかった。
今はそれよりも、この不思議な液体があふれ出すところを口でふさがないと
無我夢中で指にしゃぶりついた。その液体は自分から理性を忘れさせるようなことは簡単だったのである。
しかし、液体は段々と出が悪くなってしまった。悲しい。
この後ご主人様は気を失ってしまい、私は一生かかっても償いきれないような大罪を犯してしまったことに気が付いた。
騒ぎ立てていた小娘は私など眼中にないといった風で、ご主人様を布団へと運び息があることを確かめた後、泣きながらご主人様の親指をしゃぶっていた。