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王立魔法学院の司書  作者:
長い一日
14/21

お食事をいただきました。……食事の時の話題は選びますよね。

「それで、そちらのお嬢さん、……ミフユさん、だっけ? どこから来たのか判らない、と?」

 人払いをしたのに食事中は当たり障りのない話題を選んでいたジルナルド殿下が、初めてあたしのことを話題に出したのは、自分がプレートを平らげてからのことだった。ちなみに話しかけた相手のエリックは、まだ食事を胃に詰め込んでいる最中だ。

「……早めに帰ってそれを調べようとしたら、引き止められたんですけどね」

 エリックが食べ物を口に運ぶ動作を一瞬だけ止めて、苦々しそうに言う。……それにしても、いつ咀嚼・嚥下してるんだろう? 休みなく口にものを運んでるけど。

 ちなみに、真正面に座った殿下の右隣にエリック、左隣にレナ魔導師長、その左にあたし、という席順だ。

 レナ魔導師長とあたしの前にはデザートの皿が用意されていて、レナ魔導師長はデザートを攻略中、あたしはまだプレート上の豆に苦戦しているところ、殿下は食後酒のグラスをもてあそんでいる。

「引き止めたから、こうやって食事にありつけてるんだろうが」

 え?

「……食料は持って行くつもりでしたよ?」

「食料があっても、調理して食わなきゃ意味ないぞ」

 ええ?

「……携帯食、倉庫にありましたよね? あれなら調理する必要はありません」

「お前のことだから、一口齧ってそのまま放置ってことが十分考えられるが」

 隣でレナ魔導師長が小さく頷いている。

 あたしはこっそりレナ魔導師長の服をかるく引っ張って、こちらに注意を向けさせた。

「エリックって、よく食事を忘れる人なの?」

「あー……食事とか睡眠を後回しにする傾向は、あるわね。実は携帯食なら、三か月は持つ量が向こうに持ち込まれてるの。たぶんどっかに埋もれてるだろうけど」

 埋もれる、という表現に、つい尻尾の大きな齧歯目の小動物を連想してしまった。文字通り地面の下に埋めてるわけではないだろうが。

「……なんでそういう人を一人暮らしさせとくんですか」

 レナ魔導師長の目が泳ぐ。

「あー……何て説明したらいいかな。んー…………場所に問題があって……世話する人を置けないのよね」

 場所に問題?

 足の踏み場もないほど散らかっている、とか?

 ……ありそうだな。

 いや。だったら片付ければいい。

 じゃあ他に理由が……

「ミーフュなら、大丈夫、かな?」

 ……彼女もあたしのことを『ミーフュ』と呼ぶことにしたらしい。ジルナルド殿下は『ミフユ』と呼ぶのに。

 いや、そこは問題じゃない。

 問題なのは、『ミフユ(あたし)なら大丈夫』な理由でしょう。

「……ところで、ミフユ嬢の要望は?」

 エリックの食事事情についての不毛なやりとりに決着がついたのか、不意にジルナルド殿下があたしに話を振ってきた。

「えーと、要望、ですか……」

 この服歩きにくくてなんとかしてほしい、とか、スマホがなくて不便、とか……

 ……スマホ、こっちで役に立つかな? 電池切れしたらただのちょっと厚いガラス板だし。

 向こうの状況、どうなってるんだろ?

 目の前でいなくなったから、きっとみんな心配してる。

「要望というか、向こうの状況が判らないかな、とか、向こうから物を持ってこれないかな、とか。」

 なんか大それた要望に聞こえてきたぞ。

「……でも、それができるなら、あたしを帰すこともできるはずですよね? ……だから、一番の要望は、『あたしを帰してください』です。……帰れる目処が立つまで何十年もかかるなら、ちょっと考えてしまいますが」

 思わず本音が漏れる。

 エリックは、あたしが『引きずり込まれた』と言った。それは彼の使い魔(推定)の仕業で、どうやって、も、どこから、も、彼には判らない、と。つまり、現時点で帰還が叶う見込みは、ない。

 でも。

「……いえ、やっぱり、帰りたい、です」

 エリックは『本の整理をする手伝いが欲しい』とこぼしたから、あたしが引きずり込まれた、と言った。

 逆に言えば、本の整理が終わったら、お役御免になって帰してもらえるんじゃなかろうか。

 判断するのが誰なのか判らないけど。

「何年かかってもいいです。帰してください。……お願いします」

 目の前のプレートがぼやけて見え、目に涙がたまっているのだと自覚した。

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