偉そうな人に会いました。……で、この人は何者ですか?
「だって君、不審者には容赦なかったじゃないか。命さえあればいい、傷なら後で治せばいいからって、大量の礫を飛ばしたり、火の粉ぶちまけたりしてさ」
けっこう過激だな、エリック。怒らせないようにした方が、いいかな?
「あと、服が破けちゃうのは、目的じゃなくて結果。変な趣味持ってるような言い回ししないでほしいな」
いったい何をやっていて『服が破けちゃう』ような結果に。ああ、ツッコみたいけど、ツッコんだら聞いてはいけない答えが返ってきそうな……
「あなた、人をいたぶって喜ぶ、というあまり芳しからぬ趣味をお持ちでしょうが。これを変な趣味とは言わないだなどとは言いませんよね?」
……ここまでのやり取りから鑑みると、たぶん、いたぶられる対象は、主にエリックなんだろうな。……『ぶんげーぶのをとめたち』がここにいたら、涎垂らして喜びそうだな、この二人。美丈夫はおっさんでも美形だし、エリックも……そこそこ整った顔だ。人種が違うのでそう見えるだけかもしれないけど、『をとめ』の『腐女子フィルター』を通せば美形度なんか天井なしに上げられるからな。
などと意識を飛ばしていたら、ひとしきり言い合いは終わったようだ。
「……で、この落とし物の彼女をどうしたいんだい?」
美丈夫があたしの頭を撫でる。もしかしなくてもコドモだと思ってるようだ。最初に感じたよりも、もっと年少の。
「とりあえずは、今夜の寝床と食事を。……あと、着替えも要るか」
言いながらあたしの頭から美丈夫の手を剥がす。
いろいろとお手数をかけます。
「とりあえず、でいいんだ?」
「……そうですね。彼女が帰還を望んでいるようなので」
「わかった」
短く応えると、机の上に伏せてあったベルを鳴らす。すると、あたしたちの後ろのドアが開いて、侍従っぽい格好(灰茶色の縁取りのあるローブでベルトにいろいろぶら下がってる)の人が入って来た。
「魔導師長を呼んでくれ。あと、この子を今夜泊めるから、部屋と夕食の用意を」
魔導師長、という言葉に、エリックの肩がぴくりと震える。……エリックが『前魔導師長』って呼ばれてたから、彼の後釜、ってことだよね。なんでそう警戒するんだろう?
「では、私は戻ってこの子を呼んだ魔法の解析をするので」
口早にそう言って、侍従(推定)の人に続いて部屋を出ていこうとする。
ちょ、置き去りするなら、せめて紹介くらいしてって!
同じことを思ったらしい美丈夫が、エリックの肩を掴んで引き止める。
「ちょっと待て。せめてこの子の名前くらい聞きたいんだが?」
「名前? ……ああそういえば紹介がまだでしたね。殿下が余計な茶々を入れてくださったおかげで」
ひいい! エリックの口調がなんか黒い!
っていうか、今『殿下』って言ったよね。変換ミスでなければ、この人って、やっぱり、王族?
いや、待て。『陛下』だの『猊下』だののところでないだけマシだと思え自分。だって『殿下』なら、国に何人もいるもの!
「ミーフュ、こちらは女王陛下の****をなさっている、ジルナルド殿下」
女王陛下の、何、だって? よく聞こえなかったぞ。該当する役職がないのかな?
「先王陛下の第七? 第八? 王子であらせられました。で、王子、こちらが異世界から落ちてこられた青井弥冬嬢。……これで紹介はよろしいでしょう?」
簡単すぎる説明でその場を逃れようとするエリックの袖を掴む。
「よろしくありません! ジルナルド殿下は、女王陛下の何をなさっているんでしょうか!? 聞き取れなかったんですけどっ」
それに王子が何番目かも曖昧に流したよね?
七番目とか八番目とかって、何か微妙でどうでもよさそうな順番っぽいけど。