ここはどこ? ……たぶん書庫
さて。
現状を確認しよう。
あたしの名前は青井弥冬。十六歳。
向学舘高校二年生。帰宅部、図書委員。
家族は父・母・兄・兄。
……うん。基本的なことは覚えている。『私は誰』はナシ。
で、『ここはどこ』?
答えは、たぶん『書庫』。でも、あたしの知ってる書庫じゃないのも確か。
あたしの知ってる書庫は、スチールの書架で、床はグレーのリノリウム。蔵書はハードカバー七割、ペーパーバック(文庫名含む)三割、ってとこ。
でもここは。
固いなめらかな石敷きの床。
うっとりするような飴色の艶を放つ木製の書架。
そこに納められている蔵書は、といえば。
ペーパーバックは見当たらない。全部ハードカバー。しかも、全部革装丁(推定)。もしかしたらページも紙ではなくて羊皮紙かも?
それから、こちらに向かって歩いて来るロン毛くんの服装も、妙にクラシカルだ。
これはアレだよね。お約束のヤツ。
タイムスリップ。
または。
異世界召喚、もしくはトリップ。
念のために座り直して頬っぺたをつねってみた。地味に痛い。
うぅ。目の前に立ったロン毛くんが、かわいそうな子を見るような表情で見下ろしてる。
「……*****。**」
溜め息吐かれた。で、言葉は解らないけど、たぶん「立て」って言ってるんだろう。手を差し延べてくれてるし。
顔を上げて、ロン毛くんの表情を見返す。
……無表情。でも、怒ってるとか機嫌が悪い、とかいう雰囲気ではなさそう。
おそるおそる差し延べられた手を掴む。思ったよりも固く大きい手。
とたんに何かがぶわり、と、押し寄せて来る。だが、それも一瞬のこと。
「何、今の」
言葉が通じないのは解ってるけど、思わず口をついて出てしまった。
見上げたロン毛くんの顔に興味深げな表情がうかんでいる。さっきの『ぶわり』は、彼にとっても意外なことだった?
「##」
ロン毛くんが小さく首を振り、何事かをつぶやく。すると、辺りの風景がぱっと変わる。どこかはわからないが、とりあえず屋外のようだ。
って、今のもしかして、魔法ってヤツ?