第一話@#Ⅱ#
「はじめまして、総合病院 保留科担当医師の山崎です。自分のこと、少しも覚えていませんか。」
山崎さんの言葉に私はコクリ、と頷いた。確かに少しも覚えていない。すると、山崎さんは分かりました、と言って説明を始めた。
「あなたは三年前、交通事故にあって、ずっと、眠っていました。その交通事故にあったときには所持品はなく、しかも、誰もあなたを知らないといわれました。ここにいる、田中 太郎(仮)君も君と一緒に交通事故にあった少年です。たぶん、お2人は元はお知り合いだったのでしょう。」
唐突な説明に状況を把握するまで、一分、かかる。
「は…い、大丈夫です。把握できました。」
私が苦笑いで把握の合図をすると山崎さんは「じゃあ、」と女性のほうをみた。
「はじめまして、看護師の水無月です。これから、花子(仮)さんのお世話をさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします。」
水無月さん、という看護師さんはにこやかに笑って、点滴を私の腕につけた。そして、説明をしてくれる。
「では、移動はこれをつけたままです。ローラーが付いていますから、移動はしやすいです。後、外出は病院内のみ。まぁ、ある程度、買う物は売店に売っていますから。あっ、そうだ。お金は身元不明人として、国から出ています。ご安心を。ちゃんと、お小遣いみたいな感じであげますからね。っと、これくらいかな。じゃあ、これから、安静にお願いします。」
優しそうだ。水無月さんの笑顔は作り笑顔ではない、と思う。
「瑠羽ちゃん、瑠羽ちゃん、今日の献立、教えてよっ。」
瑠羽ちゃん、と太郎(仮)が呼んでいるところからして、水無月さんの下の名前は瑠羽、というのだろう。私もそう呼ぶことにする。
ちなみに、今日の献立は鯖の味噌煮だそうだ。私は好きなのだろうか。
とにかく、記憶喪失の 山田 花子(仮)の病院生活が
始まりました。
第一話、終了です。