たった一つの、願い。
学校に到着した.
私の学校は全生徒のうち,女学生はたった,4%しかいない.しかも彼女たちとの遭遇率は極めて低く,一カ月学校にいたのに一度も会わないなんて,ざらである.そこにアイやユイ姉を連れていくと,どうなるのか,予測は簡単にできるだろう.
周囲からさらされる羨望の,あるいは嫉妬の,目目目目目!!!彼女たちは,ただでさえ容姿が優れているうえに,全身のコーディネートが真っ黒だ.私はもう慣れたが,初めて見る人にとってそれは,大きな衝撃であろう.その二人が,さえない男を真ん中にして両側から挟み込んでいる.なんて居心地の悪いサンドイッチ.私は,彼女たちという美しい花を引き立てるための土に過ぎない.養分を吸われるという意味では同じか.
講義を受けるため,彼女たちを校内にある図書館へと連れていく.ここだったら一般の人も入れるし,字を読めるようになった彼女たちが退屈しないと考えたのだ.誰かに何か聞かれても変な答えはしないようにきつく言っておくことも忘れない.最近は減ったが彼女たちの行動原理は私と大きく異なっている.図書館の入り口まで来て寂しそうに手を振ってくれる彼女たちに精いっぱい手を振る.彼女たちも強く振り返してくれた.私が10mほど歩いたら彼女たちの周りに人だかりが出来ていた.
「こんにちは!お嬢さん!さっきの男の人は彼氏さんですか?」
「バッカお前,彼女二人連れて学校来る奴がどこにいるんだよ!」
「彼は私たちのご主人様ですよ.」
私以外の人間は利用価値があるか,そうじゃないかで行動しているアイが敬語を使っている.しかもなんか上機嫌だ.これなら安心して講義に行ける.下手したら流血事件になるのではないかと,ひやひやしていたんだ.
ユイ姉が
「女の子同士の恋についてどう思いますか?」と女の子に聞かれていた.ユイ姉は髪が短いし,男の人みたいな雰囲気があるからね.いい友達ができるといいね.
90分の長い講義の中で今は60分目まで来た.ふと,廊下に面する窓に目を向けたらアイとユイ姉が口を「3」みたいにしてこっちを見ていたので笑ってしまった.静かだった講義室の中で私に注目が集まるが,仕方ないだろう.あれは笑ってしまう.彼女達の周りには人だかりができ,何人か写真を撮っている人もいるらしい.
それから30分講義を受けるつもりだったのだけれど,二人の視線が気になってしまって今日は早引きすることにした.あまり待たせてはかわいそうだしね.
「さあ,お昼ご飯にしようか.」
いつもはおにぎりだが今日は,サンドイッチにした.なぜなら彼女たちと同じものを食べたいから.中庭の日当りのいい芝生の上でご飯を食べることにする.風邪は少し寒いが,日差しは温かく,人ごみの室内で食べるよりもずっとおいしくいただけるだろう.同じように外で食べようとする女の子グループを見た.
「はいマスター,今日のご飯です.」
「実は今日は,二人に内緒で二人のためにご飯を作ってきたんだ.」
私が隠れてこそこそ作ってきたサンドイッチを披露する.傍からみると何の変哲もないジャムサンドなのだが,この真っ赤なイチゴジャムには私の血が練りこんである.もちろん不公平にならないようにクロとサクラの分も作っておいた.今頃,丁度食べているころだろうか.
ラップをといて直接アイとユイ姉の手の上にのせてあげる.どうしたのだろう.二人とも震えていた.
「マスターの手作り....ありがとうございます.」
(匂いから察するに,このパンに挟まれているジャムにはマスターの血が含まれている!こんなうれしいことが,あっていいのだろうか,マスターは使う対象である私たちにまでこのような気遣いをして下さる.私は今,幸せです.あなたに出会えてよかった.)
「一応,アイたちの口に合うように気遣ってみたのだけど,どうかな?」
(食べずに持ち帰りたいです.でもこんなこと言ったら変な子だと思われてしまうかしら?だから,ちょっとだけ,ほんの少しだけかじります.大きく頬張るのは恥ずかしいことなのそうです.)
はぐ!はぐ! ゴックン!
「美味しいです!!!なんだかフワフワします!!」
(作ってから時間がたっているのにこんなにおいしいのはどうして?もしかしたら,マスターはご自身の意思で血液の質を変えられるのかもしれません.ああ,もう一口しか残っていない.)
予想よりも彼女たちの食いつきがよかったので,次はもっと豪華な食事を作ってあげようと思った.そういえば,クロが私の血が入っていないとご飯がおいしくないと言っていた.それから察するに,竹ちゃんの家の子と若頭さんのお家の子も味気ない食事で我慢しているかもしれない.悪いことをしたな.血をどうにかして送ってあげないといけないだろう.
食後,私の口の横についたケチャップをアイが舐めとるというハプニングが起き,女生徒から悲鳴が上がった.彼女たちがアイたちは吸血していることを知ったら,どんな反応をするのか?なんて意地悪な考えを持ってしまった.
場所は変わって自習室,ここには大抵竹ちゃんがいるので,学校に戻ってきたことを知らせておきたくてここによった.こういうことはメールよりも直接言った方がいいからね.そこで私は大きな問題に直面することとなった.
驚くことに足を踏み入れた瞬間,机やいすの間に所狭しと女の子たちが表れ,一斉に跪いた.そして,代表と思しき女の子が一歩踏み出しこう言ってきた.
「あなた様が表れるのを今か今かと,心待ちにしておりました.」
皆が跪く姿がまるで力がある人にするようで怖くなった.アイを見てもユイ姉を見てもそれが至極当然の様な表情でこちらに微笑み返すのみ.また妄想を見ているのかと思って,踵を返し出口に帰ろうとすると,なきそうな声で呼び止められた.
「勝手なお願いだと笑っていただいても結構です.ですが,どうか話だけでも!!」
彼女があまりに必死で,このまま放置していたらユイ姉が吹き飛ばしてしまいそうだったので,話を聞いてみることにした.
「私たちはこの実習室で使われているハサミや切り出し刀に宿った付喪神です.私たちの中にひどい扱いを人間に受けて,傷ついてしまった子がいます.彼女たちはこのままでは鉄くずとして処分されることとなるでしょう.すべてを救ってくれとは言いません.どうか一部だけでも,1本2本でもいいのです.救ってもらえませんか?もちろんお礼はします.」
ここで断ったらそれは,日本人ではないでしょう.
刃こぼれのひどかった数本を持ち帰って研ぎあげることにしました.刃物を研ぐには刃に元々ついた刃の角度を維持しなくては,全く別のものになってしまう恐れがあるので最新の注意が必要です.なので一度に沢山はできません.
この時まだ私は知らないのです.私の通う大学にどれだけの刃物が存在するのか.
家に帰って,竹ちゃんと若頭さんに送る血を準備し始めました.プラモデル用のインクのスペア瓶に手首を切って血を注ぎます.こんな時,丈夫な体は便利です.だって血が止まればすぐに傷はなくなるのですから.
「もし,あなたのおうちの子がご飯を味気ないと考えているようならこれを混ぜてあげてください.私の血です.」と手紙をつけるのも忘れません.文脈は,いかれていますが,彼らならば理解できるでしょう.悪くならないようにチルドで送りました.




