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片翼の天使

 実は今日のお昼の握り飯はアイが自ら握ってくれた。いつもは自分で握っていて私は手が大きいから一つのおにぎりになるのだけれど、アイが握ったおにぎりは同じ量でも小さいおにぎり二つになる。私が握っているのを見よう見まねでやったのか、形は歪。しかし、とても美味しかった。

 刃物娘は元となった刃物の特性に依存するらしく、アイがご飯を作ると言い出して、作ろうとしていたメニューは、ドングリのクッキーとカモの丸焼き。実にサバイバル向きだった。残念だが今回は遠慮させてもらった。

  何か、私の力になりたいらしく、今回の竹ちゃん宅への訪問も二つ返事で応じてくれた。「護衛任務を遂行します!」と敬礼までして気合ばっちりのようだ。


「一張羅に着替えますねー!」

 女の子の着替えは長く時間のかかる物だと思っていたが、彼女たちの場合一瞬だった。なんでも、自分の好きなように服を形作れるのだとか。その分の質量はどこから出てきているのだろうか?謎は多い。

 だが、私の目の前で脱ぎ始めるのは止めてほしい。


「脱衣場で着替えておいで」

目のやり場に困る

「マスターは,”また”私を見て下さらないのですか?」


アイはあの一件以来大胆になった.


「竹ちゃんが待ってるから…。」


「耳まで真っ赤にする、マスター可愛い♡」



 今日は、アイが私と一日一緒にいる日なのだとか。とても身が持ちそうにない。


 やっぱり今日も黒を貴重とした服を着ている。ナイフの刀身のコーティングの名残だろうか。


 道中、アイがカエルを捕まえようとしたり、ハプニングがあったが何とか竹ちゃん宅までたどり着いた。


ピンポーン


「遅かったな!!準備は万端だぞ!!」

 びっくりした。いつもはひげを剃っていなかったり、作業着のまま講義を受けていたりする竹ちゃんがスーツで決めていた。しっかりとネクタイまで締めて。


「どうしたの?」

「出会いは第一印象が大事だっていうだろ?だからびしっと決めてみた!!」



アハハハハハ!!!! 笑わずにはいられなかった。


「ごめん。いや、似合っているよ」


「笑いたけりゃ笑え!!」


「ごめん。ごめん。竹ちゃん、紹介するね。この子がうちのアイだ」


「はじめまして、アイと申します。」


「アイ、こちら私の友人の竹ちゃん。」


「この子がナイフかー!!すごいな」

「あの…あまりじろじろ見ないでください」


「ああ、すまない。悪気はないんだ。」


なんだかアイがしおらしいぞ。


「早速,剣太にうちの子を見てもらいたいのだが、いいか?」


「もちろん。そのために来たんだ。」


 彼が大事そうに持ってきたナイフは彼お手製のシース(鞘)と思われるものに入っていた。グリップの材質はゴム、刀身は鈍色に輝き,彼が普段から大切に扱っていることが良くうかがえた。切っ先はグリップの中心線上にあり、以上のことから元は,ダガーナイフであったと判断した。ただし、特徴的な点があった。前記の特徴以外に、ダガーナイフは左右対称な刀身を持っているが、このナイフはその刀身の左側を大きく削り取られたようになっていた。


「知っての通り、日本ではダガーナイフの所持が違法になった。多くのものは破棄か回収されたが、これは安通力の高い形状を著しく損なう加工をすることで、生き残った物の一本だ。こいつにも人の姿になれる力を与えてもらえないだろうか。」


 私は、ナイフの形状やサイズ、製作目的や持ち主の考え方により、ナイフがどのような人になるのか予測できないという旨を彼に伝えた。


「それでも、やるかい?」


「もちろんだ。」

 万が一にも人の姿をとったナイフが、彼の嗜好に合わなくて捨てられてしまったらかわいそうだと心配していたがこの確かな眼光を持つ彼なら大丈夫だと感じた。


刃にそっと親指の腹を添え、ゆっくりと手前に引く。

瞬間、焼き付くような痛みが、次に冷や汗の出る冷たさが指に宿る。


強い光に見舞われ、数秒後。目が慣れるとそこには真っ白な女の子がいた。


「このたびは力を授けて下さり、ありがとうございます。」

真っ白な女の子は恭しく跪いて、お辞儀をする。


「ですが、その汚らしい血で私を汚してくださったことは許しませんわ!!」

胸倉をつかまれる。こぶしの骨が当たって結構いたい。


アイの瞳に光がともっていないことに気が付いて必死に止めさせる。

「アイ!!俺は大丈夫だから!何もするな!!」


白い女の子が顔を近づけてくる。

「ただ、ほんの少しだけ、ほんのちょっぴりだけ、ここちよかったのでこれはお礼です。」


チュ


ほっぺにキスされた。


わたしも竹ちゃんもアイもびっくりして反応するまでに長い時間を要した。



白いドレスを着た彼女は、窓から差し込む光に照らされて、まるで天使みたいだった。

ただ,彼女には左手がなかった。


いきなり胸倉をつかんできたのは、そこに触れられたくなかったからかもしれない。ふとそう感じた。


 竹ちゃんは彼女と楽しい話の真っ最中だ。体の欠損なんてどうでもいいみたいに楽しげに話す竹ちゃんはやっぱり竹ちゃんだ。彼女が良い持ち主と出会えたようでよかった。邪魔するのは野暮ってやつだろう。


 アイは何をしているかというと、白い女の子にキスされた方の私の頬を必死にハンカチで拭っていた。



 こんなに沢山の方に見ていただけるとは考えてもおらず,ただただうれしいばかりの作者です.あまりにもうれしすぎで本日3度目の投稿です。ありがとうございます。

自分へのクリスマスプレゼントとして新しいナイフを買ったのは、うちの皆にはまだ内緒です.

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