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王立魔法学院の司書  作者:
長い一日
6/21

わが校自慢の書庫を紹介したいと思います。……聞きたいですか?

 あたしの通っている向学舘高校は、創立百二十年、藩校の流れを汲む進学校だ。母親曰く、「なぜあなたが滑り込めたか不思議でしょうがない」

だそうだ。失礼な。

 歴史が古いので余裕の敷地面積を誇り、施設も充実している。……建物が老朽化しているところもある、とか、広くて掃除が大変、とかいうのは否めないが。

 特に充実しているのが教材資料室と、図書館だ。


 そう、図書『室』ではなく、『館』なのだ。

 棟続きとはいえ、独立した建物で、蔵書は一万冊を超える。だが、その七割は耐火建築、エアコン完備の書庫に収納されていて、生徒は自由に見ることはできない。不確かな噂によれば、そこにはマニア垂涎のお宝が眠っているらしい。サイン本とか初版本とか手書き原稿とか。

 蔵書一万冊。お宝。この情報を得たあたしは、死に物狂いで勉強した。B-の判定がAになるくらいには。

 努力の甲斐あって無事合格したあたしは、委員を決める最初のホームルームで図書委員に立候補した。委員になれば、禁断の(?)書庫に自由に(とまでは行かないが、かなり緩いチェックで)出入りできるのだ。


 委員の仕事は、週に二回あるカウンター業務のほかに、委員全体で行うイベント業務、班別に行う日常業務があった。イベント業務でハードだったのは、夏休みの始めにあ行う『棚卸し』だ。

 『棚卸し』というのは、収蔵されている(はずの)本がちゃんとあるか、『配架目録』のリストに従って、開架室と書庫にある本を全部照らし合わせるのだ。一冊残らず。(夏休み前に貸し出された本はリストに【貸出中】と表示されているのでチェック対象外)

 なにしろ蔵書数が膨大なので、図書委員全員と、図書館担当の先生たちとで、一週間がかりでやるのだ。ただ、期間は一週間取ってあるが、実際にはチェックの作業は例年三日ほどで終わり、残りの日程は配架間違いの本を戻したり、夏休み明けにあるイベント――文化祭――の話し合いや日常業務の作業に使われることになるが。

 普段のカウンター業務で、ちゃんと元の棚に戻してあれば、迷子の本なんて出ないはずなのに、毎年十冊くらい行方不明だったり、ひょっこりどこからともなく現れたりする本があるらしい。……小人でも住んでいるんだろうか? (司書の先生の話では、たいていは手続漏れが原因とのことだったけど)

 そうそう。「お宝」について司書の先生に聞いてみたら、『特別収蔵庫』のことではないか、と訊き返された。

 『特別収蔵庫』は書庫の奥の一角にあり、常時鍵がかけられている。稀覯本や寄贈本、それから判型が特殊な本などが収蔵されているのだという。特別収蔵庫の出入りは教職員に限られる(棚卸しの時も含めて)が、閲覧は手続きすれば自由で、一部は貸し出しも可能、とのことだった。

 思ったようなすごいお宝はないんですね、とこぼすと、税金で運営されているんだから、と返された。そう、向学舘は公立高校なのだ。

 公立だから、『稀覯(レア)本』も、単純に昔から所蔵していたり、関係者からの寄贈だったりするのだ。ちょっと肩透かし。



 まあ、『お宝』の件はともかく、書庫は公立高校の図書館としてはちょっと贅沢なものだった。

 いったいどんなマニアがたかが高校の図書館にこんなに予算を注ぎ込んだのかちょっと調べたい気がするほどの。

 耐火建築。

 エアコン完備。季節を問わず定温定湿度。

 それに特別収蔵庫に限るけど、二重の防火扉にフロンガス消火装置。

 他の学校に行った友達に『耐火建築の書庫がある』って言っただけで、呆れられた。

 光がインクを劣化させるとかで、照明が暗いのはちょっと怖かったけど、真夏の暑い日や真冬の寒い日、カウンター業務をさぼって、あるいは日常業務にかこつけて、書庫に入り浸っていました。ごめんなさい。


 ……まさかその書庫の扉が異世界に通じてるとは思わなかったけど。

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