偉そうな人に会いました。……黒そうですね?
「おや、前魔導師長殿。さっそく弟子をおとりになったというご報告ですか?」
優美な猫脚の机にの前に座って、何やら書類を読んでいた美丈夫が顔を上げて興味深げな視線をこちらに向ける。
いくらか赤みを帯びた金色の髪。目の色は、薄い青。肌はよく日に焼けてるけど、あたしの知ってる運動部の誰よりも白い。たぶん人種的なものだろう。
座っているので身長は定かではないけど、体つきはがっしりしていて、……というか、肩幅広いな。厚みのある服を着ているので、胸板の厚さが筋肉なのか脂肪なのか判らない。……でも、顔つきからすると、たぶん筋肉なんだろう。
年齢は、……たぶん二十代より上、六十代まではいっていない、だろう。大人の年齢はよくわかんないや。人種違うし。……うん、それに、ここの人の寿命が常識はずれに長いってこともありうるしな。
「いいえ、違います。どちらかというと……落とし物の類でしょうか」
エリックが涼しい顔で訂正する。たしかに落っこちてきたんだけど……落とし物、とか言われると自分が粗忽者のようでちょっとへこむ。
「落し物、ね。ホントに君のとこにはいろいろ落ちて来るねぇ」
…………エリックって、段ボールに入ったいぬねこによく遭遇して、そして拾っちゃうタイプの人なんだな。
「人間の拾い物は、何人目だっけ? どこから落ちて来たんだろうね……おや」
美丈夫がおもむろに立ち上がり、ゆったりした足取りでこちらに近づいて来る。予想通り背が高いので威圧感がハンパない。
美丈夫はあたしの前で立ち止まると、腰を落として視線を合わせてきた。
色素の薄い目があたしを値踏みするようにあちこちさまよう。……おっさんのくせに、無駄に睫毛長いな。
「髪が短いから男の子かと思ったら、女の子なんだね。……で、なんでエリックの服を着ているのかな?」
「うちには女の子用の着替えはありませんからね」
美丈夫がさりげなくあたしの肩にのせた手を、エリックが引っぺがしながら答える。
……エリックの着替え自体、あまりなかったような気もするんだけど。
「……落ちて来たときに着ていた服だと、目の毒だし」
……やっぱりひざ丈のスカートは目の毒なんだ。
そうだよね。ここに来る途中で見かけた人、みんな床掃きそうな服着てたもんな。男女問わず。……ああ、ズボンの人は何人か見かけたかな。腰に剣吊ってたから、戦闘職の人かな。こんなずるずるした服じゃ、いざというとき邪魔だもんね。
「目の毒? エリックにびりびりにされちゃったとか?」
からかうような口調で美丈夫が言うと、エリックが即座に反応した。
「っどういう意味ですかっ? あなたと違って、人の服裂いて喜ぶ趣味の持ち合わせはありませんが!」
おお。取り乱してるけど敬語は崩れない。
でも、あたしにも判るくらいあからさまにからかわれてるんだから、反応しないのが賢いやり方だと思うよ?
っていうか、他人の服裂いて喜ぶ趣味って。………………どういう状況で?
おっさんはコドモと見做してるようだけど、情報洪水の中を泳いでるイマドキの女子高生だから、『服を破る』だけでいろいろ想像しちゃうよ! いろいろの内容は自主規制するけど。