初めての共同生活
あの衝撃的な出会いから一夜明けて私は大学に来ていた。
「ハア。これからどうしよう」
一番の問題は私の居住スペースは6畳一間であるということである。そこにナイフとはいえ、女の子と一緒に生活するなんて自分にはできるだろうか。いや、まずいだろう。幸い昨晩は彼女がナイフの形に戻ってくれたため、寝ることはできた。しかし、それでも私の心臓は早鐘のように脈打ち、目が覚めてしまってなかなか寝付けなかった。
「とりあえずは刃物のままでいてもらおう」
緊張しながらも、はやる気持ちを抑えて帰路に就く。実際、講義の内容はほとんど入ってこなかった。だって信じられるか?家には私の愛した刃物が待っている。しかも人間になれる!彼女、今朝は一緒に大学へ行きたいと駄々をこねた。かわいい!神様ありがとう!!
「ただいまー」
「おかえりなさいませ!マスター!!」
IMF2がギュッと抱きしめてくる。
この娘,良いにおいがする!!すごくやわらくくてむちっとした二つのお山さんが私のむな板におしつけられて.......
ここが天国か....
「マスター?」
「あ、ごめんね。なんでもないから」
フフ「変なマスター」
なんで笑顔一つがこんなにかわいいのだ。いかん、惚けていたらまた心配される。
「家では変わったことはなかったかい?」
「はい!外敵からの干渉はありませんでした!」
君は軍隊の人か!!
「そんなに堅苦しく話さなくてもいいよ、それに外敵ってここは日本だよ?そんなもの来るはずないじゃないか。」
「マスターはもっとご自分の力を自覚なされてください!」
「力?」
「私にこの体を授けてくださった力です.」
そんなに危なくなさそうな気がする。この子だってこんなに私に良くしてくれている。
「力といえば他の刃物たちにも人間に」
「なぜですか!!!!!」
くい気味で怒鳴られて面喰ってしまった。
「マスターの望むことなら、私どんなことでもします!だからどうか見捨てないで。一緒に連れて行ってなんて、わがまま言わないから。」
彼女の両眼には今にも零れ落ちそうな涙がたまっている。まるで小さな子供みたいだ。考えてみれば彼女は、作られてから人間のこの姿になるまで人としゃべれず、寂しかったのだろう。
「大丈夫、ほかの娘が増えても君のことが好きなことは変わらないよ。その証拠に君だけの名前を付けてあげよう。」
うつむきがちになっていた彼女が頭を上げる。
「今おっしゃられたことは,本当ですか?」ズズ..。
「ああ本当だとも、なぜ私が君を一番多く抱いて眠ったと思ってるんだい?さあ、涙を拭いて、鼻水をかんで」
「ほかの娘が人になっても私にかまってくださいますか?」
「ああ、もちろんだとも」
「かわいい名前をつけてくださいますか?」
「実はもう考えてある。君の名はアイ、日本語ではLOVEという意味があるんだ。」
「私の名前はアイ...。マスターの一番...。」
彼女は小さな声で何か、かみしめるようにつぶやいているが私にはよく聞こえなかった。
「気に入ってくれたかな?」
「はい!私はマスターのアイです!」
そんなに目をキラキラさせて見られるとIMF2のアイからとったなんて口が裂けても言えそうになかった。
「元気が出たようでよかったよ」
「他の娘に人になれる力を与えることに完全に納得したわけではありませんから!!今夜からは一緒に寝てもらいます!もちろん私は人の姿のままです!!」
「刃物のままじゃだめかな?」
「だめです!」
こんなにいい笑顔で言われて断れる男はいるだろうか。
ああ、しばらく眠れぬ夜を過ごすことになりそうだ。