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不甲斐なさと安心の間

少しグロテスクな表現が含まれています。

 皆と食事をしている。いつもの日常だ。小さい子にねだられてご飯を食べさせてあげれば、アイに怒られ、それを笑い。そこそこ美味しいご飯を食べる。幸せだった。


「おい、起きろ」


 あーそうだった。私は椅子に括り付けられて電気を流されていたんだった。全く目覚めが悪い。良い夢を見ていたのに。

 暖かい日常は、屈強な男たちにかけられた冷や水によって床へと流れた。


 見れば私の手は血管が黒く染まり、まるで木の葉の模様を写したようになっていた。なにこれ。電気を人に流すとこうなるのか。


「今から、お前の頭を石で殴る。頼むから。頼むから死んでくれ。」


 そんなこと言われたのは初めてだ。私が夢を見ている間にもいろいろ試したのか服はズタズタ。拷問しているはずの人の方が悲しい顔をしている。本当何があった。相棒のような人は胸で十字を切り、まるで私が悪魔か何かかと思っているかのようだ。


「あの、今帰していただければ何もなかったことにしますので。」


「うるさい黙れ!!」


ガツン!!


キラキラと花吹雪が視界に飛ぶが、死にそうにはない。痛い。凄く痛い。


 すると、暗闇の中からアイが表れた。また夢を見はじめたのか。できればこのままずっと夢を見ていたい。


「アイ。寒いんだ。一緒に眠ってくれないか?」


「はい。喜んで」

夢であった彼女は温かくて柔らかい。安心するアイの香りがした。


「でもその前にこいつらを殺しますね」


笑顔でこんなことを言えるのは彼女くらいだろう。


「もしかして、本物のアイ?」


彼女はウインクをして先ほどまで私のことを殴っていたおっさんを切りつけた。


 野太い悲鳴が部屋にこだまする。足を切られたことで逃げることができなくなったおっさんをアイは足先から”刻んで”行く。泣きながらやるくらいなら、そんなことやらなくていいのに。


「マスターはなぁ、死ねないから何度でも何度でも苦しむんだ…!お前らなんかにはなぁ。わかんないんだよ!!」

ああ、それで泣いていたのか。おっさんは下半身が全部刺身になったところで動かなくなった。かわいそうに凄く痛いだろう。


「マスター。お待たせしました。」


ああ。アイが縛られた私の上に跨ってくる。痛くしないで。


「助かったよ。」


 彼女は私の胸に顔をうずめたまま動かない。どうした?いつもならここで、『上書きします!』とか言ってきそうなものなのだが。


「……死んじゃったかと思った」


「助けてくれてから生きてるよ」


「うん」


「もう少し早かったらもっと嬉しかったな」


「うん」


 早くここから出ないと。もう一人の悪い人は出口から逃げ出した。アイは相当動揺していたのだろう、悪者を逃がすなんて初めてじゃないか。それも私をいじめた悪者は。





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