プロローグ
男は途方に暮れていた。
日々増え続ける蔵書に。
いや、送りつけられる資料たちに。
「うちは王宮の資料倉庫じゃないんだけどな。王宮への直通転送陣なんか作るんじゃなかった」
たしかに、ここに引きこもる際、「魔法関連の資料があったら、送ってくれ」とは言った。自分の私有物はあらかた引き上げてきたし、引き取り手のない魔道書も少し引き取った。だが、学校を開くには、明らかに資材が足りない。それゆえの申し入れだったのだが。
そもそも、
「『王立』を名乗るなら、最低でも三十人、いや、五十人は教えられるだけの体制を準備しないとな。資金はこっちが持つから心配するな」
という無茶ぶりをされたのは、付き合いの長い元摂政殿の方からだ。
こちらとしては無理に『王立』を名乗らなくてもよかったのだが、『王立魔法学院』の創設を引き受けないと引きこもらせてもらえなかったのだからしかたがない。
「……とりあえず、蔵書整理の人での目処が立つまで、資料送るのはやめてくれるよう申し入れないとな。このままじゃ、寝る場所もなくなる」
男は、書籍や巻紙で埋め尽くされた室内を眺めまわして溜め息を吐いた。