【短編】アオハルのウラガワ 1
「あなた、何がしたいの?」
という言葉を、学校の先生達からよくかけられていた。
先生達が私に対してそんな言葉をかけたくなるのも、私自身も理解出来た。
小さい頃から周囲のことに興味を持たなかった。
ただ日々を過ごしている、その言葉しっくりくる生活を送っていた。
ただ、何もしない、ということをすると周りから虐げられることは小学生の低学年で学べたのが幸いしてか、最低限のことはするようにしていた。
例えば宿題、とかである。
小学校一年生の時にクラスでたった一人だけ宿題をやってこなかった子がいた。
担任の先生には怒られ、周りの子供達からもからかわれ.....そして次第に学校に来るのが嫌になり、年度末には転校をしていった。
良くも悪くもそんな出来事を、あくまで自分は関わらないようにしながら、遠巻きに見ていたが、あぁするとこうなるんだ、ということを学んだ。
その時に、それを学べていなかったら、虐げられたのは私かもしれなかった。
そんな事を、高校二年生になった今でもふと思う時がある。
「真山、私の話を聞いてたか?」
その、ふと思う時が授業中にきたので、古文を担当する中西という中年男性教師からの注意を受けた。
「.....聞いてましたよ」
そう答えると中西はふん、と鼻を鳴らしながら授業に戻った。
古文の授業を終えると、私のもとにとてとてと可愛らしい女子生徒が寄ってきて
「また考え事かなんかしてたんでしょ」
と言いながら空いていた私の前の席に座った。
私の幼なじみである西尾は、こうやって私にかまってきては私の面倒を見たがる。
「また後で中西先生に呼び出されても知らないよ?」
小動物みたいな仕草で私を注意するその姿を、遠巻きに男子達が見ている。
「.....そん時はそん時」
「えー、またそんなこと言って!怒られても知らないからねーだ!」
中西は何かと私に突っかかってくる。
授業中に限らず、私のことを見かければ声を掛けてこようとする。
私はそれが嫌で、露骨に避けようとするが、それすらも越えて私を呼び止める。
一時期は「中西が真山に気がある」なんて、私にとっては迷惑極まりない噂なんかも流れたりした。
中西は私に説教をする時、決まって
「お前はやりたいことを見つけろ」
「目標をもて」
「この先の人生どうするつもりだ」
この三つの言葉を織り交ぜる。
そもそもそんなことお前に言われる筋合いはないし、何故お前に言われなきゃならないのか、と思うところもあったが、この手の人物は反論するとさらに長くなるので、はいはいと聞き流すに限っていた。
大体にしてそんなことは自分が一番よく分かっている。
言い訳をするつもりもない。
私を構う様々な人は、あれやこれやと私に何かをさせるために色々な提案をしてきた。
だがその結果も今である。
学校の勉強に関しては、面倒ごとを避けるためにも一定のレベルは維持するようにしてきた。
ただ、本音としては勉強なんかどうでもよかったし、なんなら学校を辞めても良いとすら思っている。
病的なまでの無関心。
何かをすることで得られる達成感や感動、その他諸々にまるで興味も示さずに生きている。
それが異常であることは自分でも気付いているし、わかっている。
ただ、その異常なまでの無関心に染まりきれずに、なぁなぁと過ごす自分があるのもまた現実で.....。
結局のところこの小さな小さな私の認識できる範囲の社会で、生きていた。
生かさず殺さず、この社会に生かされていた。
西尾にしても、中西にしても、その他諸々にしても、どうして私に構うのかを、解ろうとしても、理解することはできなかった。
私に構うことで周りへの評価をあげたいのか、はたまた純粋に導きたいという聖職的思考なのか。
こんな長々と自分や他人のことを思考していても結局のところ全てどうでも良かった。
思考の無駄遣い。
望んでもいないのに与えられたこの心と体はもはや生きるのに辟易して、やきもきしている、自分ではそう思っていた。
だからといって自殺など、自ら死のうと努力することすらめんどくさく、結局はなぁなぁと生きてしまう自分に、悲しいとか情けないとかそんなことすら思わなくなった。
「ほら、もう帰る時間だよ。行こう。」
西尾がまた私の前の席に座る。
どうでも良いことを考えているうちにまた時間は過ぎていった。
私の人生は多分このまま過ぎていくのだと思う。
やりたいこともなく。
目標もなく。
死んだように生きる。
「また明日ね、ばいばい」
自宅前に到着し、向かいに住む西尾は私に手を振りながら自らの家に入っていく。
その手を振り替えすこともなく私も自分の家へと入っていく。
「ただいま」
玄関で靴を脱ぎ、階段をあがって自分の部屋に入って制服を脱ぐ。
下着も全て外し、そのまま半袖のTシャツとジャージに着替える。
制服がシワにならないようハンガーに掛ける。
特に何をするという目的もなく、階段を降りて居間に行き、足を放り出して座布団に座り、テレビをつける。
テレビの前には一体の骸が横たわっている。
骸というよりそれはミイラに近く、既にどんな人物だったかもわからない。
元は白かったであろうボロボロのワイシャツに黒のスラックスを身につけている。
「喉、乾いたな」
台所に行って冷蔵庫を開ける。
キンキンに冷えた麦茶をコップに注いで一気に飲み干す。
「ぷはっ」
冷蔵庫の横にはボロボロになった灰色のTシャツに、青色のジーパン、その上にエプロンをつけた一体のミイラが座っていた。
麦茶を冷蔵庫に戻し、コップは水洗いしてまた茶箪笥へと戻した。
学校から出た課題をこなすために自分の部屋へと戻る。
小学校の入学式を終えて、初めて出来た友達と遊んでから帰ることを両親に告げると、二人は微笑みながら先に帰っていった。
帰宅すると二人は先に帰らぬ人になっていた。
参観日には親が来ない。
遠足には親が来ない。
事ある事に親が来ない。
誰か気づいてもおかしくないこの状況に誰も気づかないことすらどうでも良くなって十年が経った今も。
私の心はすべてに無関心だった。




