黒い車
「こんにちは,今日は良い天気ですね.誰かと待ち合わせですか?」
「ええ,火口剣太さんを知りませんか?どうやら同じ寮から出てきたようですが.」
やっぱり私関係か.
「彼はもう寮にはいないと思いますよ.」
「それではもう大学に?」
「それはないと思います.」
「もしかしてあなたが,剣太さんだったりします?」
「ええ,まあ.」
「今日はお願いがあって,まいりました.」
スーツを着たおじさんが車から降りてくる.ガタイがいい.
「私たちの若頭があなたに会ってみたいとおっしゃられています.一緒に来てもらえませんか?」
「彼女たちも一緒でいいですか?」
可愛らしい笑顔を振りまく,アイとユイ姉.心の中ではとんでもないことを考えていそうだ.
「ええもちろんです.歓迎します.」
車に乗せられてしばらくして到着したのは,和風の大豪邸だった.でも家の前の道に設置された監視カメラと,重そうな門が異彩を放っていた.
門をくぐると大きな庭があってそこから室内がうかがえた.しかし,窓ガラスの前にもう一枚ガラスが設置してあって何かおかしい,
「最近は物騒でハジキを振り回す輩が多いから増設したんです.なかなかいいでしょう.その防弾ガラス.」
「わざわざご足労をかけ,申し訳ない.お願いするこちらから出向くのが筋という物.しかし,爺どもが”威厳が立たぬ”とうるさくて.」
「そちらのお嬢さんたちは火口さんのナイフですか?」
「ええ,アイとユイと言います.ところでその情報をどこから?」
「君の友達に竹林君がいるがいるだろう.」
まさか彼が尋問された?
「彼がブログで変わったナイフを紹介していてね.なんでも人の姿に慣れるのだとか.そして君のことを知ったのだよ.」
よかった.竹ちゃんは無事のようだ.
「君は何人,いや何本所有している?彼女たちの具合はどうだ?ええ?色男さん.」
「それ以上,ご主人様を侮辱されるならば容赦はしませんよ.」
アイ!この人たちはやばいって!
「自分のことを”ご主人様”何て呼ばせているのか,とんだ変態だな.」
「アイ..俺は気にしないから落ち着いて.」
バキ!!ドン!ガッシャーン!!!!!
「え?」
さっきまで私に話しかけていた人が目の前から消えた.
探してみるとガラスを突き抜けて,部屋の反対側まで吹き飛んだあの人を見つけた.
「ユイ姉?手加減しなかったでしょ.」
「何のことでしょうか.私はただ目の前のうるさい虫を払っただけですが?」
「なにごとだーーーー!!!!!」
なんかいっぱい怖い人が集まってきちゃったよ!逃げなきゃ!!!
「若頭ーーー!!!」
「俺は大丈夫.大丈夫だ.防弾チョッキ着てたから.多分あばら2,3本だ.」
「なにしてくれてるんじゃ!ワレ!」
「ひっこんでろつっただろうが!!今のは,こいつのことを試しただけだ!!」
「剣太君だったか?お前よくナイフに好かれているな.うらやましいよ.娼婦のように彼女たちを扱っていたら,たたき切ってやろうと思っていたんだがな.すまんかった.」
ユイ姉はナイフというより斧なのだが力が大きすぎる
「君を紳士と見込んでお願いがあるのだが,聞いてくれるだろうか」
吹き飛ばしてしまったし,真剣な表情だったので聞いてみることにした.
「これは俺が,これまでずっと支えてもらっとった刀じゃ.こいつの声が一時でもいいから聞きたい.なんとか頼む」
彼は深く頭を下げた.
「若頭!!やめてください!!!私が代わりにいくらでも下げますから!!」
「ひっこんでろと言っただろうが!!」
ダンディーなおじさまが連れていかれる
「分かりました.刀に力を使ったことはありませんが,やってみましょう.」
私はこの人に,自分を重ねてしまった.まだこの力がなかったあのころを
今回は刃が長かったため,手のひらで撫でるように血を着けることにした.しかし,ふと気になった.今までこうして血を着けてきたが,私の手には何の傷跡もない.
いつもよりも鋭い熱さと冷たさ,激しい光に包まれ目を開けるとそこには.
純白の和服に身を包んだ美しい女性がいた.
「このたびはお力をいただき,感謝しております.これでやっと我が片割れと会話をすることがかないます.」
「どうだ?俺のことが分かるか?」
「もちろんでございます.お前様.」
まるで彼女と彼は長い間,離れ離れだった恋人のように,おでこを互いにくっ付けあった.
「お前を使って人を切る,俺のことが嫌いじゃないだろうか?」
「私は,美術品として作られたものではなく,人を切るために生まれた刀.そうしてお使いになられることに何の不満がありましょうか.」
「ありがとう.....ほんにありがとうな...」
なぜか,彼の涙は見てはいけないものではないかと思った.
しばらくして
「今日はわざわざありがとうな.短い時間だったが.気持ちを俺の”山桜”に伝えることができた.またいつでも来てくれ.それから,これは気持ちじゃ,受け取ってくれ.」
渡されたのは,高そうなラベルの張られた日本酒
「若頭!!それは上客用にとっておいた,とっておきじゃn」
「じゃかしい!!だまっとれ!」
わたしは,お酒飲まないのでけれど,とても断れる雰囲気ではなかった.
「何か誤解されているようですが,彼女には人の姿になれる力がそのまま残ると思いますよ?それがいつまで続くかは,まだ分かりませんが.」
竹ちゃんとこの,白い子もまだ人になっている.
「それはマジか????」
この後私は,若頭さんに
「もし,大学卒業して就職できなかったら家に来い!俺の弟として育ててやるけん.」
とのありがたいお言葉をいただいた.
そしてお互いの電話番号を交換し,その日はお開きになった.L○NEのアドレスじゃないところがね,古風でいいなと思った.




