少女の夢
役立たずの体を引きずってアイの足にしがみつく。かっこ悪くったっていい。今の彼女を止められるならなんだってする。
「マスター、どうかその手を離してください。あいつらに仕返しをすることができません」
「アイ、お願いだからいつものアイに戻ってくれ。」
「いつもの私...?」
良かった。話を聞いてくれるならばまだ止める余地はある。
「良い機会ですからよく見ておいてください。これが、貴方に好かれるために隠し通してきた本当の自分。薄汚くて残酷で残忍で最低の私の本性です。」
だめだ。アイの歩みは止まらない。彼女の服にしがみつき、よじ登るようにして注意をそらそうとするが彼女の目は震える幼女たちからは離れない。
「アイ、お願い。やめて」
「だめです」
「...なんでもいう事聞くから」
「何でもですか?」
食いついた!!これにかけるしかない!もう壊れるのを見るのは沢山だった。そのためになら自分が差し出せるものなら何でも出そうと思った。
「そう、なんでも。心臓でも、目玉でも、脳みそだっていいよ?」
どれも彼女は食べたことは無いはずだ。自慢ではないが、彼女たちにとって私の肉がどのような物なのかは理解している。どれも喉から手が出るほど欲しいはず
「私は...温かい家庭が欲しい」
アイのお願いは、私の予想とは全く違った。
彼女は私を優しく抱き上げられて目線を同じくしてくれた。
「温かい家庭?」
「そうです。『物のお前が』とお笑いください。でもどうしても欲しいのです。ただ貴方の心のよりどころの一部となりたい。傍らには貴方と私の子供がいて手をかけながら育てるのです。 ご用意できますか?」
声色も表情も目線もいつもの彼女の物だった。柔らかい頬っぺたの感触もそのまま
「出来る限り力を尽くすよ。」
「...愛しております。狂おしいほどに。その答えを聞けて良かった。あの者どもの中にとらわれた貴方を助けることがかなわないのは残念ですが交換条件です。受け入れましょう」
「私も愛している」
二人でおでこをくっつけ合ってお互いの気持ちを確かめ合った。
「アイが罰を与えなくとも、彼女たちにはもっとひどいことが起きると思うから、このまま帰ろう」
「それはどういうことですか?」
「彼女たちはこれから、私の力が無くなっていく中で寒さに震えることになる。もうここには来る気はしないしね。」
まあ、私の血が無くとも実体化していた彼女たちだ。死にはしないだろう。
「マスター。なんと恐ろしいことを...それならいっそ、一思いに殺してしまった方がよろしいのではないですか?ユイ姉は力を失いかけた時、非常に苦しんでおりました。」
「私は、愛したもの以外には厳しく生きる人間だよ。弱い者いじめは好きじゃないけれどね」




