武者
実は私は、人と同じことが嫌いで小中高と先生に迷惑をいっぱいかけていた。そのせいで先生に呼び出される=怒られるのではないかと今まさにビクビクしている。アメリカだったら逆に、人と同じことを発言していたら馬鹿にされると知っている今なら、あの頃の先生はちょっと変だったのではと思う。
まあ、そんなこんなで教授のいる研究室前まで来た。もちろんアイとユイ姉も一緒だ。私の学校から支給されたパスでは自動ドアは開かないとのことなので電話をかける。
「もしもし、こんにちは。」
「剣太くんかい!?」
「はい、そうです。」
「今行くからちょっと待っていてくれ!!」
数分後
「マスター誰か来ました。」
「待たせてごめんね、さあ入って。」
教授は満面の笑みで迎えてくれた。年は60くらいだろうか。頭の毛が少し寂しい。
「この子たちが噂のアイちゃんとユイちゃんだね。ファンサイトで見たよ。写真通りの可愛さだからびっくりしちゃった。」
ファンの人だろうか。なぜ呼び出したのかな?
「剣太君にお気に入りの子がいるように、私にもお気に入りの子がいるんだ。ぜひ人になれる力を授けてもらいたくて、君を呼んだんだ。もちろん、ただとは言わない。単位をあげてもいいし、日本刀と同じ位ならお金を払ってもいい。」
どこから冗談で、どこから本気なのか私には分からなかった。ただ、気になるのが一点。
「送っていただいたメールの送り主の名前を見たのですが、もしかして自習室や工房の刃物を管理しているのは、あなたですか?」
「ああ、管理なんて名ばかりでね、あらかたの整備しか行き届いていないんだ。盗まれないように番号で分けて保管しているのがやっとだよ。」
この時、これは運命だと、ここで言わなきゃいつ言うんだと思った。
「実は自習室の刃物の中に欲しい物があります。」
アイの息をのむ音が聞こえた。後でしっかり話さないと。
「また、珍しいことを言うね。確かあの中にはそれほど高価な物はなかったと思うが。分かった、君が欲しい物を取っていってくれ。その分、報告してくれれば、私が自腹を切って新しい物を購入しよう。」
話の分かる人で助かった!買い足すのは学校の経費から落としているから、なくなると色々まずいかららしい。
そして教授の持ってきたのは一振りの刀。実に美しい波紋が刀身に浮き上がっていて、紙ごしにも素手で触れてはいけないのではないかと心配になった。ただし、持ち手がなかった。
「あの、すみません。」
「できないのか?」
「いえ、そうではないのですが、刃物は完全な状態でないと人の姿となった時に、体に欠損が起こってしまうのです。」
「後から柄を付けた時はどうなる?」
「はい、私が試したときは、完璧な状態になりました。」
「うむ、では頼む。」
指を切って血を含ませる。丁度、刀の腹を通ってツツツーーと刃先へと流れるのが見えた。美しい刀身に赤が映える。そう思った。
光が収まったその場所には……..
長く、白い髪をポニーテールみたいにしたお嬢さんがいた。足回りには鎧武者の”草摺”の様なものまでついている。でも、やはり足首から先が無いく、立てないようだった。
「おう、主様や、私を持って人を切らなかったのはお前が初めてだぞ。毎日毎日私を眺めるだけで、よく飽きないな。」
「今の日本は平和ですから。」
「私のいるべきところはここではない。戦場に行きたい。そのために作られたのだ。」
「出来る限り、あなたの望みをかなえましょう。」
「それからお前!もっと血をよこせ!人の血は今まで幾度となく浴びてきたが、お前の血は、私を眠りから覚ますのには十分な旨さだったわ。」
「マスターの血を頂けたからと言って、調子に乗らないでいただけますか?」
「アイ、大丈夫だから落ち着いて。」
彼女に血を飲ませてあげる。
「はああああ♡旨いなあ♡お前どうして、こんなに旨いんだ?ええ? 決めた!お前私の物になれ!!」
「いえ、私には守らなくてはならないものがありますので、あなたの物にはなれません。でも、時々血を送って差し上げることはできますよ?」
「つれないのう。約束は守れよ?」
「もちろんですとも。男に二言はありません。」
「気に入った!!おい、主殿、酒はあるか!!」
持ち主よりも偉そうな刃物娘もいるんだ。でも教授は、あの後泣きながらお礼を言ってきたから、あれでよかったのだと思う。変わった人だ。




