図書委員のお仕事を説明したいと思います。……主に書庫での。
あたしはポケットに手を入れ、そこにあるプリントの存在を確認した。
左手でずっと握りしめていた『図書委員の手引き』だ。
シワを伸ばして四つに折ってポケットにしまったが、異世界に来るのになんでこんなものを、とそっと溜め息を吐く。通学鞄を、などという贅沢は言わない。せめてスマホを……いやあれは電池を食うのだ。充電できなかったらすぐにただのガラス板だ。
でも、しかたない。書庫はスマホも鞄も持込禁止なのだ。
今日は年度始めの委員会召集日だった。
委員長、副委員長を決め、日常業務の暫定的な班分けをし、カウンター業務の説明のついでに書庫を案内するところだった。
「閉架書庫の本は、ラベルの色が違います。閉架書庫の本を生徒が借りることはあまりありません。……が、まったくいないわけでもありません。閉架書庫への本の返却は、基本的には司書の松沢先生が行うことになっています」
そう言いながら書庫の入り口ドアを開ける。入ってすぐは、松沢先生の執務スペースになっている。
四つのデスクと三つのブックトラックいっぱいに本がひしめいている。皆作業待ちの本たちだ。
修理待ちだったり、配架のための手続き待ちだったり。
「……まあ、松沢先生はこんなふうに作業が詰まっているので、たいていは図書委員が返しに行くことになるんですが」
三つ並んだブックトラックの上に手を置き、ひとつを引き出す。
「黒いトラックに載った本は、『特別配架室』の本です。『特別配架室』には生徒は入れませんので、これには触りません」
ブックトラックの上を撫でまわしながら言うと、何人かからは笑いがとれる。
残りのトラックを牽いて、リフト前に移動。
「『1』は書庫一階、『2』は書庫二階です。ちなみにここは中二階に当たります」
つまり一階へ行くには階段を下り、二階へ行くには上らなければならない。
「本の数が少ないときは手で持って運べますが、数が多いときには、このリフトを使います」
ブックトラックをリフトの中に入れ、行き先階を押す。
「ではこれから書庫に入りまーす。書庫のドアは重いので、指とか挟むとケガをします。開け閉めの時は注意してください」
言いながら軽く体重をかけて書庫のドアを開ける。
一歩中へ入るとそこには。
床がなかった。
しっかり掴んでいたはずのドアノブも、いつの間にか消失していた。
体重が消える感覚に息を呑む。あたしは絶叫マシンには弱いのだ。
ギュッと目を瞑って着地の衝撃に備える。
だが、いつまでたってもそれは来なかった。
おそるおそる目を開けるとそこは
……書庫だった(たぶん)。
見覚えはないけど。